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自由律川柳句集 どうしようもない笑い 全編
布団のなかでどうしようもない笑いが起こる
机に潜った両足見えない
ゴミ箱から出た糸屑が髪に見えた
スマホは家政婦のようにあなたを見ている
路上で大人がぷくぷくと頬で遊ぶとは
飯も食わずに泣いてた
なんのため就寝する
引き返せず明日は来る
また明日傷つくために夜眠るのか
若くても遊ばず生存戦略
若くても地面を睨み生きる
くしゅみしたら隣の部屋の窓閉まった
つい言って唇が尖る恥ずかしい
誰より見栄を張るわたしのいい加減な服
蝶を馬鹿にしていたが真っ直ぐ蜘蛛の巣に突っ込む私
鏡を拭く好きでない自分と目を合わせる
街に来て背が低いと気にしてももう遅い歳だよ
夢に返却されて肉の入れ物にわたし
やっている流行は韓国語学習くらい
揚げ物は一品までだ胃もたれ
夜だ三人の急ぐ影がおどける横断歩道
昭和はずっと白髪を染めている
角が立つので禁止される正義
TV見て世の悪語るひと
テレビカメラの前でだけ悼む
田舎の景観ソーラーパネル
肉をピンクに染めて工場の湯気は臭そう
熱い聖人はお尋ね者
イケメンがちやほやされてるから悲しい
ラインスタンプ貼りたい気持ち
皿洗いしなそうな天皇の微笑み
口が切除された社会用の口が縫い付けられる
月曜日の落とし子か嫌がらせプレイヤーがいる
自国賛美ではない平和の花もある
急に冷え込んだから虫驚く
山は寒かったと帰ってきたひとが毛布の山に入った
値下げシール貼られる気分は
ラジカセの売り子が空っぽの棚に誘って不気味
私の心の半分はバナナ
人の罪洗濯の染みのように消えない
毎日便器にこんにちはそしてさようなら
正直な老人だ
夜が来たお笑い芸人のノート
声も消灯
靴下を風に干してもらった
大学に嫌われて餃子を注文する
雨の数だけ空に目がある涙のしょっぱさ
ホースには土がつく
さあ行こうか雨が止んだから
田舎の病院は年寄りでいっぱい
夏なのに希望が冷たい
なんで痩せているのと聞いた
貧しくて恐怖するひと
誰でもないみんなが希望だった
怠けて生きているから働いている人が美しかった
恥ずかしい心を言葉にしない権利もあるのに
温かい握手をする平日の役所
受けおりの知恵で考えるのも悪くない
人生が冷えたみんなが冷えた
傷だから治るよと言われた
運命が布団から出てきた
日記用のペンが重い
荒波のやうに出費する
税金は払うが心は出さない
気の早い未来がもう来ている玄関である
テレビが起こされた皿のようだ
ゴミ箱は動かないでいい
靴が冷たい
袖に入る風
小さな公園で屁をした
一つしかなかった椅子に座る
苦しみが履いてる靴も玄関にある
成分表示を見ると悪趣味もありました
缶ビールでおっさんたちは歌手になろうとする
まだ若いのでステーキを一枚頼む
落葉の中で靴が笑った
看護師が同僚と笑っている
別の医者がやってきた
くたびれたおっさんの顎が空を仰いでいる
疲れると漫画は温泉施設のようだ
月が眺める地球は美しい
未来にも心地よい朝は残っているか
自販機が僕より人気だ
おばさんがおばさん臭い優しさだった
おじさんは汗まで正しそうだった
応援は日没しないはずだ
きっと神様は人間を育てたくなかった
別の患者の私服
たくましい老人が歩いている
空を入れたいコップだが100均に売っていた
語学の雑誌の例文が職に就くことを勧めていた
裸より不安になって涼んでいるシャツ姿のわたし
熊かと思ったらゴミ袋だ
枕がまた頭突きされた
俳人が死んだ季節の後ろで咳をしている
誰になりきったらいいかテレビ画面
ペンが取り出した時剣だった
まだ飛べない折り鶴
また食パンを焼いて食べるために家に帰りたい
ひとりきりで花を愛でるように本を読んでいる
生きているから臭いよ
名前がかゆい
中年男性の言った諺が図星だった
スリッパで急ぐ人
蛍光灯一つ寿命が尽きたのにそのままで暗い
トマトが握り潰されたように辛いし痛い
いつも上目遣いされる監視カメラ
靴下の穴が満月みたいだ
夜ふかしをしよう美しい夢を見たいから
景色がある方へ椅子の向きが揃っている
画面の月を天気予報士が持とうとした
缶ジュースが綺麗なコップに注がれていく
愛の力くらい向精神薬の効き目はあり
向精神薬くらい愛の力の効き目はあり
床の四枚のタイルの間が濡れて十字架になっていた
自分よりサラダの野菜が活き活きしている
オセロではないが二人の老人に挟まれた
今朝も人がいない病棟の一角
人が集まったからトイレ出た
星は誰の家だろう
雨の日の泥水は山の血です
皿のような海に島が乗っている
一生だと知らされず電柱立たされた
この蛾の模様は凄い一流のデザイナーのコートか
この話が暖かい話と思うか寂しい話と思うか
窓を磨こう朝日が透けるように
田舎では丈夫な乗り物が必要だ
昔は寝ていたのにと立ててあるしゃもじの愚痴
残していた絆創膏の余りを出した
昼寝するように死にたい
起床するとき漫画の主人公の元気を借りる
海のそばにさびれたラブホ
いかなる音楽よりも洗濯バサミが好きだ
母がそうかわかったと崩れた皿の山に返事した
四本の高い樹の下を森だと思っていた子供の頃よ
植物図鑑にない造花の美しさ派手さ
こっそり屁をしたら音が出た
小声で値段高いねと呟いた
へとへとで布団で体が疲れた息を吐く
朝日差すなか寝ている
朝が来た窓辺で棒のように立つ
風がない室内である
心が雨上がりのようになった忘れたことがある
後ろの席のお爺さんが鼻歌を続けている
カメラは世界を映す目を持っている
ベンチでうつむく女を鳩が覗いている
鳥の眼は人間の営みを不思議がる色をする
ケーブルテレビが田舎の世間を見通している
箱の中で物が動く隙間があるような寂しさ
日曜日は釣り人で賑わう海である
飯を食い糞をする以外は虚無の人生か
祖母が花に水やって一日が終わると嘆く
祖父が居間に菓子を落として去った
顔ぶれがおもしろい朝の道である
剥がれかけたポスターのセロテープが浮いている
店の窓越しのクリスマスツリーが小さかった
影は黒色ではなく灰色だ
トラックの尻は怖い
老人の顔と抱えられていた冬毛の犬の顔
夕暮れの町の歩行者用信号機
家で切った髪が床に残っていた
拝礼のように夕陽に向かってスマホ見ていた
標識の裏柄は地味な骨組みだった
舞台俳優のように外食だよと伝えた
お母さんもお父さんも雲に乗るように休んでください
人を待つ静けさで自分の息がうるさい
不安がどしっと両肩に乗る
痩せた老人のぎょろりとした目
コップの水が喉通る瞬間の鰭のようなもの
若い爪を褒められる
急ぐ看護師が静かに鋭く戸を閉める
腹が減って時計を見る
空調は止むことがないずっと聞いている
昼で明るいけど電気点けてもいいでしょ死にたいんだから