福市恵子ができるまで。(中三編)
ゲームを翻訳して暮らす福市恵子(設定年齢19歳)は、どのような過程をへてできあがったのか、という話をしている。
前回は、厨二属性極振りで生きていたリアル中学二年生までのお話をした。
続きとなる今回は中学三年生からの話になるが、その直前、中二の一月に、ある事件が起きた。
私がそもそも英語にハマるきっかけとなったバンド「X」から、ベーシストにして私の将来の結婚相手(in my 妄想)だったTAIJI氏が、脱退したのである。
これ以降Xは、無期限の活動休止期間に入ってしまう。当然、中二フクイチの落ち込みようは大変なものだった。このときTAIJI氏がご結婚されたことも落ち込みに拍車を掛ける要因だったりなかったりしたかもしれないが、そこはあまり深く掘らなくていいところだ。
忠実なる信者たるもの、何があろうといついつまでもお待ち申し上げる覚悟で、5年だろうと10年だろうと待機モードを保ち続けるのが正しい姿勢である。
しかし、ここでひとつ、私の身に大きな問題が降りかかった。時を同じくして、興味が海外のハードロック・ヘビーメタルバンドへ移りつつあったのだ。
そしてこの大問題には、さらに恐ろしいおまけがついていた。
当時の私は、「生まれて初めて洋楽を知った中学生 ※」だったのである。
(※ 「生まれて初めて洋楽を知った中学生」とは
「いや、オレ洋楽しか聴かないんで」などと抜かしながら、昨日まで夢中で聴いていた「邦楽」と名のつくものすべてをかたっぱしから軽んじはじめる、アレ)
そんなわけで、Xに関しては、ここでいったん脳内祭りが終了する。
祭りが再開され、この当時所持していたCDだのVHSのDVD復刻版だのをひとつ残らず再購入するのも、「残りあと200ワード」のパワーが出ないときに「Silent Jealousy」を爆音でエンドレスリピートするようになるのも、翻訳者デビューをしたあとのことだ。代わりに中三フクイチの脳内で盛大に繰り広げられたのは、洋楽ハードロック・ヘビーメタル祭りだった。
将来はメタルバンドのリードギタリストになるという夢を胸に、ポール・ギルバートかマイケル・ヴァイカートかトミー・ハートかアンドレ・マトスと結婚する未来を勝手に思い描きながら、ありとあらゆるロック界のレジェンドたちを神とあがめ奉り生きる日々が始まった。
当時は円高差益のおかげで輸入盤のCDが安く手に入り、中学生のお小遣いでも月一ぐらいで新品を購入できた。私は通学の電車を途中下車し、新宿のディスクユニオンだのレコファンだのに足しげく通った。
そうして、北米、ヨーロッパ、南米など世界各国で活動するハードロック・ヘビーメタルバンドのCDを手に入れては、片道一時間半の遠距離通学中、音漏れしまくりのヘッドフォンとポータブルCDプレイヤーでジャカジャカ聴きまくった。通学時間がトータル3時間あると、フルアルバムを毎日3回はリピートできる。重金属ワールドに浸るには、この上ない環境だった。
もちろん、気になるバンドの来日公演があれば、せっせと足を運んだ。家から最寄り駅までバスに乗らずに歩き、親からもらった回数券代をチョロまかしてチケット代にあてていた。
いわゆる「陽」の属性を持つクラスメイトたちの多くがKinki KidsやSMAPといった方々の活動に興味を向ける中、私は中野サンプラザにHelloweenを、クラブチッタ川崎にAnnihilatorを拝みに出向き、私服は常に会場の物販で購入したバンドTシャツだった。もちろん、ライブに同伴してくれる友人などいないので、私の中では常に「ライブとは一人で行くもの」であり、「翌日はヘドバンのしすぎで首がムチウチみたいになって動かないもの」であった。
この当時聴きまくっていた楽曲の歌詞はすべて英語だったので、意味を正しく理解するには、これまで以上に英語力を磨かなくてはいけなかった。
加えて、たまたま来日してて街を散歩中のジョー・ペリーといつどこでランダムエンカウントするかわからないので、いつそうなっても完璧に意思疎通ができるよう、駅前留学NOVAに通いはじめたのもこの頃だ。
それ以外は、相変わらずギターばかり弾いている毎日で、ギターで飯を食うと言っているのに高校に行く必要性が見いだせず、あんなに苦労して中学受験して入った中高大一貫の学校を「辞めたい」と言いだして、親を大いに困惑させた。
そんなある日、私は、ふと重大な事実に気づく。
「てか、日本の街を歩いてて、ジョー・ペリーとエンカウントするとか、まずありえない」
通学の満員電車にはこんなに人がギュウギュウ乗っているのに、その中に一人でもスラッシュやセバスチャン・バックが混ざっていたことがあったか。
加えて、この頃には英語そのものへの興味の高まりから、ハリウッド映画も多数見るようになっていた。
「アメリカ行きたい」→「将来アメリカに住む」→「将来アメリカ人になる」と、「アメリカ」という国への憧れは日々加速度的に増していった。
どうするか。
↓
行くしかない。
こうして、中三フクイチの胸中に新たな決意が結ばれた。
「高校で、留学する(なのでとりあえず高校は行く)」。
次回、「フクイチ、海を渡る…???」
……かどうかは、お楽しみに。
【今日のフクイチ】
新規案件が始まって、ひたすら訳す日々です。
連日ただただ訳す日々が続くと、ものすごい勢いでお肌が荒れます…
実機テストのときは、そうでもないんだけどなあ。
「訳しおわってない部分は白紙のまま」、というプレッシャーが、なにげにじわじわストレスになっているような気もします。
この年になると、ニキビじゃなくて吹き出物って呼ぶんだって。かわいくないね。
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