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読書記録33 「マスカレード・ゲーム」

あらすじ
解決の糸口すらつかめない3つの殺人事件。
共通点はその殺害方法と、被害者はみな過去に人を死なせた者であることだった。捜査を進めると、その被害者たちを憎む過去の事件における遺族らが、ホテル・コルテシア東京に宿泊することが判明。
警部となった新田浩介は、複雑な思いを抱えながら再び潜入捜査を開始する――。累計495万部突破シリーズ、総決算!

感想

このシリーズならでは!
事件を未然に防ぐために、またしても「ホテル コルテシア」で潜入捜査が行われて~という展開!

今回のお話では、大きな事件やホテルの宿泊客からの無理難題をどう対応するかという部分は、この「マスカレード」シリーズの中では控え目、少ない作品でした。
考えてみたら、同じ場所(ホテル)で、同じ登場人物がいて、それでいて、これまでの話とは違う事件(物語)を設定することの難しさがありますが、別の切り口で、違う事件、物語に仕上げるその発想力に、いつもながら凄いなあと感動します。
 
大掛かりなトリックや大どんでん返しがある話ではありませんでしたが、被害者家族の感情や「ゆるし」、また、加害者の更生と刑罰の意味などがテーマとなっている、ちょっと重たい、難しい話だと感じました。

刑罰などについて、次のような文が書かれていました。ちょっと長いですが引用してみます。

この国には、人を殺しておきながら死刑や無期懲役にならず、刑期が20年以下というケースがざらにあります。殺人以外の犯罪は、当然それよりも下回るわけで、たとえば業務上過失致死傷では5年以下です。窃盗罪でさえ十年以下とされているのですから、建物の上から物を落として人を死なせた場合でも、過失だと主張すれば、財布を盗んだ場合よりも軽い刑罰で済むことになります。それで遺族が納得できるでしょうか。

少年法に代表されるように、この国では刑罰を決める際、犯人の年齢を極端に考慮する傾向があります。若いというだけで、たとえ、どんな罪を犯した人間であろうとも、真っ当な人間になる可能性が高いと決めつけているようです。しかし、意図的に人を殺した人間が、少々の懲役程度で本当に構成するとは思えません。科された刑罰期間が過ぎれば再び自由の身が得られるのならば、その間だけ大人しくして、解放されたらまた好きなように生きようと考えるのが当然ではないでしょうか。外見上の変化など信用できません。本人が更生したふりをしているだけ、あるいは関係者たちが更生したことにしているだけ、というのが現実だと思います。

想像してみてください。あなたの愛する人が殺されたとします。逮捕された犯人には刑事責任能力がないので罰せられない、と言われたらどう感じますか?

いくら刑罰を与えても、反省しない被告人があまりに多いから。自分が犯した罪と正面から向き合っていないんじゃ意味がない。そこで、被告人に寄り添うには弁護士になったほうがいいと思って、転身した。ところが弁護士も無力だと痛感した。結局のところ裁判なんて、罪の重さを賭けた検察と弁護士のゲームに過ぎないと思った。その罪を犯した人間の内面なんて誰も考えちゃいない。

被害者遺族や加害者、加害者の家族の思いが錯綜して、それぞれの立場や思いを考えると何が正しいのか、どんな答えが出せるのか、いろいろと考えさせられました。

<被害者遺族に関して> 
・日本は罪の大きさに比べ、閥が小さすぎる
・更生とは何でしょう。仮に犯人が更生したところで、死んだ者は生き返らない。受刑者の人生と被害者や遺族の人生、どちらがより尊重されるべきだと思いますか?
・憎しみなんてね、人生にとって、何の足しにもならない。ただの重たい荷物。早くそんなものからは解放されたい。
・犯罪者たちは、刑期を終えれば、事件から解放されるかもしれないが、被害者や遺族たちにとっては永久に心の傷となって残るのだ。
・毎日のように様々な事件が起きているのはわかっていたけれど、被害者遺族たちの苦悩が、これほど多様だとは想像していませんでした。
しかもその苦しみは、どれほど時間が経っても緩和されることもなく、遺族たちの心を残酷なまでに蝕んでいく。
・誰かを憎しみ続けるって、エネルギーのいることなんです。そのくせ、そこから新しいものは何も生まれないし、自分を幸せにしてくれるわけでもない。それが分かっているのに、憎しみ続ける自分のことがひどく卑しい人間のように思えて、だんだんと嫌になっていくんです。

<加害者に対して>
・ある人に言わせれば、君はどうせ死刑になるらしい。だから、ここで死なせてやればいいと。だけど、俺はそうは思わない。君には罰ではなく、時間を与える必要がある。自分が救われる道は本当はどこにあるか。それを考える時間だ。そうして気付いてほしい。君を救えるのは君自身だけなんだって。
・罪人をどう罰するかだけでなく、救うことを考えるべきなんだ。
 罪を償うことと自らを救うことは同じなんだ。
・刑務所に入れたり、死刑にすることだけが正義ではない。

今回、主人公の新田浩介は警察を辞めることになりましたが、再びホテルマンとして、山岸尚美と一緒に、今後の活躍が期待できそうです。

著書情報
発行所   集英社
発行年月日 2022年4月25日
値段    1,650円(税別)

皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです

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