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チャリチャリって、どう運営しているの? 新規ポート開設の舞台裏
こんにちは。ライターの大塚たくまです。
今回は「おねがいチャリチャリ!“あったらいいなポート”大募集」の結果、15件の新規ポートが新たに誕生したということで、レポート記事を執筆する依頼をいただきました。
ただ、正直思ってしまうことがあって……。
「チャリチャリの新規ポートが15件できた」って、依頼して記事をつくらなきゃいけないほど凄いことなの?
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というか、そもそもチャリチャリを使ったことがないんですよね。取材へ行く前に一度使ってみよう!
チャリチャリを使ってみた
簡単に使えるのか、実際に使ってみましょう。まずは、「チャリチャリ」で検索して、アプリをダウンロードします。
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ダウンロードして、料金を支払うためのクレジットカードを登録すれば、すぐに使えるようになります。
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ブルーのピンが立っているところが、現在地。そして、数字の書いた白マルがチャリチャリのポートです。数字は台数で、雷マークは電動自転車の有無を示しています。
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近所のポートに行ってみましょう。ここの角を左に曲がれば、チャリチャリのポートがあるはず……。
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おお。ちゃんとありました。
赤い自転車が並んでいます。まずは、乗る自転車を選びましょう。
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自転車はベーシックと電動の2タイプがあります。ベーシックと電動では、料金が異なるので確認しましょう。
ベーシック: 1 分あたり 6 円
電動アシスト: 1 分あたり 15 円
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今日走ろうと思っているコースはキツい登り坂があるわけでもないため、ベーシックにしようと思います。自転車を選んだら、アプリの「鍵をあける」をタップ。
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すると、こんな画面が出てくるので、自転車の鍵についているQRコードを読み込ませましょう。すると……。
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カチャ!
ちゃんと自転車の鍵が開きました!これでチャリチャリに乗れます。
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アプリには「ライド時間」が表示され、時間の計測が始まりました。自転車の乗車時間に応じて、料金が決定します。
今回は福岡市役所から大橋駅まで行ってみようと思います。大橋駅にはたくさんのポートがあるようで返却にもまったく困らなさそうです。安心して出発します。
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乗ってみると、自転車が新品のようにスイスイ動くのでびっくり。自分が持っているママチャリとぜんぜん違う。シェアサイクルなら、自分で手入れしなくても、手入れの行き届いた自転車に乗れるんですね。
あまりの快適さに自転車の手入れって、大事なんだなあと実感します。
快適にスイスイと進んでいると、とっても気持ちがいい。自宅から離れた場所で自転車に乗ることそのものに非日常を感じます。ぐんぐん進む景色が新鮮。これは楽しいぞ。
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大橋駅へ無事に到着。いい汗をかきました。自転車を返すときは、ポートに自転車を停めた状態で鍵をしめます。鍵をしめなければ、ライドが終了せずに料金が加算され続けるので注意しましょう。
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福岡市役所から大橋駅まで36分47秒のライド。料金は222円でした。アプリにはカロリー消費量も表示されており、108kcal消費したとのこと。ちょっと嬉しい。
なんとなくピンとこなくて、使ったことがなかったのですが、実際に使うとめちゃ便利。バスや鉄道よりも安いし、運動になります。
福岡で約4200台を管理するチャリチャリの舞台裏
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まったく人間に接することなく、自転車を借りて、返したぼく。一体、チャリチャリはどう運営されているのでしょうか。
チャリチャリの運営、管理の仕組みについて気になったぼくは、チャリチャリの本部へ取材へ出向きました。チャリチャリの広報・西川さんにお話をうかがいます。
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──はじめて乗ってみたんですけど、チャリチャリは簡単で快適でした。
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そうでしたか!ありがとうございます。
──チャリチャリは福岡市内でどれぐらい走ってるんでしょうか?
