クッキーに隠された心理の罠〜好感の原理が揺らす、日常の甘い誘惑〜
こんにちは!
みなさんは周りに勧められるとつい買ってしまうと言う方はいますか?今回はそんなリキング効果のストーリーをお楽しみ下さい!
今回のテーマ
リキング効果 (Liking Principle)
好感を持っている人の影響を受けやすいです。信頼関係の構築が重要と言う理論。
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そのクッキーには秘密が……
薄曇りの夕方。ユキちゃんは自分の部屋で、まだ食べきれていないクッキーの箱を抱え込んでいた。彼女が住んでいる小さなワンルームマンションは、駅から少し離れた下町にあり、どこか昭和の名残を感じさせる街角に位置している。廊下の蛍光灯は少し古びていて、階段の鉄柵はところどころ錆びついている。それでも、近所には昔からの和菓子屋や喫茶店が軒を並べ、休日にはゆったりとした時間が流れる。そんな場所で、ユキちゃんは社会人2年目の忙しない日々を送りつつ、元・伝説のマーケッターである「ウサギ先生」と奇妙な同居生活を営んでいた。
半年ほど前、闇の組織に巻き込まれてウサギの姿に変えられてしまった彼の世話をすることになったユキちゃんは、毎日の仕事帰り、何やらブツブツと学術的な独り言を呟くウサギ先生に「ただいま」を告げる生活にすっかり慣れていた。部屋の隅にはフワフワのクッションと小さな低い机、その上でコロコロ転がるようにくつろぐウサギ先生の背中。帰ってきたユキちゃんを見上げる彼のピンク色の鼻先と揺れる耳は、いまだに夢のような光景だった。
「先生、ただいま。えへへ、また買っちゃったよ、このクッキー。」
ユキちゃんは笑顔でビニール袋から紙箱を取り出し、そのパッケージを指でトントンと叩いた。箱には愛らしいキャラクターが描かれている。このクッキーは会社の先輩が「これ、すごく美味しいから食べてみて!」と勧めてきたもので、思わず大量購入してしまった。しかし、自分だけで食べるには量が多すぎる。おっちょこちょいな性分だな、と少し反省しつつ、彼女はウサギ先生におすそ分けすることにした。
「ふむ、これは……」
ウサギ先生は半月型の目を細め、箱の表面をじっと見つめる。その表情は、まるで世間の裏側を見通しているかのようだった。
「どうかしたの、先生?」
ユキちゃんは首を傾げる。いつもならすぐに薀蓄を語り出す先生が、やけに沈黙している。それにしても、可愛い包装だ。ほんのり懐かしい色使いは子どもの頃、駄菓子屋で見かけた商品を思い起こさせる。
「ユキちゃん、このクッキー、ただの菓子じゃないよ。」
ウサギ先生はヒゲをピンと立て、どこか満足げな笑みを浮かべる。「この売り方が実に巧妙だ。君は『好感の原理』という言葉を知っているかな?」
「好感の原理……?」
ユキちゃんは首をかしげる。マーケティングの知識に乏しい彼女にとって、それは全く馴染みのない専門用語だった。社会人2年目で、最近小さな販促プロジェクトを任されたばかりとはいえ、正直、何から手をつけていいのかさえわからない状態だった。
「うーん、先生、わたしまだマーケの基本すら怪しいんですけど……。『好感の原理』って何ですか?」
クッキーを一口齧りながら、ユキちゃんは目を丸くする。サクサクとした生地が口の中で溶け、鼻腔にはふんわり甘い香り。味は申し分ないが、それがどう“巧妙”なのか見当もつかない。
「ヒントだけ言おう。」
ウサギ先生はわざと含みを持たせるように、短く笑う。「誰かに薦められたものを、つい良いと感じてしまうこと。人は好感を抱いた相手や、信頼する存在からの情報を、とても素直に受け入れてしまうものなんだよ。」
「へえ……確かに、先輩が『美味しい』って言ったから何の疑いもなく信じちゃったなぁ。」
ユキちゃんは素直に頷く。思い返せば、その先輩は仕事でも面倒見が良く、同僚たちからも評判がいい女性だ。彼女に薦められたら、そりゃ疑わずに買ってしまうのも仕方がない気がする。
「このクッキーが君の手元にやってきた経緯を、もう一度振り返ってごらん。誰が薦め、どんな表情だったか。それを見た君はどう感じ、そしてなぜ大量に買ってしまったのか。」
ウサギ先生は背中を丸めながら、軽く耳をピコピコと揺らす。その仕草は可愛らしいが、言葉は彼の鋭い知見を物語っていた。「これもマーケティングの一手法でね、消費者が商品を好ましく思う仕掛けが盛り込まれている。まさに『好感の原理』。さあ、ここから学んでみようじゃないか。」
「学ぶ……えっ、私、今ちょうど会社で販促プロジェクトやってるんです!どうやったら、その……好感の原理ってやつを活かせるんでしょう?先生、教えてください!」
ユキちゃんは身を乗り出す。いつもならぼんやりと流してしまうような話も、いざ自分の仕事につながるとなると真剣になる。それでも、彼女には何から始めてよいのかさっぱりわからない。
「焦らず、まずは原理を理解することだ。」
ウサギ先生はポリポリと前足で顎を掻き、少し得意げな表情になった。「ただ、ヒントはもう渡したよ。『好感』だ。どうしたら相手に好感を持ってもらえるか、まずはその本質を掴むことが先決だ。」
部屋の窓から、淡い夕日が差し込む。近くの駄菓子屋からふわりと漂ってくる甘い香りは、どこか昔を思い起こさせた。子どものころ、遠足の前日にわくわくしながらお菓子を選んだ懐かしさが胸に蘇る。その記憶が、ユキちゃんの心をほんのり温めた。
こうして、ユキちゃんは「好感の原理」を学び、販促活動に活かそうと決意する。しかし、一体どこから手をつければいいのか。クッキーの包装に描かれた笑顔のキャラクターが、夕日に照らされてほのかに輝いていた。
まだ答えは見つからない。でも、その始まりの瞬間には、ほのかな手応えがあった。次の日から、ユキちゃんの、少しだけ“賢い”日常が始まろうとしていた。
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