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読書紹介19「慈雨」

あらすじ

警察官を定年退職し、妻と共に四国遍路の旅に出た神場。旅先で知った少女誘拐事件は、16年前に自らが捜査にあたった事件に酷似していた。手掛かりのない捜査状況に悩む後輩に協力しながら、神場の胸には過去の事件への悔恨があった。場所を隔て、時を経て、世代をまたぎ、織り成される物語。事件の真相、そして明らかになる事実とは。安易なジャンル分けを許さない、芳醇たる味わいのミステリー。

感想

少女誘拐事件の解決を含んだミステリーともいえるし、主人公の懺悔録(ざんげろく)とも読めます。
はたまた、家族の葛藤を描いた内容ともいるし、あるいは、夫婦の再生(再スタート)の物語ともとれます。
とにかく、さまざまな要素が絡んだ話でした。
そして、最終的に、どの内容もはっきりした結末は示されていません。

ただ、「雨」のイメージとあいまって、暗い、悲しい、寂しい、切ない感じが常におおっている話でした。
しかし「慈雨」と言うタイトルの通り、その中で温かさや明るさ、希望も感じる終わり方でした。
そこに、読み終わった後も、窓から外を見ながら、何か胸に広がる「これでよかったのかな・・・」という肯定とも否定ともいえない、納得した気持ちがいつまでも広がっていきました。

人間の関する次の言葉も印象に残りました。

・無邪気さという名の強さ
・甘やかされてきた人は、人の為に自分が苦労することを嫌う。
・何かを得るためには、必ず代償が伴う
・感情は比べられるものではない。悲しみはその人のものでしかなく、当事者は抱えた辛さに、ひたすら独り耐えるしかない。
・糸口、希望さえあれば、闘志が失われることはない。

「神様」がいるのかどうかは分かりません。
一つ言えることは、自分がしたことは神様以外で、「自分自身」が必ず見ている、知っているということです。
みんな、人には言わないだけで、それぞれに胸にしまってある出来事や感情があります。
誰か一人でも、聞いていくれる人がいたら、受け止めてくれる人がいたら、救われる気持ちもたくさんあるだろうなあと考えさせられました。

「慈雨」 柚月裕子著
発行者   集英社文庫
発行年月日 2019年4月25日
値段    760円(税別)
*作者の柚月さんは、最近テレビドラマで放送していた「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」の作者であり、また、映画で話題になった「孤狼の血」も書いている小説家です。 

皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです

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