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福岡市内では約4200台が稼働しています。そのうちの1600台が電動アシスト付き車体です。ポートは約680か所あります。
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──そ、そんなにあるんですか。みなさんがチャリチャリを使用すると、ポートにある自転車の数に偏りが出ますよね。
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そうですね。朝の通勤時間には、郊外のポートから一斉に街なかのポートに集結します。そして、夕方の退勤時間には、一斉に街なかのポートが空になっていきます。
──そうなると、お昼に郊外のポートには自転車がなくなりますよね。そこはどう対処してるんですか?
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自転車の回収と再配置を行うクルーがいまして、市内のポートを巡回してしています。
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──めっちゃ人力だ。
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朝7時から夜10時まで、シフトを回しながら、6台のトラックが巡回しています。毎日1000台くらいは再配備していますね。
──約680か所に約4200台散らばっている自転車の台数を整えるために、トラック6台で自転車1000台ですか。めちゃめちゃ大変ですね……。
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再配備のクルーはアプリで自転車の台数をチェックしながら、市内を巡回しています。効率的に巡回するためには、勘といいますか、熟練された判断能力が必要です。
──たしかに、いつだってどこか多いし、どこか少ないわけですもんね。どうやって判断すればいいんでしょうか。優先順位の基準はありますか?
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各ポートの状況を把握しておくことは重要です。ポートによっては、1~2台オーバーしてしまうだけで、通路にはみ出てしまう恐れがあるところもあります。そういったポートは優先することになりますね。
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──そうか、ポートによって状況が違うわけですね!それを把握しておかなければならないのか……。巡回するクルーは大変だ。
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巡回するクルーによって、チャリチャリは支えられています。巡回するクルーは大きくこの4つに分かれます。
トラックで巡回して、各ポートの自転車を最適台数に再配備してくれるクルー
電動アシスト付き自転車のバッテリー交換をしてくれるクルー
街中を巡回しながら軽微な故障を修理してくれるクルー
特に利用の多いエリアのみを巡回し、ポート整備をしてくれるクルー
──そうか、電動自転車のバッテリーを交換したり、故障を修理したりすることもあるのか……。
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毎日の巡回と共に空気圧やブレーキのチェック、パンクなどの修理も行っています。チャリチャリの各自転車は1日平均で30~40km程度走っているので、毎日100台程度修理しています。
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──毎日100台修理……。こういった、現場で自転車のケアをしているスタッフって、何人程度いらっしゃるんでしょうか。
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約30名ですね。この30名で効率的に行っています。
──なるほど……。約30名で1日30km程度走る約4200台の自転車を毎日ケアし続けているということですね。そんなこと、アプリの手軽さからは到底想像できない……。
便利で使いやすいチャリチャリの知られざるこだわり
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──チャリチャリがめちゃめちゃ使いやすかったのも印象的でした。とくにアプリに関しては、まったく迷うことなく利用できてすごかったです。
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アプリに関しては、とにかくシンプルに、迷いなく使えるように作られていますね。
──自分のスマホでQRコードを読み込むと、鍵が「カチャッ!」と開くのなんて、感動しちゃいますよ。
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そうですよね。あの「鍵」なんですが、かなり開発に苦労したと聞いております。現在の鍵はかれこれ3代目になります。
──え!? そうなんですか。なぜ開発し直さないといけなくなったのでしょう。
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初代の鍵はバッテリーが数日しか持たなかったそうなんです。
──バッテリーが必要なのか……。自動でカチャッと開いたり、通信もするわけですもんね。鍵のバッテリーなんて、考えたことがなかった。
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バッテリーの持ちを良くするために、二代目からはソーラーパネルで充電できる方式に変わりました。自転車かごの黒い底はソーラーパネルです。
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──この黒い板は鍵のバッテリー用のソーラーパネルだったんですね。
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この形式にすることで、バッテリーの問題は大幅に解消されたんですよ。
──でも、2代目も3代目に変わるわけですよね。どのような変更があったんですか。
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これまでの鍵は外部に開発を委託しており、鍵の中がブラックボックス化していました。そのため、改良するときに中を触れなかったんです。そこで、3代目は改良がしやすいように、ゼロベースで自社で鍵を制作しました。
