短編小説:Fly Fri フライ
社会人になってから、全く音信の無かった友人と、最近よく行く居酒屋のカウンターで飲んでいた。
野球部の先輩の話や、大学時代に好きだった子が当時四股も掛けていたが、お互い付き合ってなくて良かった等と懐かしい話で盛り上がっていた。
「お待ち」
頼んでいたフライがやっときた。
揚げたてのふわっと香る香ばしい衣の香り、まだかすかにピチピチと音を立てている。
フライに箸をつけようとすると、友人が思い出したように言った。
「そういえば、フライ流行ったよなぁ」
懐かしそうに目を細める、その先に昔の景色まで広がっているかのようだ。
「んー、なんて言ったっけな、あれ、フライ…ズボンだっけ?」
「フライパンツじゃないか?」
「そうそうそうそう!」
若いやつは知らないかもしれない、俺たちが若かった頃、フライ(特にアジ)をズボンの後ろポケットに入れるのが流行った時期があった。
昔ながらの揚げ物屋に、光が差した時代だった。
流行りに乗じて、ポケットに特殊加工がされたフライ用のパンツも売り出された。
その後、フライパンツを売り出した会社は、アパレルから防水の第一線メーカーへと成長し、海外にも進出した誰もが知るあの大企業だ。
「懐かしいな、今思えばくだらない事で言い合ってたな」
そうだ、当時ポケットからサッとフライを取り出して食べる時。
ポケットにソース入れて先につけておくのがヤンキータイプ。魚の形をしたプラスチックの小さな容器から、食べる直前にソースをかけるのがプレッピーなインテリおしゃれタイプの奴らだった。
手軽さか、スマートさを取るか、今ではどちらにも良さがあると思える。
「そういえば、俺まだフライパンツ持ってるわ」
「もう、使わねぇよなー」
丁度フライも食べ終えて、ビールもあと一口になった。そろそろ二軒目に行く頃合いだ。
友人が店主に〆のサインを送った。
勘定を済ませて、ガラガラっといい音のする戸を開けて外に出た。
「あつー」
外はじんわりとぬるく、空気が肌にまとわりついて汗がにじんでくる。
「まいどありー」
威勢のいい店主の声が響いた。
店主は笑顔で戸を閉めた。
店の中に戻ると、カウンター席の常連客と顔を見合わせた。
「あんなの知ってるか?」
「いや、初めて聞いた」
Fin
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