インコです
天気のいい日はキクノスケを散歩に連れていくことがあります。
散歩に連れていくのには理由があって、一つは日光浴のため。
鳥は紫外線を浴びることでビタミンAかBかCかDを合成するらしく、このビタミンAかBかCかDが不足すると体からカルシウムが不足して骨が弱くなってしまうんだそうです。
牛乳じゃだめなんですね。
で、家の中でガラス越しで受ける日光だと紫外線がカットされてしまうので、定期的に直射日光にあたらせてあげなきゃいけないんだそうです。
もう一つの理由はキクノスケの社会勉強のため。
直射日光にあてるだけならベランダの物干し竿にでも乗せておけばいいんですけど、毎日せまい1LDKのマンションで同じデブと顔を合わせるだけだとさすがにキクノスケも飽きるだろうし、いざ鳥の病院に行くときや僕の実家に帰るときなどキクノスケを外に連れ出さなきゃいけないときに死ぬほど怖がらなくてすむように、定期的に外に連れ出してこまめに怖がらせておいたほうがいいんじゃないかと。
散歩に行くときはインコ用のハーネスをキクノスケの体につけて、犬用の伸びるリードをつけます。
飼い始めた当初はハーネスを近づるだけで、その紐で絞殺されるとでも思ったか「ギイイヤアアアアア!!!」とマンションの上下3フロアまで届きそうな断末魔の叫び声をあげて逃げていました。
が、僕は実はなかなか厳しい飼い主でして、キクノスケが発狂しようと無理やりハーネスを装着して、疲れたか我に返るか慣れたかして断末魔の叫びをあげなくなるまでヤングジャンプを読んでいたものです。
今もハーネスをつけるときは相変わらず抵抗しますが、つけられてしまえばあーつけられちゃったよしょうがねーなーあとでヒマワリのタネ多めにくれよなーくらいの感じでハーネスをクチバシでいじっております。
3年前に大阪に引っ越してきてからは、散歩に行くのはもっぱら近所のウツボ(靭)公園です。
春は桜がなかなかキレイです。
桜の季節が終わるといろんな種類のバラが咲きます。
キクノスケととてもよく調和するふしぎな彫刻もあります。
基本的にウツボ公園しか散歩にいかないので、会社に出勤するときも、買い物に行くときも、外食するときも、留守番しているキクノスケの頭の中では僕は一人でウツボ公園をぶらぶら散歩していることになっているかもしれません。
キクノスケの散歩と言っても歩くのは僕だけで、キクノスケは僕の肩に乗って公園を観光しています。
キクノスケは家ではゲルの中のチンギス・ハーンのようにいつもふんぞり返っていますが、散歩中はビビりまくってマッチ棒のように細長くなって足の爪に渾身の力を込めて肩にしがみついているので、公園のフォトスポットで僕から引っぺがすのにいつも苦労します。
あと危機感を感じていていつでも飛んで逃げれるようにするためか、やたらと散歩中はウンコをします。
大阪に異動してくるときに知り合いの方に頂いた「キクノスケちゃんも連れていくなら!ウツボ公園の近くに住むべきよ!」という謎のアドバイスを鳥飼いだけに鵜呑みにして引っ越してきたのですが、きれいで広くて見どころのある公園で、中之島の会社も近くて、おいしいカレーのお店もたくさんあって、ホントにここに引っ越してきてよかったなと思います。
ただ僕以外でインコを公園につれてきている人は一人も見たことはなく、キクノスケがこの環境を気に入っているかも正直わかりません。
キクノスケを肩に乗せて公園を散歩しているとやっぱり珍しいのか、けっこう人に話しかけられます。
「オウムですか?」と聞かれるのがダントツで多いです。
「ヨウムですか?」とドンピシャで正解だったのはこれまで一人だけです。
聞こえてくる会話では「ハトじゃない?」「変なハトだ」「しっぽが赤いハト」「きっと南米のハト」などハト関連が多いです。
「あれは…鷹だな」とえらく確信めいたおじいちゃんに言われたことも一度だけありますが違います。
キクノスケはオウム目インコ科ヨウム属ヨウムなのでオウム(オウム目オウム科)ではなくインコまたはヨウムが正解です。
しかしそんなふうに自分が一体ナニモノなのかと指さされているときに限って公園でおぼえた完璧なカラスの真似を披露したりして、ますますややこしいのでホントやめてほしいです。
「オウムですか?」「なんの鳥ですか?」と聞かれたとき最初は「ヨウムです」と答えてたんですけど、「え、オ、オウムですか?」「いやだからインコです」「…は?」てなることが多かったので、今は「インコです」とだけ答えています。
「オウムですか?」「インコです」
「ハトですか?」「インコです」
「これは鷹ですよね(確信)」「…インコです」
そんなやりとりを僕の肩にしがみついて聞いていたキクノスケです。
僕はいつも「インコです」と答えていたつもりだったんですけど、キクノスケによると「あインコです」て答えていることも多いみたいです。「あのー…」はいつ言ったか忘れました。
キクノスケはお客さんがうちに来たときはたびたび「あインコです」と自己紹介して初めて会った人をびっくりさせてます。
どうやら自分が知らない人と僕が話をしているときに「あインコです」と言うものなのだと理解しているっぽくて、意味はわかっていなくても人側から見ればコミュニケーションがいちおう成立しているかたちになってます。
ただ初めて会った人の前では機械のように何度も「あインコです」を繰り返すだけなので最初はスゴイと思っていた人もだんだん不安になってきます。
一度体を壊して鳥の病院に入院したことがあったのですが、そのときもお世話をしてくださった獣医さんに対して入院期間中ずっと「あインコです」しかしゃべらなかったそうです。。
「あインコです」とキクノスケが答えてくれるのを期待して、「あれ何だこの鳥ー?ハトかなー?カラスかなー?」と問いかけてみると、自分のリズムが崩されたと感じるのか、急にだんまりになります。
ホントは「キクノスケです」て言えるようになってほしいんですけど、「オウムですか?」と聞かれたときにそう答えるわけにもいかず、どうしたもんかなあと思っております。