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読書紹介74「下町とケット4~ヤタガラス」~変化し続けてこそ、良いとこどりは行き詰まる
1 概要・あらすじ
・もう5,6年前になりますが、阿部寛さん主演で、「パート2」としてドラマ化もされました。
今回の「ヤタガラス」編は、ドラマの後半部分になります。
ロケットエンジンづくりの技術を生かして、トランスミッションのバルブづくり、無人農業ロボットづくりに挑戦していく姿が描かれています。
・ドラマが高視聴率だったのは、もちろん、ドラマ作りの技もあるでしょうが、やはり原作自体が面白かったことにつきます。そして、夢を追い、挑戦する姿に胸が熱くなったことも大きかったと思います。
2 変化し続けてこそ、未来がある。
今回のお話は会社自体が成長していく姿が描かれているとおもいました。
「下町ロケット1」では、ロケットエンジンがキーワードになっていました。そこでは、いかにロケット品質を保つか、その技術を磨くかがテーマでした。
「下町ロケット2」では、そのロケットのバルブシステムを活かして、医療分野への参入が描かれていました。ある意味、技術の応用です。
「下町とケット3」では、ロケットのバルブシステムと言うより、「トランスミッション」に光が当たっていました。新しい技術開発がテーマです。
そして今回は、共同開発をしながら、無人トラクターづくりへ。
一貫して、技術を磨き、新しい開発を進める姿が描かれています。
これは、現実社会の企業でも同じことが言えます。
よく、
企業の成功体験が、逆に一つの足かせになると言われます。
これまでの成功体験にこだわり、しがみついてしまうことで、同じことを繰り返し、新しい挑戦をしないことで、逆にジリ貧になっていくことを表しています。
変化しないものはありません。
春夏秋冬。季節はめぐります。春夏に成長し、秋の実りを得たら、一度、冬へ。
右肩上がりばかりではありません。どこかで、落ち込んだり、とどまったりする時期は来ます。
でも。、それは次への準備期間。ここで、いかに次の段階への土台を作るかが問われます。
いつまでも同じ場所にはいられません。次へ向けての成長が必要です。
3 「いいとこどり」はやがて行き詰まる。
「下町ロケット4」では、ライバル会社の一つとして、キーシンが出てきます。実は、ある技術を盗んで、自社の開発に生かしていました。
それで、初めのうちはその技術によって、先頭を走っている姿が描かれていましたが、時間と共に、落ちていく様子も描かれていました。
「いいとこどり」には限界があります。
それは、自分が苦労して、基礎の部分から開発していないため、応用が利かないからです。
これは、物語の世界だけでなく、「技術」に関わることは、みな同じことが言えます。
特にスランプに陥った時、立ち直りが早いのは、地道に自分の技を磨いてきた人の方です。いいとこどりした人には、コツコツと技を磨いてきた経験が足りません。文字やデータとしては現れないでしょうが、感覚的なもの、直感的なものがつかめないため、応用が利かないし、微妙な違いに気づけません。
時間がかかり、無駄のように感じる時もありますが、基礎からコツコツと積み上げていく姿勢は、「守・破・離」という上達の過程においても重視されています。
4 その他
作者の池井戸潤さんは、元銀行員。
企業や銀行、働くことに対する熱い視線を感じます。また、物語の中に登場する人物からも、読んでいる人の胸を熱くする言葉をたくさん語らせています。
自分が気になった言葉を引用します。
よかったら読んでみてください。
・不安に苛まれようと、いかに不利な状況だろうと、その状況を打開できなければ、会社を守り、ひいては社員たちの生活を守ることはできない。経営者に求められているのは、悲嘆や後悔ではなく、常に先を見越した行動だ。
・世の中には奇遇としかいいようのない出会い数多くある。そうした偶然には、科学的な証明はされていないものの、なんらかの因果関係が存在しているのではないか。
・オレたちの苦労や、オレたちが舐める辛酸なんか、大したことはありはしない。そんなことより、オレたちの使命は、世の中に貢献することだ。世の中の人が喜んでくれて、助かった、有難いーそう思ってくれたらこんなに幸せなことはない。
・新たな何かを生み出すときに必要なのは非日常的な力であり、それは祝祭の熱狂にうかれる民衆のパワーと相似形である。
・世の中の流れ、競合の存在、市場のニーズ。そういったものを無視して、簡単に出来ることしかやらない。自分たちが世の中の中心だと思っている連中に、新規事業ができるはずがない。
・一般的に正しいか正しくないかと言う以前に、その会社にとって正しいかどうかというダブルスタンダードがある。
・ものづくりに必要なのは、技術や効率だけではない。
それ以上に大切なのは、意義である。
何いためにやるのかー。
その趣旨に賛同し、情熱の対称とならない限り、ものづくりは成就しない。そしてそれは、社会的な貢献を伴うものでなければならない。
・商売である以上、それを必要とする客がいなければ成立しない。そこに世のものづくりの難しさがある。作りたいものを自由に作って商売が成り立つとすれば、それは単なる偶然にすぎない。
・結局、社内政治や宣伝の巧拙ではなく製品が全てなんだ。それを使う人たちが必要だと思い、いいと思ってくれたものだけが生き残る。
・いまさら生き方なんて変えられない。変えられるもんですか。でもね、人生なんて所詮そんなもんよ。自分らしくない生き方だと思ってたものが、案外、自分らしい生き方だったりするの
・自分が許せないのは、実は自分自身だったのではないか。
・道具っていうのは、自分の技をひけらかすために作るものじゃない。使う人に喜んでもらうために作るもんだ。なのにあんたたちのビジョンにあるのは、じぶんのことばかりじゃないか。下町の技術だの、町工場の意地だのといっているが、誰が作ろうと、使う人にとってそんなことは関係がない。本当に大切なことは道具を使う人に寄り添うことだ。あんたたちにその思いがあるのか。
・理念と金儲けは必ずしも一致しません。
ですが、理念のない金儲けは、唯の金儲けです。
著書情報
・発行所 小学館
・発行年月日 2018年10月3日
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです