航西日記(9)
著:渋沢栄一・杉浦譲
訳:大江志乃夫
慶応三年正月二十日(1867年2月24日)つづき
晴。香港。
この地の最高の山を太平山という。
登ること、およそ一里余りで、頂上に旗竿がある。
国旗がかかげてあり、島々の重なりあっている状態や、風にのった帆の往来、大洋の風景が、遠近ともに一望のもとにあり、眺望奇絶である。
山を下り、花園を一見した。
ここは、住民の休暇遊息のために設けられたもので、泉石や草花をつらねて、趣のある意匠をこらし、遊覧に際して、いささかなりとも、客の気分を満たす事ができる。
ここから、広東に行く汽船が、日に一度、出ている。
また、毎週刊行の香港新聞がある。
漢文で、一年の定価が、四ドルである。
また、香港で通用する貨幣もある。
欧州への旅客は、ここから籐椅子や籐の寝台、うちわ、または、熱帯を過ぎる時に使う、帽子を買って、避暑の用意をする。
その他の名産は、彫刻をした白檀の箱、象牙細工、蓪草紙という紙に描いた画、楠の箱、竹細工、絹ばりの支那傘、摺扇などである。
支那店には、文墨品もあるが、上海に比べれば、高価である。
郵船は、この地で、乗り換えである。
全て、欧州に行くには、横浜で両替えした銀貨を、ここで、英貨ポンドに両替えし、航海途中の入費にあてるのが、便利である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?