短短編:話の通じない男
今日は朝から何かがおかしかった。
充電は充分にしたはずなのに、電波が悪いわけでも無いのに、電話を掛けても話が全く噛み合わないのだ。
仕事の取引先の相手や、同僚にかけているはずなのに答えは全部的外れだった。
苛立ちつつも、明日職場で報告をまとめれば良い、と気持ちを切り替えていた。
珍しく夕方早々に仕事が終わり、直帰で家に帰る。仄暗い部屋の中で眩しく小さなLEDライトが充電の色を示し、そこには見慣れた電話が横たわっていた。
今日は何度も電話をしていた。
鞄の中を手探りした。そこには電話などなく、歯ブラシに折れた割り箸が輪ゴムで括り付けられた、ゴミのようなものが入っていた。
ふいに、それを握っていた感触が蘇り、さまざまな場面を思い出し不安で視界が歪む。
スケジュールを確認すると明日は休みだった。
そうだ、病院へ行こう、これはきっと眼科だ。
Fin
▼もう1人のおじさんの話し▼
▼他のお話▼
▪️良かったらこちらも▪️