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じごくへいったゆう
じごくはとてもおそろしいところです。
しかし、上方落語では真打ちが演じる一時間以上もかかる楽しいものとなります。
絵本ではたじまゆきひこ作「じこくのそうべえ」が有名です。
わたしが書くと高学年以上女子向けになりました。
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上方落語「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」より
わては飯食うのも忘れてかき続けとりました。なん日も、なん日も。
便所だけは、いってまったで? ついでに水くんで部屋に戻り、またかき続けとりました。
弘法はんに、白い犬と黒い犬。「犬の目」なんてはなしもございますが、それがあったらめがねいりまへんなぁ。
あのはなしも医者がでてきましたかいなぁ? わても病気びょうきがっちゃさかい、いかんとならんにゃけど。
でも、かかなあきまへんねん。賞もろて家賃払わんとならん。
とにかくかくでぇ・・・
ここどこや? なんもあらへんがな。
「おぉぉ~い、誰ぞおるかぁぁ~!!」
おらへんなぁ。ほんまここどこやねん?
歩いてますと、川が一本流れとりまして、おばあが立っとりました。
「渡しちんは六文やで。持っとりまっか?」
ぜに入れを開きますと、小ぜにしかおまへん。いつものこっちゃけど。
「百円おまっからつりぎょうさんもらえまっか?」
「かしてみぃ。お前、ちょうど六百円持っとるやないかぁ。こっちではこれで六文や」
「払たはええけど、舟かなんか乗りまんのんか?」
「乗り場はあっちじゃ。ひまやったらわしの身の上でもきいてっかぁ?」
「わて、子どもの本かいてますねん。ネタになるんでったらきいていきますでぇ」
「ほうか、わしはえんま大王の奥さんでんねん。ふぁーすとれでーやで?」「ああ、ファストフードねぇ。マクドとか」
「悪いけど、わしはまっく派やねん。すまーとほんかてりんごやで」
「スマフォおまんのんか?」
「じごくにはなんでもおまっせ。渡ったところが一丁目。盛り場や。はやりのもんはなんでそろとる」
「はぁ、それは楽しみでんな。他に本かけるようなネタおまへんか?」
「物かきかぁ。そやな。衣ぬがすはなしあるけどきくぅ?」
「おばあやったら女人をぬがすはなしがええですなぁ。おじいが男ぬがすはなしでったらなおよろしいでっけど」
「お前、そんなんかいとんのか? そんなこっちゃから男どうしの絵ぇばかりかかれたチラシが入んのや」
はなしはこれぐらいで切り上げまして、さん橋のほうまで歩いて参いります。
そこでは大きい男が「はよ乗れ」いうてます。しっかし、赤いカシみたいなぶっとい腕でんなぁ。ええ舟具こさえまっせ。
「お前らもっと中のほうへ寄れ。落ちたら生き返ってまうぞ。寄れ寄れ」
「生き返りまんのんか?」
「あほ、あかんあかん。わいの責任になるがな。いらんことで足引っぱらんといてくれ」
対岸のほうへと舟は進んで参ります。
「あんたはなんで死にましたん?」
「本をかいてるとちゅうでうえ死にしまして」
「わてかて物かきでっせ。荷車にひかれましてなぁ、かいてたのは剣とまほうでんねん」
「わいは猫にえさあげてたけど自分は食えんでなぁ、春画かいてましてん」「わしかてでっせ。女子のけんりをもっと高めろとか辻札立てまくってましてなぁ。最中に川へドボンですわ」
「なんや、えらい物かきが集ってますなぁ」
いうてるうちに対岸へと着きます。
「えらいにぎやかなとこでんなぁ。大型書店もおまんねんな。みなでいきまひょか?」
意気投合し、みなで入ります。
「蝶野牛(ちょうのうし)先生署名(サイン)会? あの中国空想(ファンタジー)小説の第一人者でっか? わて愛好家(ファン)でんねん、いきまひょいきまひょ」
中に入ってみますととんでもないもんがはられたぁります。
「近日、月尊優(つきみことゆう)先生署名会開催。お楽しみに」
わて、全然売れてまへんで? 死んだ後に売れまんのんか? こりゃくやしいなぁ。
みなはそれぞれ好きな本のほうへ散っていきました。
蝶野先生の署名はもろたけど、帰られへんし、ちょっと遊んでいきまひょか。
「おい、優。優やないかぁ」
「あ、おじいはん、仏間の写真でみたことありますわ」
「いえい!」
「そんなんはよろしいですから」
「お前、えらいはよ来たやないか。まぁ月尊家は全員早死にやさかいのぅ」「おとんはまだ生きてますけどね」
「お前、まあじやんできるんやてなぁ?」
「まぁ、全国大会ではコテンパンですが・・・」
「じごくにもまあじやん屋あるんやで。ついてこい」
ひかれるままについていきますと、中では亡者たちが遊んどります。
「タバコは吸えまへんの?」
「あほ、いまの時代はじごくも健康まあじやんや。ぜにもかけへんで。きつえん室があるからそこでは吸えるぞ」
「世知辛い世の中でんな」
二人と他の亡者一人が卓につきます。「上方はさんまに限る」でっか。さんまは三人まあじやんのことでおます。
一回目の結果はおじいはんが五十二点と六、亡者が負四点と九、わてが負四十七点と七。
二回目は三人ともあと一枚やったけどおじいはんが負千点。
次にわてが国士無双をしかけますねん。あと三枚で四万八千点やのに亡者がリーチかけまんねん。また三人ともあと一枚。
「おっ、お前も西待まちやったか? じごくはこうでないとなぁ」
「ほんま残ねん賞ですわ」
そん次は亡者が国士に走ってますなぁ。これをおじいはんが一万二千点でけ飛ばします。あとはわてが一万二千点であがっても、おじいはんが八千点。
結局、おじいはんが四十三点、わてが負霊点と七、亡者が負四十二点と三。
新参者はかないまへんな。おじいはん強すぎまっせ・・・ さすがはまあじやん帰りの朝に死んだだけあります。九連宝とうでもあがりはったんやろか?
