連載「菌活ボーイがゆく」⑯前方不注意
菌友の乗用車にイノシシがぶつかった。
夜、星の里街道をばく進中。
「気をつけろ。ヤツらは増えてる」
ドライブレコーダーを見せてもらった。
暗い一本道。
どんっ!
フロントガラスが揺れた。
突然何が起きたか、菌友も分からなかったという。
映像を3度巻き戻し、それらしき姿が判別できた。
左側から急に飛び出し、車体の陰に消えた。
後ろのレコーダーには、くっきり映っていた。
イノシシはふらつきながら、道路を横切っていった。
「大丈夫か」
思わず声が出た。
「修理代は8万円」
菌友は涙声。
キミのことじゃないけど…。
ボンネット側面はへこみ、割れ目に茶色の毛がはさまっていた。
痛かっただろうな。
「イノシシには請求できんしなあ」
いや、キミのことじゃないんだけど…。
イノシシもこうじ菌も生きているだけだ。
なのに、立場はまるで違う。
かたや迷惑がられ、「害獣」のレッテル。
醤油こうじは毎日、僕の腕を揺り籠にしている。
あのイノシシは、どうしているかな。
茶色を見るたび、気にかかる。
(続く)