読書記録22 「時生」
感想
平行世界?というようなSF的な要素は採り入れつつも、メインは「親子の感動物語」と言う感じでした。
未来から来た息子によって、「更生させられる」と言ってもいい父親。
そして、父親も遺伝病を持つ息子を中絶するかどうかのタイミングで、生きる方を選択するあたりも、あとからそういうことか!とつながり、より感動が深くなります。
純粋な犯人あてミステリではないですが、失踪事件を追いかけたり、時生の正体がだんだんと明かされるなどの謎解きはあって、読んでいてスリリングな展開でした。
昔の「携帯電話導入ビジネス」などの時代背景も描かれていておもしろかったです。特に、自分が見聞きした、経験してきた時代なので、なじみもありました。
また、電話の広がりなどのビジネスアイデアも、当時の人の発想から見るといかに斬新だったかもみえてきました。
今回は愛知県の名古屋が描かれていて、私鉄のことでも、ちゃんと名古屋駅のホームの事や神宮前駅の事も出ていて、詳しく描写されていました。東野さんが実際に使っていたのか?取材として調べたのかは分かりませんが、作家と言うのは、こういうところの細部も描いていくのかと感心しました。
また、多くの作品の中で、その土地ならではの地名、駅名、駅の様子、乗り継ぎも書かれていて、作品を生み出すまでの「インプット力(取材)」やその整理も、創作するための大切な作業なのかなあとも想像しました。
今回は、親子の物語ともいえます。そして、「生死」に関わる内容でもあります。
関連して、次の言葉も印象的でした。
「死を前にしている人間の気持ちがあんたに分かるのかよ。ふざけんじゃねえよ。炎がすぐそこまで迫ってきてるんだぞ。そんな時にあんた、未来なんて言葉を使えるのか。それを感じられるなんて、口先だけで言えるのか。」
「好きな人が生きていると確信できれば、死の直前まで夢を見られるってことなんだよ。あんたのお父さんにとってお母さんは未来だったんだよ。人間はどんな時でも未来を感じられるんだよ。どんなに短い人生でも、たとえ、ほんの一瞬であっても、生きているという実感さえあれば未来はあるんだよ。あんたに言っておく。明日だけが未来じゃないんだ。それは心の中にある。それさえあれ人は幸せになれる。それを教えられたから、あんたのお母さんはあんたを生んだんだ。それをなんだ。あんたはなんだ。文句ばっかり言って、自分で何かを勝ち取ろうともしない。あんたが未来を感じられないのは誰のせいでもない。あんたのせいだ。あんたが馬鹿だからだ。」
言葉に「魂」が宿ると、めちゃくちゃ胸に響きますね。
皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです