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今さらだけど【創作大賞2024】感想文〜福島太郎さん『銀山町 妖精奇譚』

福島太郎さんが創作大賞に応募された『銀山町 妖精奇譚(フェアリーテイル)』を拝読。「読者応援」の締切りはとっくに過ぎていて、全く役に立たず、申し訳ない限りですm(_ _)m

レビューどころか、読書感想文を書くのも久しぶりで、ちょっと緊張しています。

ちなみに、私はかつて小説を書いていましたが、ここ数年は書くどころか、読むことすらまれになっていたりします。また基本的に分かりやすいエンタメ系、ライトノベル系が好きで、自分が書く作品もそういう傾向でした。そうした傾向にある者の感想であることを、ご了承いただければ幸いです。


福島太郎さんの膨大な作品のすべてを読破したわけではないので(読むのが追いつかないです💦)、勘違いがあったら申し訳ないのだが、個人的に太郎さんの作品……特にSSの魅力は「読後感のよさ」と「客観的かつ愛ある視点」「いい意味での軽妙さ」かなと思っている。

とにかくどの作品も読後感がよい。なんとなくニコニコしたり、ニンマリしちゃったり、しみじみさせられたり。ちょっと感傷的な気分になる作品も、未来へのほのかな明るさが感じられて、主人公を応援したくなる。

基本的に神の視点から描かれた「客観的かつ愛ある視点」もいい。一人称で心情を語りすぎない(語りすぎる傾向のある者としては、うらやましい限り)、登場人物にどっぷり入り込まない感じ。
どっぷりした心情描写が少ないぶん、こちらが勝手に「これって、こういうことだよね?」と勝手に想像(妄想ともいう)できる。そういう余地を残してくれている。もしかしたら、それが読後感のよさにつながっているのかもしれない。

作者と登場人物との間に適度な距離感がある。それなのに、作者の登場人物に対する愛が伝わってくる。主人公はもちろん、全キャラクターに「かわいらしさ」があり、「あー、こーゆー人っているよねえ」と、またまたニンマリ。心地よい。

そこが作者のSSの魅力だと思うが、今作は中盤までなかなか作品の世界に入り込めなかった。

冷めているようで、生意気なようでいて、結構仕事ができる男だったりする田中さんは、役場職員や町民たちとのふれあいの中で、少しずつ役場職員として成長していくのだが、前半はなかなか人物像がつかめなかった。
エピローグで田中さんの背景を知り、はじめて「なるほど、そうだったんだ」と腑に落ちた。このへんの田中さんの背景を少しだけでも、前半に反映してもよかったような気がする。

先輩の高橋さんも、もう少しエピソードがあってもよかったかも? 郷田さんとの交流とか、家族とか。

しかし、反町長派の半沢さんとジェニファー先生のくだりから、ぐんぐん引き込まれて、後半は一気読みしてしまった。

これは恋愛という要素があったからというより、半沢さんというキャラクターが魅力的だったからだと思う。人間的で、感情移入しやすかった。
反町長派の急先鋒なのに、ジェニファー先生を見た瞬間、ぐらりときちゃう半沢さんは、実にかわいらしい。「半沢さんったら、もしかして…?」とニヤニヤしたくなる。
その後の予想通りの展開も「そうこなくちゃ!」いう感じで、読んでいて気持ちいい。特にいきなりの「ジェーン」呼びには、笑ってしまった。

銀山町の「妖精の住むふるさと事業」は、ヨソモノの田中さんの提案で、反町長派を巻き込み、稲村教授を巻き込んで、おそらく町役場職員の誰もが想像もしなかった事業へと展開していく。
土地や展示品の問題も、みなが知恵とアイディアを出し合い、協力しあって解決していく。このへんの展開は、読んでいて、スカッとする。昔、NHKで放送していた『プロジェクトX』的な快感がある。それでいて、ドラマティックに盛り上げ過ぎない、淡々とした筆致がいいなあ(うらやましいです)。

さらに稲村教授のエピソードで、彼女がなぜ、コレクションを無償で提供したかの謎を解明しつつ、プロローグの伏線を回収。なんとなく予想はしていたけれど、「ああ、やっぱりそうだよね」という心地よさ、安心感があった。

しかし、田中さんと須藤さんのエピソードは、まったく予想できなかった! なんとなく「須藤さんの書き方が好意的だなあ」と思っていたら、そうなるとは…! 

本編最後の「そう来たか!」という展開にはうなったし、楽しませていただいた。そして、作者の「妖精の住むふるさと事業」に対する思い入れを感じた。田中さんの同業者である作者は、おそらくわたしたち以上にこの事業の大変さやすばらしさ、醍醐味やエネルギーのようなものを肌で感じたのではないかと、勝手に想像。

外伝の渡部さんのエピソードは、作者のSSの魅力がいかんなく発揮された作品。語り過ぎない、入り込み過ぎない感じがよい。周囲からちょっと生あたたかい目で見られている「筋トレマニアの渡部くん」の筋トレの理由がわかった瞬間、じんわりして、心があたたかくなる。

作者のページにもコメントを入れさせていただいたけれど、どの自治体のまちおこし、まちづくりにもドラマがある。というか、ドラマそのものだと思う(人と人が関わり、協力し合って、事業を成し遂げるのだから、当然といえば当然か)

作者の次作はエンタメ系とうかがっているが、同業者ならではの視点から描かれた「まちおこし」「まちづくり」作品をもっと読んでみたくなりました。そういえば、未読の長編がまだあった。まだ読んでいない作品世界にふれる喜びをこれから味わいたいと思います。

最後に個人的に…
太郎さんの作品を読んでいると、「わたしも創作でまちの魅力を発信したい!」という気持ちになる。

小説やマンガなど創作する人たちが、地元を舞台にした作品をどんどん書いて、noteに投稿して、まちの魅力を発信していく……そういう活動が新しいまちづくりにつながったらいいなあと、ぼんやり妄想中…。

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