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──チャリチャリの歴史は、鍵の改良の歴史なのか……。この鍵はチャリチャリの心臓なんですね。
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そうとも言えると思います。ちなみに、チャリチャリのこだわりは鍵やアプリだけではありません。車体にもこだわりがあるんです。
──車体にこだわるのは自転車メーカーじゃないんですか。
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チャリチャリで使用している自転車は、シェアサイクル用に独自で開発したものなんですよ。
──ええっ! 既製品を赤く塗ってるだけかと思っていました。シェアサイクル用というと、どのような点を工夫しているのでしょうか。
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車体を低くする事で、どんな身体の大きさの方でも乗りやすくしています。サドルの上げ下げも簡単にできるようにしています。
──なるほど。背が高い人はサドルさえ合わせれば、低い人に合わせることはできますね。
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あとは、自転車自体がタフということですね。
──たくさんの人が乗るわけですから、たしかに自転車の耐久性は重要ですよね。やはり、タイヤやチェーンが丈夫ということなのでしょうか。
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そこももちろんなんですが、他の自転車と比較して特に丈夫なのはグリップやサドル、ペダルといった部分です。たくさんの人が触れる場所なので、重要です。
──たしかに!大勢が乗る自転車なら、まずそこのタフさが重要ですね。
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シェアサイクルで乗る自転車のグリップが溶けてベタベタしていたり、サドルが破れていたらイヤじゃないですか。だからこそ、そこの部分は他の自転車と比較しても、とりわけタフにできています。
──そのような細やかなこだわりが積み重なり、チャリチャリの利便性は守られていたのか……。
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また、なるべく部品の数を少なくして、故障の原因や不快に感じる要因が少なくなるように工夫しています。
チャリチャリの新規ポート開設の舞台裏
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──さて、そんなチャリチャリは「おねがいチャリチャリ!“あったらいいなポート”大募集」の企画を通じ、LINEユーザーからポート設置場所の要望を集めていましたね。
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はい、おかげさまで5000件を超えるリクエストをいただきました。
──5000件も!具体的にはどのような場所にリクエストがあったのでしょうか。
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圧倒的に多かったのは、コンビニなどの店舗敷地内でした。次いで、駅付近などの交通結節点になる場所が多かったです。1カ所に10件以上要望が寄せられたところもありました。
──コンビニと駅か!納得ですね……。「新幹線博多駅筑紫口」のポート
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飲食店などの目的地となり得る場所にポートが欲しいという要望の方の場合は、ご自身がいかにそのお店を愛しているか、という熱いメッセージをいただくことが多くありました。
──それは面白いですね。チャリチャリを置いてほしいくらい、好きな店。
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なぜこの場所にポートが必要だと思うのか、といったところまで細かく記載いただいている方もいて、本当にまちの皆さん一丸となってポートを作っていただいているという実感を持つことができました。たとえばこんな感じです。
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──コンサルみたいですごいですね。ユーザーも「ここにポートがあったらいいな」と考えることを楽しんでいたんでしょうね。実際に要望を集めてみて、新たな気づきはありましたか?
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要望が集中している場所を優先しようと思ったんですが、エリア内で満遍なくリクエストをいただいておりました。
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──すごい、本当に満遍なく埋まっていますね。
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目の前とか、道渡ったらポートありますよってところにもリクエストをいただいていたので、いかにお客さまの生活動線上にポート設置するかというのが大事なんだなと思いました。
──みんな、自転車まで歩きたくないんでしょうね……。わかるわ……。
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実際、私も家から50mのところにポートあって便利だなと最初は思ってましたが、今は家の目の前にポートが欲しくてしょうがないです。ポート開拓によって、戦略は変化を続けますが、お客さま目線で考えると、エリア内に密度を高くポートをつくっていくというのは変わらないスタンスとして持っておくことが重要だと感じました。
──そして、要望の結果、どこにポートができたんでしょうか。
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リクエストをいただいた場所から、商業施設などの目的地になる場所や、交通結節点になる場所から開設しました。これが今回新たに開設したポートのリストです。
JR千早駅東口①
ハローデイハローパーク千早①
ハローデイハローパーク千早②
髙野胃腸科
医療法人貝塚病院
HILLTOP RESORT FUKUOKA
エンクレスト博多Ⅲ
エンクレスト博多駅南GRACE
正屋(MASAYA)
ワンダーランド16百年橋ステーション①
ワンダーランド16百年橋ステーション②
姪浜駅南口
ドコモショップ福重店
ドラッグセイムス早良南庄店
博多駅前ビジネスセンター
──おお、結構できましたね!
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たくさんの要望をいただいているので、本当はもっとポートを作りたいと思っています。今回いただいた皆さんの要望は貴重なデータなので、今後のポート開設に引き続き活かしていくつもりです。
──どのような場所が、ポートの設置が実現しやすいのでしょうか。
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土地の使用が許可されやすい場所ですね。そのため、土地の持ち主の方との交渉が容易な場合は、ポート設置が実現しやすいです。
──そうか。デッドスペースに自転車置くだけなんだから、カンタンなんだと思ってましたが……。
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そう思いますよね。チャリチャリのポートを新規開設するためには、以下のような手順を踏む必要があります。
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──意外と手順がありますね。
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そもそも「この土地の権利者は誰になるのだろう?」というところでは、よく悩んでいます。同じ土地の中でも「この土地の、このスペースの権利者は誰?」となると、よくわからなかったりすることもあります。
──一つの土地にいろいろな企業が入り込んでいることもありますしね。
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駅前の設置の場合、ポートを設置しようとしているスペースがどこの管轄なのかがわからないことがありました。福岡市を含め、いくつもの団体と協議を重ねて、ようやく設置に至るということもあります。
──想像以上に大変だ……。
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さらに、私たちから見れば「デッドスペース」と思っていた場所にも、意味があることもあります。設置しようとしていたところが、非常時に避難はしごが降りてくる場所なので、空けておかなければならない場所だったことがわかることもありました。
──ポートの設置は、そういった諸問題を解決した結果なんですね。大切に使わないと……。
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利用者の皆さんがルールを守ってチャリチャリのポートをお使いいただくことで、ポートが継続します。ぜひ、ルールを守って利用いただけますと幸いです。
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──たしかに、ポート設置を許可している土地の所有者に迷惑がかかってしまうと、続けられなくなりますよね。実際に、一人のルール違反でポート撤去に繋がってしまうパターンもあるんでしょうか。
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はい、そういった事例が月に1~2件ほどあります。
──そうなんですか。それはこれからもルールを守って使わないといけないですね。今後も、福岡市民がより便利にチャリチャリを使えるように新たな「ポート開設」を期待しています。
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ありがとうございます。日々何気なくしている、移動という手段の選択肢が増えることで、日常が少しだけ豊かになると思うんです。いつもは行かない道を回って気分転換してみたり、新しいお店との出会いがあったり。そういう、自転車でしか味わえない移動の楽しさに触れて、いつもの日常を少しでも楽しいものにしていただけると嬉しいです。
──本日は貴重なお話をありがとうございました。
チャリチャリの便利と安全を守るために
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ぼくは、チャリチャリというサービスに対し、あまり「人間味」を感じていませんでした。
しかし、実際に使ってみて、取材してみると、想像を絶するくらい、たくさんの人が関わっていて、めちゃめちゃ泥臭くて驚いてしまいました……。
そんな泥臭さを一切感じさせずに、自然に街に馴染んでいるチャリチャリは、かっこいいなとも思いました。
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一台のチャリチャリの向こうには、たくさんの人たちの仕事や暮らしがあります。
次にチャリチャリを使うときには、福岡市で行われている約4200台に及ぶ壮大な自転車のバトンリレーに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。自転車を通じて、少しあたたかい気持ちになれるかもしれませんよ。
「おねがいチャリチャリ!“あったらいいなポート”大募集」で生まれた新規ポート、これからどんどん活用していきましょう!
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