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短短編:話の通じない男
今日は朝から何かがおかしかった。
充電は充分にしたはずなのに、電波が悪いわけでも無いのに、電話を掛けても話が全く噛み合わないのだ。
仕事の取引先の相手や、同僚にかけているはずなのに答えは全部的外れだった。
苛立ちつつも、明日職場で報告をまとめれば良い、と気持ちを切り替えていた。
珍しく夕方早々に仕事が終わり、直帰で家に帰る。仄暗い部屋の中で眩しく小さなLEDライトが充電の色を示し、そこには見慣れた電話が横たわっていた。
今日は何度も電話をしていた。
鞄の中を手探りした。そこには電話などなく、歯ブラシに折れた割り箸が輪ゴムで括り付けられた、ゴミのようなものが入っていた。
ふいに、それを握っていた感触が蘇り、さまざまな場面を思い出し不安で視界が歪む。
スケジュールを確認すると明日は休みだった。
そうだ、病院へ行こう、これはきっと眼科だ。
Fin
あとがき
昔々、駅で見かけた歯ブラシを握っておしゃべりをしているおじさんを元にお話を作りました。
おじさんは、実在します。昔は、割とよくいたのかもしれません。忘れないように絵を描いていたので、それを表紙にしてみました。楽しんでいただけたら嬉しいです。読んでくださってありがとうございます!
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