「お前、これからどうすんねん?」
「転生しにいこか思てます」
「まあじやん好きやったらもっと遊んでいけや」
「いま、あちらでは転生するのがはやってますねん。次はれいじょうになって悪い役をしようかと」
「なれたらええな。ほな」
いよいよえんま大王のまえに立ちます。じょうはりの鏡には生前の記おくが映しだされます。
「お前は悪いことばかりしとるな? なんやこりゃ? 健全なまんがを勝手に盗んで男どうしの絵ぇばかりになった本を買い漁りよってからに。全くけしからん」
「いえ、ゆうれいで義理の弟が兄を攻めるのが大変よろしくて」
「なんやこりゃ? 妹と兄か?」
「いえ、男の子が年上のお兄さんを攻めるのが大好物でして」
「お前もかいとるのか? うそばかりかきよってからに」
「それは創造です。じっさいの人物とはかんけいがなく、しかも子ども向けです」
「子どもまでだますとはまことにけしからん。よってじごくいきじゃ!!」
転生先はじごく道となりました。
これが針の山かぁ。
花をつんでは生け、つんでは生け。
「おい、そこでなにをしとる?」
「針山は花を生けるもんでんがな? はさみ持ってきてぇ」
「お前が登るんや。はよ登れ」
「あんたにも生けますね。きれいなお花やねぇ。あんたを生けないと」
「こらこらこらこら、そういうところやない。あかん、こいつは別のじごくじゃ。連れていけ!!」
次はかまゆでかぁ。熱そうやから水でうめるか。
じゃ口をひねり、温度を下げる。
「おい、水入れたら意味ないがな。なんでじゃ口があるんや?」
「のうたら風呂やおまへんがな。石けんと手ぬぐいはどこで買うたらええんでっか?」
「風呂やないかまゆでや! お前を攻め苦するところや!」
「あんたがえんま大王を攻めるっちゅうのはどうでっしゃろ? きっと人気でまっせ」
「そうか、俺が攻めるんかぁ。あちらではそういうのがはやっとるんかいな?」
「こらこらこらこら、わしを攻めたらあかん。もっと下のじごくへ連れていけ!!」
なんやここは? やかましなぁ。下手くそな音楽鳴らしよってからに。
お前らには負けん。物かきにしてろう読もする。わての実力をみんかい!
ろう読やのうて暗しょうになんのやが、辻ろう読をされたら、音楽芸もたまったもんやない。
「またこいつか。あかん。人呑鬼(じんどんき)、でてこい!!」
人呑鬼の口に入れられてもうた。しかし、すぐさま吐きだす人呑鬼。
「なんや? どうした、人呑鬼?」
「こいつ、腐ってて食べられまへん」
「えええええい! 無理じゃ!! もうそいつを帰えしてまえっ!!」
「うわっ、びっくりした。優はん、いきなり生き返りはりよって。
急に姿みせんなったから、そうさく願いだしてたんやで・・・」
「創作が習慣になっておりまして」
第2話
第3話
落語は「風刺」をします。笑点の大喜利でよく出て来ますね。
地獄八景亡者戯では他にも演者の自虐ネタや知人を使ったものが折り込まれます。
時事ネタが入るので、後年書けばまた違うおはなしになるかと存んじます。
パソコン通信時代の作者仲間からは、「舞台は同じ劇でも観るたんびに違う。マチネ(昼公演)とソワレ(夜公演)でも違う」
たしかにそうです。千秋楽を観に行ったわたしと内容が異なっていたこともございました。
映像化されていないと、生の舞台はそうなります。もちろん落語だって。
同じ文章でも「アルファポリス」さん版、「小説家になろう」さん版と少し異なっているのはそのためです。こちらではルビを振れませんが・・・
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