なにぶん嘘日記1/7『映画感想など』
年が明けてもう七日。
居候のこびとは元気。 うぇーい ٩(๑•ㅂ•)۶
しかし三日には、私の心を反映するかのように洗濯機が壊れた。
うぅぅ… (ノД`)・゜・。
洗濯機ひとつ壊れたくらいなによ…とも思うものの、手洗いはやはり大変。洗濯機さんのありがたみが身に沁みる。
「居候なんだから洗濯手伝ったらー」
と、こびとに向かって言ってみるが
「猫の手よりちっちゃいからムリ」
などと言い逃れる。実際そうだけど。
ちなみに、こびとのパンツは指先で洗えるが、うっかり排水溝に流してしまって泣かれた。
…さて、家主は心の平和を保つために平和な映画を見ているが、その中にものすごい掘り出し物を発見!
それが、
ファンタジーかと思いきや、なんと実話。(以下、ネタバレあり)
19世紀後半。フランスの田舎町に暮らす内気な郵便配達員シュヴァルは、配達の途中に石に躓いて転ぶ。この時躓いた石の造形が天啓をもたらし、建築の知識もないまま、彼は幼い娘のために『宮殿』を創り始める。素材は配達の途中で見つける自然の石たち。
ヘンテコな城などと村人から揶揄されながらも33年の月日をかけて、ぷちサグラダファミリアのような宮殿を彼は完成させる。毎日10時間32キロもの行程を歩いて手紙を配達するような過酷な労働をしながら、である。
しかも33年の間には、家族を失うような悲しい出来事もたくさんあり、その度に絶望の淵に追いやられ、死ぬほどの辛さをあじわいながらも彼は宮殿を創り続ける……。
寡黙で少し変わり者で、想いを口にすることが下手なシュヴァル。そんな彼の心の美しさを見抜き、彼を支え続ける妻。父親と、その宮殿を愛してくれる娘。でも彼らも……
主役のシュヴァル役の方をはじめ、俳優さんたちの繊細な演技・表情が非常に素晴らしく、映画をよりリアルなものにしている。
人生をかけて石ころを積み上げ宮殿を作る。
この行為になんの意味があるのだろう。
シュヴァルはなにも狙っていない。お金も賞賛も名誉もなにも。それでも創り続ける。(後々、それらは勝手に付いてきたけれど)
娘への愛?それだけでもない気さえする。
ただ、彼は天啓を受けたのだ。『宮殿を創る』という。彼はただ黙々と創り続ける。人からどう言われようと。ただ為すべきことを為す。澄んだ瞳のままで…。
人生の意味、使命。なにそれ?と思わせられる。
使命なんて知らなくても、意味も目的もわからなくても、やらずにいられないことがある。
その結果、こんなにも美しいものが生まれることもある…。
「いい映画だった…」
観終わって、しみじみと涙を拭っていると、こびとが近づいてくる。
お気に入りの座頭市じゃなかったから昼寝していたらしい。
「ikuちゃん、泣いてる?」
「とてもいい映画だったからね」
「ふぅん。美味しいもの出てきた?」
「質素なスープだけ」
それでもいい映画ならスゴイねー、とこびとは評価した。
なにその評価基準。
「こびとには生きる目的とかあるの?今年の目標とか」
私は聞いてみた。
「そんなものはもたなくてもいい」
簡潔なお答え、ありがとう。
でも実は私もそう思う。もちろん目標をもってがんばる人も好きだ。
でも私自身はシュヴァルのように目の前のことにコツコツとただ取り組むのが好き。今こうして日記を書いているように。
そうか……
『いい映画』とか『いいお話』と感じる時、それはすでに自分の心の中で肯定していることが表現されているからそう感じるのだな…。
「世界は美しいね…」
ふと、そんな言葉がこぼれる。
「そんなの、あたりまえー」
こびとは、ぷーと鼻をならす。
「甘酒はあまくて美味しいし、干し芋は焼くとあまくて美味しいのじゃ!」
はいはい、食べたいのね。
暖かい場所で美味しいものを食べられることに微かな痛みを感じながら、それでも私はこびとのために甘酒と干し芋を準備する。
出来たものをこびとの前に置くと、しかしこびとはいつになく神妙な面持ちで、ちいさな手を合わせてポツリと言った。
「これはあたりまえじゃないけどね」
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※更新はきまぐれです。また、コメントいただいた場合、返信は居候の小人にさせますので失礼がありました場合はご容赦くださいませ。(だいたい「うぇーい」とか言って言葉使いもテキトーです)
※私の日記は表題通り『なにぶん嘘日記』です。百パーセント真実ではなく、半分、あるいは三分とか八分とかの嘘、すなわちフィクションが含まれるという意味と、「なにぶん嘘もありますのでどうぞよろしく」という意味の両方が含まれております。