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smashing! ときもオレらもにげやしない

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗。彼は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己と、伊達の後輩・設楽泰司の恋人。

今日は伊達さんのお誕生日。僕と設楽くんは数日前から予定を合わせたり、伊達さんのシフトの調整をしたり(勝手に)。サプライズというわけではないんですが、なるべくなら驚いて、喜んで頂きたい、そう思って内緒にしてあるんです。特別な日ですから。例えばちょっといいホテルのスイートルーム、たまには贅沢なお部屋でご馳走を頂いて、ゆっくり過ごしたいと思いませんか?

「ってなんでそんななってんですか」
「しゃあないよお、今日一日移動だったん」
「伊達さん安静にしてて頂かないと、僕が主治医の先生に怒られてしまいます」
「だってえ何ともないのにい~」

伊達さんは獣医の移動診療車でのお仕事だったんですが、8月3日の今日は酷暑。特に体調を気にしない癖が災いし、なんかクラックラするう、というわけで軽い脱水症と診断されたのでした。それを聞きつけた設楽くんはちょっ早で勤務を切り上げ帰宅。やばいですよ夏の車移動は、心配が顔に出ないかわりに体のあちこちを物にぶつけまくる、不器用なとこけっこう好き、伊達さんの心の声は僕の心の声ですともええ。

居間の隣の客間にお布団を敷いてお風呂上がりの甚平姿の伊達さんを転がして、設楽くんは台所でなにやらスタミナ的お料理を作っている模様。僕はあれですねピンクの割烹着ナースですが何か?割烹着けっこう蒸しますので下はボクサーパンツ。暑いですからね。この時期さすがにお膝でごろ寝はなさいませんが、正座した膝頭に鼻をくっつけて何やらむにゃむにゃお話になっておられますね、これどっかで見たことあると思ったら、鬼丸くんちのリイコくんですワンちゃんの極み。

エアコンをつけなくてもこの家はけっこう涼しいのですが、さすがに今日はガンガンに。冷蔵庫ですかここは。冷凍庫じゃないだけマシってなもんですね。お待たせしました、見れば居間のテーブルにお素麺が。お素麺の山が。聳え立っとるでしかし。薬味もたくさん用意されて…薬味?あれ?これって冷やし中…華かな?青紫蘇や九条ネギと並んで細切りハムや錦糸卵が。

「たくさん食べて下さい、変わりつゆもありますから」
「お前はほんとマメよねえ」
「すごい!唐揚げも作ったんですか?」
「ああ、昨日から仕込んであったんで」

想像してください、ガラスの器に山と盛られた真っ白でつやぴかのうねるお素麺…当社比推定2キロ。そしてテーブルいっぱいに並んだ薬味の数々。まさに壮観。よく見ればこれってバースデーケーキじゃないですか?

「大丈夫、ケーキはこのあと出します」
「ケーキい?」
「今日は8月3日ですよ伊達さん」
「…あそっか!俺の誕生日かあ!」

そんでハルちゃんたちがそわそわしてたんだねえ、ちょっとだけしおらしく見える伊達さん。それ以上は喋らずお素麺をたくさん食べておられました。あそんなピッチではケーキまで辿り着けないのでは…僕の杞憂などおかまいなしで、設楽くんと伊達さんは見る見るうちにお素麺を完食。薬味もきれいに完食。その後、目にも留まらぬ速さで食器の片付けを終え、小さなケーキが乗ったお皿を携えて、設楽くんが台所から戻ってきました。真っ白な生クリームとチーズムースのアイスケーキ。

「本当は酒もあったんですが、今日はこれだけで」
「俺ほんと大丈夫よお?何ともないって」
「半病人の伊達さんなんか掘ってもつまんないですから」
「設楽くんうまいこと言いますね!」
「半病人違うよお!」

大丈夫、時間もオレらも、逃げやしませんから。

何より大切で魅力的な伊達さんは、伊達さんであって伊達さんではないのですよ。僕たちの大いなる主君。お側にいられるだけで幸せなんですから。伊達さんはバツの悪そうな顔で、それでもすごく嬉しそうに、僕の手を握りしめたんです。

「早く体調整えてさ、そんで」
「山ほど EXしますんで覚悟してて下さい」
「…なんでお前はそう直接的なん!」

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