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Audible log1/「おいしいごはんが食べられますように」

Amazon Audibleの読書(聴書?)記録をせっかくなので書いてみることにしました。

「おいしいごはんが食べられますように」
高瀬 隼子

※最後まで読んだことのある人だけ、読み進めてください。


何の話だ、と思った。
ただの会社員の日常。
でも、そこにホラーがある。
これはホラー小説です(個人の感想です)。
淡々と、日常の中に潜んでいる人間の醜さが
とにかく淡々と描かれている。
そのあっさりさが逆に怖い。恐怖を引き立てる。

芦川さんのお菓子を淡々と潰す二谷が怖い。
なのに結婚を視野に入れて付き合っている
不可解さが恐怖を倍増させる。

一貫して描かれているのは二谷の食への意識の低さ。はじめ読んだ時は、「あ、わかる」と少し思った。食事が面倒な時、一粒でお腹も満たされて栄養も取れるサプリがあれば良いのに。とは思う。
でも、わたしは美味しいものが食べたいと思う
人間だし、食べ物に感動できる人間だ。時短料理も好きだし、手の込んだ料理を作るのも大好きだ。
二谷とは違う。
二谷の食への意識の低さは、どんな生い立ちなのか掘り下げてほしいくらいだ。

そして、芦川さんのことを憎んでいるような、
見下しているような、何とも思っていないような、
何で付き合ってるの?という感想しか湧いてこない二谷。でも最後の1行で、この大きなマイナスの感情と釣り合いが取れるくらい「顔面がどタイプ」ということが分かった(私はそう解釈した)。
実際、こんな大きすぎる負の感情を持ちながら結婚を視野に女性と付き合い続ける男性などいるのだろうか?とも思うのだが、女性が描く男性だからこその世界観だろうか。

結婚といえば、二谷の結婚観には共感できた。

『特別強い結婚願望がある訳ではないが、独りで一生過ごすほどの覚悟もない自分には、結婚しないと人生の辻褄が合わない(要約)』
なんて綺麗に言語化された胸の内。これには現代人皆々共感の嵐ではないだろうか。
人生の辻褄合わせのために「結婚」するのだ。
だからみんな婚活するんだ。辻褄を合わせるために。だからみんな条件で結婚相手を探してしまうのだ。過程をすっ飛ばして「結婚」まで行きたいのだ。

 本書において何ともミステリアスな存在感を放っている芦川さんについて。
これはもうそういう手法だから仕様がないのだが、第三者からみた「芦川さん」としての情報しかないのだ。つまり、彼女自身の心の声が全く描かれていない。芦川さんの「ほんとう」は、彼女にしか分からない。読者の想像に委ねられているのだ。

私なりの芦川さんの「ほんとう」を考えてみる。
まず冒頭の、おじさん…ではなく藤さんに自分のペットボトルのお茶を自分のいない所で勝手に飲まれるという初っ端からホラーなシーン。
芦川さんは、「それ、セクハラです!」と言ったりはしない。セクハラを、生活習慣のように受け流すタイプである。悲しい。
多分、本当は嫌だと思っている。けれど、ここの人達、特に藤さんに自分が護られていることを理解している、から強く言えないのだ。ここで浮かずに、嫌われずに、みんなと上手くやる。従順でいれば別の場所には飛ばされない。実力以上の仕事は振られない。彼女はそれを分かっているのだと思う。分からないフリをして。

意外なのは彼女が長女という設定だ。
このタイプは末っ子設定が自然だと思うのだが(偏見)、意外にも芦川さんには弟がいる。弟のいる長女は、小さい頃弟をパシリにすることが多いと思うのだが(偏見)どうやら芦川姉弟はそうではないらしい。

話を元に戻す。芦川さんの「ほんとう」。
部署の人達から材料費を渡され、お菓子作りに励む芦川さん。半分は喜んでやっていて、半分はもう後に退けなくなって困っているのだと思う。でも、仕事も出来ないし、身体も強くない自分には、これしか償う方法が見つからないのである。というかそもそも、自分はこの仕事には向いていない。だからといって転職する勇気もないし、第一面倒臭い。二谷とこのまま結婚できるなら問題ない。多分もう、寿退社して専業主婦になりたいと思っている。
そんなところだろうか。

押尾さんと芦川さんと水路?に落ちた猫の話から、ピンチの時はいつも男性が助けてくれる人生を芦川さんが歩んできたことが読み取れる。

本当に強いのは誰?

現実世界だと女子にしか分からない、いや〜部分を
とても丁寧に表現し、作品にすることで男性も読み物として現実(女子の実態)を知ることができる。
そんな作品だなと思いました。

長くなってしまったのでとりあえずここまで。
最後まで読んで頂き誠にありがとうございました!



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