まずは返却棚をみてみよう
図書館に行ったら、まずはどこに向かうだろうか。
私は返却棚だ。
借りていた本をカウンターでピッとしてもらった後に本を置きに行くあの棚。
返却時は当たり前だが、返却する本がない時にも、私はまず、返却棚へ行く。
返却棚を見ると、このまちの中にはこんな小説を読んでいた人がいるんだなぁ、こんな資格取得を目指している人がいるんだなぁと、顔も知らない同じまちの頭の中を垣間見るような、知的な温度を感じることができるような、そんな気がしてなんだか楽しい。
そのラインナップからいろいろと想像を掻き立てられて、ちょっとしたミステリ的要素もある。
実際に返却棚の中からビビッとくる本を発見して借りることも多いし、気になった本は座席に持って行ってパラパラと閲覧してみたりする。
私は自分で何かを選んだり決めたりすることがちょっと苦手で、だけど身近な人やネットの情報に流されて決めるのもなんだか嫌で、そうした時に自分とは全然関係のない知らない人から「何らかの偶然」をもらいたくなるのかもしれない。
カラオケに行った時も、まずは「りれき」を見て歌う曲を物色する行動とも通じる。
「りれき」は、かなり偏っていて面白く、いろんな妄想が捗ってしまう。
「この人、井上陽水の傘がないを連続3回歌ってる…(ゴクリ)」などと楽しんでいるうちに、うっかり歌を歌わず時間をロスしてしまったりするから危険である。
さて、閑話休題。
先週末の返却棚もおもしろかったので、少しだけ紹介したい。
私のまちは兵庫県の海側なので、図書館の目立つ位置に阪神・淡路大震災関連の本が多く並ぶ。郷土史にまつわる書籍においては、自ずと震災を避けては通れない。
この日の返却棚にも、たとえばこんな本が並んでいた。
⚫︎猫と一緒に生き延びる防災BOOK
⚫︎震災後のエスノグラフィ――「阪神大震災を記録しつづける会」のアクションリサーチ
⚫︎神戸の地盤と阪神大震災
他にも多く災害関連の本が返却棚にあり、よく考えると先週末といえば8月末で、つまりその2週間前は地震臨時情報が出ていた時期である。
さまざまな情報が錯綜し、国内が不安の空気に侵食される中、過去の出来事や体験者の声から何かを学ぼうと図書館に足を運んだ人がいたのだろうか。
そうした形跡から「正しく畏れる」ということを考えさせられる。
このまちは、先人がたくさんいるまちだ。
返却棚は時世をよく表している。
他にもこんな本が。
⚫︎喪主ハンドブック
⚫︎家族葬ハンドブック
身近な家族を亡くすときって、哀しむ前にやらねばならぬ、だけど分からないことが多すぎるよなぁと思う。
この本を借りていた人が、もしそんな状況であったなら、怒涛の日々を切り抜け返却棚に本を置いた時、ようやく哀しみと向き合える時間を過ごせていたらいいなと勝手に思う。
あとおもしろかったのは
⚫︎虫のぬけがら図鑑
⚫︎ニッポンのヘンな虫たち
虫好きが高じて、横道に入った人がいるのか。
そんな棚に、私は借りていた
⚫︎限りなく透明に近いブルー(村上龍)
⚫︎パークライフ(吉田修一)
を返却した。
これを見た人が「さては芥川賞受賞作を改めて読み直すブームがきている人がいるとみた…!」と推理してくれればビンゴである。
ちなみにカラオケでは気分が乗ってくると中島みゆきの初期の暗い歌ばかり歌うので、途に倒れて誰かの名を呼び続けたことがあるような、夜咲くアザミ嬢が来たのだろうか…と思いを馳せる人がいるかもしれないが、それは完全なる邪推である。