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Jホラーを代表する『残穢』を読みました #小野不由美

 傑作。リングや呪怨を超えるホラー作品。映画も神だけど、小説ももちろん怖かったー😱

京都市で暮らす〈私〉の生業は小説家である。執筆分野は大人向け小説が中心だが、嘗ては少女向けにライトノベルやホラー小説を執筆しており、そのあとがきで読者に「怖い話」の募集を呼び掛けていた。その縁で、嘗ての読者から「怖い話」を実体験として相談されることがある。

2001年末(映画では2012年5月)、嘗ての読者で「岡谷マンション」の204号室に住む30代の女性・久保から1通の手紙が届く。手紙によると、久保がリビングでライターの仕事をしていると背後の開けっ放しの寝室から「を掃くような音」がするのだという。更には、翌年に久保から改めて電子メールが届く。相変わらず寝室から右に左に畳を擦るような音が続いたため、振り返ってみると着物のような平たい布が目に入ったという。その話に〈私〉は奇妙な既視感を覚える。同じ頃、転居・同業者の夫との同居を控えていた〈私〉は荷物の整理をする内に、屋嶋という女性から1999年7月に受け取った手紙を目に留める。既視感の正体はこれだったと気づく。屋嶋も自宅マンションである401号室の寝室から時折聞こえる何かが床を掃くような音に悩まされていた。久保と屋嶋の住所は部屋こそ違えど同じマンションだったため、〈私〉は彼女らが遭遇しているのは同じものなのではないだろうかと考える。

久保と屋嶋の話を合わせる内に〈私〉の脳裏には「和服姿の女性が縊死し、その折に解けて乱れた帯が床を擦っている」というイメージが浮かぶ。久保は、その帯がいわゆる金襴緞子の帯ではないかと言う。久保は不動産業者や図書館などで調べるが、「岡谷マンション」で過去に自殺者が出たというような情報は得られない。そんな中、久保は204号室の前住者・梶川亮の不幸な出来事を知る。彼は精神を病んで「岡谷マンション」を退去し、職を辞した後に新居のアパートで首を吊って自殺していた。久保と〈私〉は「岡谷マンション」が建つ土地が「いわくつき」だったのではないかと考える。久保は「岡谷マンション」が建っている土地やその周辺のいわくを調べるため、周辺の住人への聞き取りを始める。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AE%8B%E7%A9%A2?wprov=sfla1

 ほん怖を彷彿とさせる、短い恐怖の連続なんだけど、それは作者がほん怖のファンだかららしい。また、リングのようなホラーとミステリーの融合もあり、呪怨のような感染する怪異もある。しかも、呪怨の方は作中にも出てくるので、ちゃんとしたオマージュになってる。
 怖さを際立たせているのは、主人公が心霊現象に懐疑的である点と、実在の小説家や事件が出てくる事で、現実味を帯びている点。フェイクドキュメンタリーとして最高。
 もっと残穢のいい所がある。
 「お祓いをしたのでこの祟りは解決です」が無い。もちろん、物語の中で神や仏にすがる人は出てくる。しかも、作者が宗教を勉強しているおかげで、ちゃんと具体的に事細かな描写がある。なので「なるほど、こういう理屈で事態は解決かな?」と思いきや、「それでも穢れは残る」という事で、次の祟りへと繋がっていく。
 救いが無い。怖すぎる。

もしも無念の死が未来に影響を残すのだとしたら、それはいったいどれだけの期間なのだろう。無限なのだろうか。それとも有限なのだろうか。有限だとすれば、何年なのだろう。何十年ーーあるいは、何百年なのだろうか。

小野不由美『残穢』

 残穢の中には、いくつもの怖い話が出てくる。これは、どこかで聞いた事あるような怪談でありながら、それを全部時系列順に繋げ、壮大なひとつの怪異として成立している。
 この構成に説得力を持たせている、重要な設定がある。

本作は「触穢(しょくえ)」をテーマにしており、平安時代の神事にまつわる格式『延喜式』内にある「甲乙丙丁展転」を引いて、穢れがどのように伝播するのかを作中で説明しているのだが、これを辿ると筆者も既に穢れに触れていることがわかる。

https://yuuyuukan-ei.com/zang-e

 作中ではハッキリとは書かれていないものの、この残穢という話自体が、聞いたら祟られる怪談だ。
 物語の終盤、主人公は体調不良を感じながらも、医学で説明がつくから怪異ではないと解釈する。しかし、読み手としては「いやいやそれ怪異だよ! みんな祟られちゃったよ!」となる。

仮に、太郎の家に死穢が発生したとする。このとき、次郎が太郎の家に着座すると、次郎のみならず次郎の家もまた死穢によって汚染される。この次郎の家に三郎が着座すると、三郎もまた死穢に汚染されることになるのだが、この汚染が三郎の家に持ち帰られることはない。ただし、すでに汚染されている次郎が三郎の家に赴いて着座すると、三郎の家も汚染されることになる。しかしながら、四郎が三郎の家で着座しても、四郎が汚染されることはない。死穢はここで伝染力を失う。

小野不由美『残穢』

  主人公が一貫して懐疑主義なのが良い。ホラーというと、登場人物達は大体幽霊といった類の存在を受け入れている印象がある。だからオカルトな出来事があっても、まるでそれが普通の事かのように描写される。だから、現実味が無い。
 それに対して今作は、主人公は幽霊を信じていないので、淡々と怪談を描写する。自分の身に降り掛かっている事すら、怪異と思っていない。しかし、読者はホラー好きだし、小説には恐怖を求めているから、「あなたの体調不良は触穢によるものだよ!」と言いたくなる。
 読者が勝手に恐怖を想像してしまう表現が、とても素敵だなと思った。面白い。
 この小説を読んだ者は呪われる。とてもよく出来た話だ。



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