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おにぎりから見る食文化のバージョンアップ

「手作りって本当に安全?」そんな疑問を持ったこと、ありませんか?
私たちの食文化は、いつの間にか大きくバージョンアップしているのです。昔は「手作り」が愛情や健康の象徴とされていましたが、今では「工場製」が安全や安心の代名詞になりつつあります。どうしてこんな変化が起きたのでしょうか?

今回は、手作りと工場製という対極的な食文化を通して、私たちが何を大事にしてきたのか、そしてこれからどう進化していくのかをストーリーを通じて探ります。



「手作りの温もり VS. 工場製の安心——どちらが私を満たすの?」

夜の都会で働き疲れ、アパートに帰り着くと、ユキは玄関先でふと足を止めてしまう。ここ最近、疲れからか外食やコンビニ食品ばかりに頼りきりだ。
鍵を開けると、部屋にはいつもの薄暗い照明。リビングのソファで長い耳を垂らした“うさぎ先生”が雑誌を読んでいるのが見える。彼は人型の不思議な“うさぎ”の姿で、ユキの家にこっそり居候している存在。夜になると色々な話を聞いてくれる、ユキにとっての相談役だ。

「おかえり、ずいぶん遅かったね。今日も大変だったのかい?」
うさぎ先生が声をかける。ユキは靴を脱いで荷物を下ろすと、疲れを吐き出すようにため息をつく。
「ただいま、先生……。スーパーに寄ろうと思ってたのに間に合わなくて、今日もコンビニ弁当買ってきちゃいました。自分で作るのがいいってわかってるのに、なかなか手を動かす気力がないんです」

テーブルにコンビニの袋を置きながら、ユキはどこか申し訳なさそうにする。うさぎ先生は小さく首を振って、「忙しいときは仕方ないさ」と声をかける。
「うちの冷蔵庫、どうなってるかな。食材は切らしてる?」
「一応、卵とネギくらいはあるはず……でも、もう傷んでるかも。気がつくと賞味期限を逃しちゃってて」

そんなやりとりをしながら、ユキはコンビニのおにぎりとサラダ、温めたパスタをテーブルに並べる。手作りではないけれど、工場で徹底管理されていて安全な食品だと思うと、内心ホッとする部分もある。
「なんか複雑ですよね。昔は母が作ってくれたご飯を“当たり前”に食べてたのに、いまは工場製のほうが衛生的で安全かもなんて思ったりもして。手作りと工場製、どっちが正解なんだろう」
うさぎ先生は雑誌を置いて、興味深げに耳をピンと立てる。
「手作りは温もりや愛情の象徴だと思われていたけど、技術が進歩した現代では“工場製=安心”という意識が広まってきた。たとえばコンビニのおにぎりも、ものすごく厳しい衛生管理がされていて、傷みにくくて便利だよね」
「そうなんです。料理下手な私は正直、コンビニのほうが“ハズレがない”というか……」

ユキは箸を手に取って、パスタをぐるりと巻く。最近は外食やコンビニ中心で味のバリエーションも豊富だ。それでも心のどこかで「やっぱり手作りのほうがいいのに」と思っている。
「いつからこうなったんだろう。ちょっと前までは家のキッチンに立つのが好きだったのに。工場製に慣れすぎちゃったからか、面倒になっちゃって……。私、だんだん母の味とかおばあちゃんの味を忘れちゃうんじゃないかな」

ユキの目がどこか寂しそうに伏せられる。うさぎ先生はそっと微笑み、テーブルの端にある新作の羊羹を指差す。
「どう思う? これも工場で作られた羊羹だけれど、僕はこういう既製品にも職人や開発チームのこだわりが詰まっていると思うんだ。実際、何度も試作を繰り返してここまでの味に仕上げてる。だから、一概に“手作りこそ愛情”とも言い切れないんじゃないかな」
「うん……確かに、手作り=絶対安全でもないですよね。冷蔵庫の管理が適当だったり、私みたいにレシピを適当にやっちゃうと何が起きるかわからないし」

いつもならパスタを食べて満足して終わるはずの夜。けれど今日は、なぜかユキの心の中で「手作りの良さ」「工場製の良さ」がせめぎ合っているらしい。愛情を感じたいのに、自分で料理をする心の余裕がない。それがもどかしい。
「焦らなくてもいいさ。両方を上手に取り入れて暮らしていけば、きっと自分なりの答えが見つかるんじゃないかな。大事なのは、自分がどう食と向き合いたいかを少しずつ理解することだと思うよ」

先生の言葉が、じんわり胸にしみる。ユキは少しだけ頬を緩めて、「ありがとうございます、先生。私、明日はちょっと早起きして簡単な朝ごはんを作ってみようかな」とつぶやいた。
こうして、夜は更けていく。コンビニ食品も手作りも、両方の魅力を再発見する小さなきっかけが、ユキの心のどこかでゆっくり動き始めた。


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