航西日記(10)
著:渋沢栄一・杉浦譲
訳:大江志乃夫
慶応三年正月二十一日(1867年2月25日)
早朝から小雨。香港。
この地は、緯度が低いので、本邦の晩春の気候に似ている。
この地に設置された、造幣局を一見し、英国水師提督を訪問のために、英艦に至る。
帰ってから、仏国の領事が、あいさつに来た。
午後三時、英国の囚獄を見る。
規模は、広壮であって、囚人の取り扱い方を見ると、罪の軽重にしたがって、いろいろの工場で仕事をさせ、また、獄中に説法場を設けて、時々、罪人を集めて、説法を聞かせている。
この説法というのは、善悪応報の道を説いて、罪人に後悔、懺悔の念を起こさせ、全て、悪をいましめて、善におもむかせる事を、もっぱら説くのである。
その中には、前非を悔い、良心を取り戻し、ついに、真人間にかえる者もあるという。
人口が減る事を憂い、死刑をはばかる事は、つまり、天意にしたがい、生を愛し、民を重んずる事であって、その懇篤切実な事は、感心のいたりである。
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