食べ物のことについて毎日考えてみた【エッセイ食】ゆっくりとうどんを食べてみる
僕はガタイが良いほうだと思う。
器械体操をやっていたからなのだが、体操選手にしては身長が高いので、ラグビーですか?アメフト?あっ柔道だ!などと「やってたスポーツ当て競争」では当てられたためしがない。
ガタイの良さから、体も丈夫と思われがちだが、意外と病気をしがち。
大学1年のときは、部活の練習中に先輩から頭を引っ張られたんじゃないかと思って倒れたら、誰からも引っ張られておらず、それが頭痛によるものだったらしく、病院に行ったら即入院。鼻の奥の方に膿が溜まる「急性副鼻腔炎」だった。
入院先では治療のために長ーい綿棒を毎日鼻に突っ込まれて、えづきながら治療をしてもらい、なんとか手術は回避して回復できた。
お見舞いに来てくれた部活の同級生が母親が作ってくれた肉じゃがを全部食べてしまったのには笑った。
懐かしいわぁと熊本出身のやつが東京下町の味をほめていたのもおもしろかった。
大学4年生の時、大学院進学のために図書館で1日中ひたすらに勉強していた。
日中の食事は「缶コーヒー」という生活をしていたら、ある夜、胃が内側から刺されるように痛くなり、親に痛いと泣きついた。
「救急車呼ぼうか?」と言ってくれた親に対し「いやそこまでじゃないな」と思って「我慢してみる」と強がってみたけれど、全然眠れず、翌朝病院へ。胃カメラで診てもらったら、食道に大きな炎症が。
「逆流性食道炎」といわれた。
大食いや早食い、不規則な食事時間などが原因で、食道と胃の繋がる部分が緩くなって胃酸が逆流、食道に炎症を起こすようだった。
勉強をしながら感じた胸のムカムカも症状の一つだったらしい。
勉強が捗らないからではなかったのだ。
体が丈夫そうでも、無茶な食生活は身体を内側から蝕むのだと知った。
先生からは早食い、大食い、辛いものやコーヒーやめて、決まった時間に食事を取ること、寝る直前の食事は避けることが言い渡され、CMで見たことあるものよりも大きなガスター錠をもらって帰った。
思い返せば先生が言っていた、やっちゃいけないことを全部やっていた。
反省し、症状が出てからは、ゆっくりと食べることを心がけた。
例えばうどん。
ゆっくりと食べるためによく噛むことにした。
それから「すする」こともやめてみた。
すすってしまうと、その勢いそのままにもぐもぐもぐと噛んだだけで飲んでしまう気がしたからだ。
20数年の人生で何度となく繰り返してきた麺をすすり、あまり噛まずに食べると言う行為。
それとは真逆の、僕の人生史上もっとも遅いうどんの食べ方だ。
麺をゆっくりと口に運び、すすることなく、あむあむと、口の中に招き入れていく。
よくよく噛んでからゆっくりと飲み込む。
次の麺にはすぐには手を出さない。
少し間を置き、どの麺をすくうか決めてから箸を伸ばす。
うどん1杯で30分ほどかけて食べていたと思う。
今思えば時間をかけすぎだが、ゆっくり食べることに楽しみも覚えだしていた。
麺はすすってこそ美味しいと思っていたけれど、当たり前なのだがすすらずとも美味しい。
いや、すすらない方が美味しいと感じるかも知れない。
口の中の滞在時間が長くなることで、うどんが噛みちぎられていく感覚を長く感じることができ、小麦の香りを感じ、麺と汁が混ざる味をしっかりと味わえる。
ゆっくりと味わうことは、悪くなかった。
病気になり、今までの食べ方を禁止されたことで、知らなかった食べ物の味に出会えた気がした。
今ではそこまでゆっくり食べることは無くなったが、
たまには麺をすすらずゆっくりと食べてみるのも良いかもしれない。
知らなかった食感、香りや味に出会えるかもしれないのだから。