春の雄鹿は密かに語る
花盛りにはまだ少し早いけれど、奈良公園の桜もぽつぽつと蕾をほどいて顔をほころばせはじめた。それが連日の春雨にうたれて今日は何とも心細そうにうつむいている。
脇道の奥では二頭の雄鹿が頭を突き合わせていて、いよいよケンカが始まるかと思って見ていると、そのうちお互いに目の上など優しくペロペロとなめだした。私は「ははあ」と思ってそれ以上は見ないでおくことにする。
桜の木陰は二人をそっと隠して、春日大社の参道には、春の行楽が次第に賑わいを見せ始めたようだ。
そのむかし空海上人のまだ若