シェア
静 霧一/小説
2021年8月9日 21:25
健康診断の帰り道。渋谷駅から少しばかり離れた場所に足を進める。喧噪の街並みの音が次第に消えていき、古い民家を吹き抜ける風の音が、昔ながらの趣の音を心地よく鳴らしている。そんな宮益坂の路地裏にひっそりと佇むのが、珈琲店『茶亭 羽當』である。①茶亭 羽當1989年9月に渋谷の宮益坂下に誕生した『茶亭 羽當』は、30年以上営む老舗の珈琲店だ。昔ながらの趣をそのまま閉じ込めたようなお店からは
2021年6月25日 20:33
檸檬の甘酸っぱい香りが漂う。私はどうも、恋をしたようであった。◆とある平日の午後のこと。ふらりと外を散歩していると、洋菓子屋の前に行きついた。こんなお店、前からあっただろうか。私はおぼろげな記憶を思い返してみる。確か、ここには定食屋があった。老夫婦が営む、古い定食屋。居ぬき物件ということもあり、店外の様子は、ぼんやりとであるがあの定食屋の残像がある。私は、その懐かしさ