40年ぶりの谷中で甘味
旧友と不定期で行っている、建築巡りという名目の、暇つぶし。
今回は、谷中散歩からの朝倉彫塑館と花重リノベーション、からの谷中霊園。
40年前、この界隈に友達が住んでいて、大学からの帰りはだいたい日暮里駅前のムラサキで呑み、谷中霊園の脇を抜けて友達の家に泊まるのがお決まりのコースだった。無気力で怠惰な学生だったなぁ。
その家もおそらく今はもうなく、そこに至る道もすっかり忘れてしまったが、彫塑館までの道を歩いていて、たぶんこの先だったと思い出した。
彫刻家朝倉文夫が自ら設計したアトリエ兼住居だった建物を、1967年にご遺族が本人の遺志に基づき公開し、1986年に台東区に移管され、現在に至る。
つまり、学生当時僕は、何度もその前を歩いていながら、通り過ぎていたわけだ。これほどの秀作を。建築学科の学生だったくせに。(まあ歩いていたのはほぼほぼ夜だが、、)
後悔先に立たずと思うくらい、趣味に溢れ、見ごたえのある空間だった。
(若い僕が見ていたら何を思ったか。何も思わなかったかもしれない、、アホだったから)
常軌を逸したレベルの熱量で、時間をかけて、推敲を重ねて、作り上げたのだろう。
当時では珍しいRC造3階建て(しかも屋上庭園)と、贅の限りを尽くしたであろう木造の2階建て日本家屋をガチャンと接続してロの字をつくり、中央に池を設け、そこここに作品を配している。
誘ってくれた旧友は、内部で放映されている紹介ビデオも熱心に見ていた。
その頃僕は、木造2階の続き和室で、眼下の中庭を眺めながら、まったりしていた(^^;)
(この辺の違いが、社会人としての成長度をはっきりと分けた遠因だろうか、、)
正直、彫刻のことはよくわからないのだが、道路から仰ぎ見ることができる屋上先端の彫刻は、「砲丸」という作品らしい(砲丸選手の彫刻)。
その砲丸とは反対側、池を囲んだ木造家屋のさらにその先、方形屋根の頂きにも、天を見つめる彫刻が鎮座している。調べたら、建物は旧アトリエ(非公開)で作品名は「浴光」。方形の最上部ゆえにその姿がとても鮮烈で、建物の特別性を象徴していた。
館内の撮影には制限があり、一部の指定場所と外部空間からの撮影だけが許されている。(作品の接写は不可)
なので、残念ながら写真に収めることは叶わなかったが、羨望の内部空間の連続だった。
アトリエに隣接する本に囲まれた書斎も、その先の庭を愛でる全面ガラス戸の渡り廊下も、中庭越しに見える茶室も、羨ましい限りだ。
家のどこにいても中庭と池が眺められる。そして屋内から眺める池の向こうに家の一部が見えるという贅沢。
池の中に置かれた大きな石さえ、まるで一人掛けソファのような(ちょっとYogiboのような)形状で、半日くらい座っていたくなるくらいの気持ちにさせる。
西側道路ということもあるだろうが、方位的には3階建てのアトリエが西側で、その北東から東側にかけて2階建ての住居部分が配置されているので、上手い具合に住居側に西日は当たらない。仮に差し込んだとしても中庭の樹木が木漏れ日に変えてくれるだろう。
普請道楽の末の終の住まいらしいから、この土地のことも十分に理解し、よくよく考え抜いて建てたに違いないけれど、いったい幾ら掛かったのだろうと、すぐ金のことに気が向いてしまうのは下世話な人間の証拠だ。
予想以上に時間をかけ、気づけば2時間が過ぎていた。
日が高いうちに後にして、霊園脇をプラプラと歩く。
40年ぶりの谷中の道が、楽しい。
古い街を、古さを残したまま、ゆっくりとした速度で変化させてきていると思える風景が、心地よい。
点在しているお店の密度、街と共にある風情が、丁度良い。
家を探している娘に、「谷中に住んだら?」と、ふと言いそうになるくらい。(もちろん言わないけど。さみしくなるから)
先月学生時代の集まりがあった時、谷中もずいぶんおしゃれになったよと、葛飾に住んでいた友達が言っていたが、なるほどその通りだ。
かつて通行人は、ほぼ地元の人と谷中霊園に向かう人だけだったろう通りには、美味しそうなお店がちらほら立ち並び、観光客らしき外国の方々とも頻繁にすれ違った。休日だったらもっと混んでいたのかな。
かく言う僕たちも、その美味しそうなお店に向かう途上であったのだが、、、。
霊園に寄り添う歴史ある花屋さんが、その家屋を極力残しながら存続を試みた改装事例。
花屋さんの奥に設けられたカフェの、さらにその奥がテラス席で、ここに母屋と呼応するように、細い鉄骨材を家型フォルムに組み上げた外部空間がある。(カフェは、花重谷中茶屋というらしい)
フレームは、60mm角の鉄骨無垢材という、あまり見ない材料。
その柱梁の仕口(接合部のこと)があまりに見事で見とれていたら、写真撮るのをすっかり忘れてしまった。
全体的にいい具合に錆びている。その錆具合と、長い年月を耐えてきた歴史ある母屋の木造との相性、溶け合い方が秀逸で、フレームと庭の緑との交差も全く違和感がない。
そして何より、コーヒーとパフェが美味しかった(^^)
おかわりしたいほどだったが、流石にそれはぐっと耐えた。
友人は、ホットコーヒーと焼き芋なんとか、、。忘れてしまった。
おっさん(というか爺さん)二人で、小さなテーブルに向かい合ってパフェを喰うという暴挙。
男性客は僕らだけ。ひとりだけだったらちょっと勇気がいる。
と言いながら、爺さん二人はどうなんだ?
そろそろ夕方にさしかかる時間、霊園の中を散策し、折角来たからと慶喜公の墓所を訪ね、葵の御紋の門の外から手を合わせ、少し霊園内を迷いながら、出れるところから出たら、なんのことはない、さきほどの花重さんの斜向かいに出た。このまま桜通りをとぼとぼ進み、道伝いに歩き続けたら、行きに通った道とは左右逆の坂道から日暮里駅にたどり着いて、ここでお開き。
このまま呑みに行くこともなく、早々に家路についたおじいちゃん二人でした。
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