夏らしいことを始めた瞬間、人生が変わり出した【Ep.4/全4回】
全4回にわたってお送りする
私が体験したある夏の1日のエピソード。
本日が最終日。Ep.4を書こうと思う。
▶︎Ep.3がまだの方はこちら
2013年の夏、私たち男女4人のグループは青い池を目指し、すっかり暗くなった美瑛の山の中をタクシーで移動していた。
「何でこんな時間、夜に青い池まで?」
タクシードライバーの女性からそう質問された。助手席には友だちのユウヘイが座り、私とタマちんとコウスケは後部座席に座っている。
ドライバーの質問がよく聞き取れなかったこと、助手席のユウヘイが見ず知らずの人と会話をすることが好きなタイプなこともあり、車内での会話は全てユウヘイに任せた。後部座席の私たちはニヤニヤしている。
「なぜこんな夜に?」
だって夏は夜だから。
清少納言もそう言うくらいだから。
と、今になればそういう風に言ってたかもな、と思うけれど、そんなことは言ってなかった。
「さ、もうすぐ青い池に着きますよ。と言っても見えないと思うけど。私は車で待ってますから、見に行ってみてくださいな」
もう、4人で死ぬほど感謝を伝えた。
公共交通機関の縛りは完全に地平の向こうに消し飛んでいる。滝川とか富良野に着くまでにあんなに苦労したのに、4人ともそんなことはすっかり忘れている。
タクシーは舗装されていない砂利の駐車場に停まった。美瑛の森の中だ。辺り一面が暗く、道もよく見えない。当然私たち以外には誰もいない。
「こりゃあ暗いぜ」
「見えるかな」
「見えなさそうですね」
「いや、信じろ、きっと見える」
ユウヘイはそう言っていた。
舗装されていない道を歩いていく。林の中だ。青い池は、初期の観光地にすでになっていたから、一応ここだろう、というように砂利道が敷かれている。コウスケがスマホで灯りをつける。
「踏み外して池に落ちたりして」
「なんかクマ出てきそうだな」
「本当に青いんですかね?」
「大丈夫。たしかめるぞ」
ユウヘイが言う。
駐車場から50mくらい歩いただろうか。
鬱蒼としていた木々が切れ、暗がりの中でも景色が開けているのが分かった。そこだ。そこに青い池がある。タマちんが先に走る。暗い中を走る。
「あ!ありました!池です!」
「ど、どう?青いか!?」
思えば、ユウヘイが私に眼鏡屋で「今年、夏らしいことをしたか?」と言ってきたことから始まった旅だ。道中、電車に乗り、美唄焼き鳥はなく、電車がないのでバスに乗り、思ったよりも滝川駅は遠く、富良野までワンマン電車に乗ってマイナスイオン的なものを感じ、公共交通機関の縛りを解除してここまでやってきた。「青い池は本当に青いのか?」だけを確かめに札幌からはるばる美瑛までやってきた。
今、私たちの目の前に池がある。
タマちんが言う。
「あ、青いです!!!!」
そりゃね。
だって「青い池」なんだもん。
そりゃ、青いよ。
池は月明かりに照らされてよく見えた。
たしかに青い。もしも太陽が中天にあれば、青い池はこう見える。
「青いなぁ」
「たしかに青いね」
「すっごい青ですよこれ!」
「やっぱり青かったか…」
そりゃね。
「青い池」っていうくらいだから。
青い池は、たしかに青かった。
こうして私たちは、とりあえず写真を撮って、タクシーに戻った。タクシーは私たちを美瑛駅まで運んでくれて、あとは帰るだけだ。美瑛駅から旭川駅に向かい、そこから札幌駅まで電車一本だ。札幌駅に着いた時には、時刻はすでに23時近くになっていた。
朝から約12時間を共に過ごした私たちは、それぞれ家路に着くためにバラバラになる。みんながみんな疲れで眠くなり、口数も少ない。
駅の東改札口で私たち4人は解散することになった。私とコウスケの頭の中には、今日一日を通して、ずっとタマちんに対して疑問に思っていたことがあり、最後に確認のために質問した。
「ねぇ、タマちんの本名ってなに?」
(終)
4日間にわたって書いてきた、ただの旅行記。Ep.1に書いたが、この1日をきっかけにして、私の人生が変わり出した。
なぜ、どのように私の人生が変わり出したのかを、明日まとめてみようと思う。お得意の具体例から抽象化するやり方だ。