青より出でて、青より蒼い色よ
こんばんは、如月伊澄です。
【瑠璃色よりも瑠璃色な】
皆様は「ウルトラマリンブルー」という色を知っているでしょうか?
なんとこの色、宝石の「ラピスラズリ(瑠璃)」を原料としてつくられた色なんです。宝石を原料にしているので、めちゃくちゃ高価な顔料になります。
この色を使った有名な美術品があるのですが、ご存じですか?
一時、有名になったあの絵ですよ。
【ところで】
美術の話でよく出てくる「顔料」ってなんでしょう?
宝石を原料に、とのことですが、宝石を砕いても伸ばしても絵具にはならないですよね?
よくわからないので、職場の絵を描く人に聞いてきました。
簡単に言えば、顔料はあくまで「色」をつけるものであって、油のような無色透明な溶剤に溶かすことで、絵具を作っているそうです。
とりあえず、ここまで教えてもらいました。
さて、このウルトラマリンブルーで有名な絵画というのは、フェルメールの「真珠の髪飾りの女」。
青いターバンが印象的で、白い真珠よりターバンにまず目が行きますが、この青に「ウルトラマリンブルー」が使われているそうです。
ちなみにこのウルトラマリンの原料であるラピスラズリ、この時代では遙か海を越えたアフガニスタンでしか取れなかったので、”海を越えて渡ってきた青”=ウルトラマリンブルーという意味らしく、めちゃくちゃ高価なものでした。当時の価値でいうと「黄金」くらい。
そう考えると、経歴からとんでもない絵なんですね。ついに物理的に価値のある絵がでてきたぞ。
【ところが】
さて、ここでクイズです。
この絵、値段をつけるとすればどのくらいの価値になるでしょうか?
現代の価値で言えば100億や150億と、とんでもない金額がつくそうです。
さすが名画。
ところで、こちらの絵、実は1881年にオーディションに出されています。
タイトルが”ところが”な時点でなんとなく察することができると思いますが、この際の落札金額、なんと今の日本円にして1万円程度。おい、名画。
これには理由がありまして、世の中何事も盛者必衰。これまで取り上げてきた画家達と違って、フェルメールは存命当時から強いパトロンがいて、それが「ウルトラマリン」につながっているわけですね。黄金級に高い絵の具を使えたのも、このパトロンと人気のおかげ。
しかし、途中でパトロンは亡くなり、戦争が始まったことで、世間は芸術どころではなくなります。結果、絵も売れなくなり、晩年はジリ貧生活へ。
フェルメールブランドもいつしか露と消えてしまい、オークション当時、この絵はボロボロのツギハギ(上からニスが塗ってあったり、別人が書き足したり)になっていたことで、この評価となった、といわれています。
フェルメールほどの画家であっても、芸術で最期まで食っていくことは難しかったのですね。
ちなみに今は修復されて、当時の美しい姿が復元されていますよ。
【さてはて】
では、この絵に描かれた女性は誰なのでしょう?
モナ・リザのように、誰かの愛妻でしょうか?それとも、モデルとなった女性?
これには様々な説があり、フェルメール自身の奥さんや娘、あるいはお手伝いさんでは?と言われています。
さらに、もう一つ面白い説があって。
彼女は「非実在の人物」ではないか?という説です。
「海を越えて渡ってきた青」といい、今回はどこかファンタジックですね。
これは「トローニー」と呼ばれる「モデルのいない肖像画」ではないか。
この説の裏付けとして、彼女にはある部分が欠けているのですが、どこかわかりますか?よーく顔の辺りを見てくださいね。
そう、彼女には「眉毛」がないのです。
たしかにー!ってなりますよね。
実際の人物を描いたのであれば、眉毛までしっかり描いていたはず。
不特定の人物を描いたトローニーだから、眉毛を描いていないのではないか?というのが、この説の根拠です。
フェルメールは言葉を残していないので、すべては憶測の域を出ません。それもまた、歴史のロマンですね。
ということで、「白い真珠の少女」、あるいは「青いターバンの少女」でした。これで間違い探しでも、ターバンの色を間違えないね!
参考文献 著 山上 やすお「死ぬまでに観に行きたい 世界の有名美術を1冊でめぐる旅」 2023 ダイヤモンド社