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【こんな映画でした】434.[陸軍]

2021年11月 2日 (火曜) [陸軍](1944年 日本 87分)

 木下恵介監督作品。劇場公開が同年12月7日とのこと。よくもまあこんな時期に作れたものだ。所詮、国策映画であり、戦地と銃後とでは違うと言うことの典型的な例であろう。ラストシーンは出征する息子の行進を追いかけ、最後は立ち止まって胸に両手を合わせて祈るショットで終わる。

 これでは戦意昂揚映画にはちょっとなりにくいかな、と。案の定、政府側からは不評であったそうだ。中味的には天皇賛美と国にご奉公といった感じにしてあるが、究極的には反戦映画と見ることもできるだろう。

 それにしても明治維新以来の数十年で、完全に天皇制が人々を支配してしまっていることに驚かされる。教育の成果と言うべきか、はたまた日本人というのがそういう性向があったからなのか。

 ただそのような天皇賛美の愛国心や天皇のために死ぬという考えは、一方でかなり建前的なものであったということも事実だろう。しかし周囲の同調圧力によって、そのような思いは粉砕され、特に若者たちは洗脳されてしまってある意味喜んで戦地へ向かうということにもなったのだろう。時代がそこまで行ってしまうと、もう後戻りできない怖さがある。不幸な時代であった。

 監督も俳優たちもこのような風潮の元で、このような映画の製作に唯々諾々と従うしかなかったであろう。反抗すればたちまち食べていけなくなったはずだ。私たちの恐怖の第一は、食べられないことだから。

 田中絹代をしみじみと見たが、撮影当時34歳でやはり若さが目に付く。最終的には40歳前後の役柄であったろう。笠智衆(撮影当時39歳)はこの映画を見て、つくづく演技は下手だなと私でも感じた。それも意図的な彼の演技であったかもしれないが。もちろんそこがいいから起用されているのだろう。

 原作は火野葦平の『軍国の母』とのこと。気がつかなかったが俳優では有名な人たちが出ている。杉村春子・上原謙・東野英治郎・佐分利信・佐野周二。

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