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新語・流行語大賞はいつから違和感が強くなったか調べてみた

「現代用語の基礎知識選 2024ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞に「ふてほど」が選ばれた。これはTBSドラマ「不適切にもほどがある!」の略称である。

筆者はこの「不適切にもほどがある!」を見ていたし、ある程度ヒットしたドラマだとは思っていたが、まさか年間大賞を取るとは驚いた。視聴率って、どれぐらいだったんだろうかと思って調べてみると、平均世帯視聴率は7.4%。

視聴率が7.4%の番組の言葉が新語・流行語大賞の年間大賞をとるなんて、時代が変わったなぁ。そう思って、Xでポストしたところ、やたら拡散してしまった。

「今は視聴率では語れない」というリプや引用がたくさんついたが、無論、そんなことはわかっている。「変わったなぁ」という趣旨のポストだった。

以前、年間大賞を取った「倍返しだ」の「半沢直樹」が29%だったことを思うと、本当に時代は変わった。そりゃそうだ。半沢直樹は11年前の大昔のドラマなのだ。その頃に、Tverはまだない。

「ふてほど」はドラマの内容こそ画期的で、とてもおもしろかった。現代の風刺がたくさん入っており、それでいて、重くならずに軽く見られる。寛容な雰囲気のドラマだった。ミュージカルの場面も面白かった。

「不適切にもほどがある!」の視聴率はテレビではすぐれず、同じクールのTBSドラマ「さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜」にも、平均視聴率では負けている。ただし、Tverでは2024年1-3月期は3,342万再生で総合1位となった。

ただ、これも年間を通じてみると、決して突出した数字ではない。たとえば、フジテレビで放送された月9ドラマ「海のはじまり」は、2024年7-9月期で7,148万再生を記録しており、「ふてほど」の2倍以上だ。

今年、流行ったドラマとして、Tverを踏まえても「年間大賞」に匹敵するような人気だとは思えない。

そもそも「不適切にもほどがある!」は見ていたけど、「ふてほど」なんて呼んでいるイメージはほとんどないし、友人との会話でも登場することはなかった。

選考委員のやくみつるさんのコメントを読んだが「あえてギリギリを攻めて世に問うた今回のドラマは、逆説的に新語・流行語大賞を想起させ、親和性がある」と理由が語られており、余計に意味がわからなくなった。ドラマの内容が、流行語大賞にどう関係があるのだろうか。

個人的には「年間大賞に適切かなぁ」と思ったのは「50-50」「界隈」「カスハラ」である。このへんはだいぶ聞いたし、派生語も聞いた。流行ったと言われても納得できる。

ぼくがこの賞の趣旨を間違えているのだろうか。趣旨を調べると、こうある。

この賞は、1年の間に発生したさまざまな「ことば」のなかで、軽妙に世相を衝いた表現とニュアンスをもって、広く大衆の目・口・耳をにぎわせた新語・流行語を選ぶとともに、その「ことば」に深くかかわった人物・団体を毎年顕彰するもの。

「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞 公式サイト

うーん、なるほど。「世相を衝いた表現」とあるので、ここは結構重要なのかもしれない。とはいえ、広く大衆の目・口・耳をにぎわせた新語・流行語が選ばれてほしい気はする。

昔、流行語大賞は納得いく選定だったように思う。ぼくが子どもだった、90年代の年間大賞を調べてみた。

1991年 :…じゃあ〜りませんか(チャーリー浜)
1992年: 「うれしいような、かなしいような」「はだかのおつきあい」(きんさんぎんさん)
1993年:Jリーグ (川淵三郎)
1994年:すったもんだがありました(宮沢りえ)、イチロー<効果> (イチロー)同情するならカネをくれ(安達祐実)
1995年: 無党派 (青島幸男)、NOMO(野茂英雄)、がんばろうKOBE(仰木彬)
1996年:自分で自分をほめたい(有森裕子)、友愛 / 排除の論理(鳩山由紀夫)、メークドラマ(長嶋茂雄)
1997年:失楽園<する>(渡辺淳一、黒木瞳)
1998年:ハマの大魔神(佐々木主浩)、凡人・軍人・変人 (田中真紀子)、だっちゅーの(パイレーツ)
1999年:ブッチホン(小渕恵三)、リベンジ(松坂大輔)、雑草魂(上原浩治)

これこれ。これこそが年間大賞クラスの言葉である。94年の「同情するならカネをくれ」はみんな言ってたし、96年の「自分で自分をほめたい」、97年の「失楽園する」。そして、98年の「だっちゅーの」なんていうのは、まさに流行語だなあ、と思う。

とはいえ、やはり政治系の言葉でちょっと弱いものもあるような気はするか。

2000年:おっはー (慎吾ママ・香取慎吾)、IT革命(木下斉)
2001年 :小泉語録 ー 米百俵・聖域なき構造改革・恐れず怯まず捉われず・骨太の方針・ワイドショー内閣・改革の「痛み」(小泉純一郎)
2002年:タマちゃん、W杯<中津江村>(坂本休)
2003年:毒まんじゅう(野中広務)、なんでだろう〜(テツandトモ)、マニフェスト(北川正恭)
2004年:チョー気持ちいい (北島康介)
2005年:小泉劇場(武部勤)、想定内<外>(堀江貴文)
2006年:イナバウアー(荒川静香)、品格(藤原正彦)
2007年 :<宮崎を>どげんかせんといかん(東国原英夫)、ハニカミ王子(石川遼)
2008年:グ〜!(エド・はるみ)、アラフォー(天海祐希)
2009年:政権交代(鳩山由紀夫)
2010年:ゲゲゲの〜(武良布枝)

ここもまだまだ違和感はない。2000年の「おっはー」や、2004年の「チョー気持ちいい」、2005年の「想定内」などはまさに「流行語大賞」といった感じ。納得である。あのエド・はるみが年間大賞を獲っていたことを、今更ながら思い出した。すごい人である。「アラフォー」や「マニフェスト」など、その後も定着し続けている言葉もある。

2011年:なでしこジャパン
2012年:ワイルドだろぉ(スギちゃん)
2013年:今でしょ!(林修)、お・も・て・な・し(滝川クリステル)、じぇじぇじぇ(宮藤官九郎、能年玲奈)、倍返し(堺雅人)
2014年:ダメよ〜ダメダメ(日本エレキテル連合)、集団的自衛権
2015年:爆買い、トリプルスリー(柳田悠岐、山田哲人)

個人的には「年間大賞」に、はじめて違和感を明確に感じたのは、2014年の「集団的自衛権」である。この時は、「ダメよ〜ダメダメ」とのW受賞となったことで、「メッセージ性を感じる」みたいなノリがあり、それがかなり薄ら寒くて苦手だった。

Xの関係ないトレンドを並べて一文にし「え!!こういうことですか!?」なんて騒いでる人のような、イタさがある。確かに「集団的自衛権」は話題になったが「新語・流行語」と言われると、強い違和感がある。

実際にこの年の選考委員である鳥越俊太郎さんは、このようなコメントを残している。

特定秘密保護法から始まってアベノミクス、集団的自衛権、原発再稼働も、国民が反対しているにもかかわらず政府は少しずつ推し進めた。それに対して国民の気持ちを最もよく表すのが『ダメよ~ダメダメ』

流行語大賞に「集団的自衛権」「ダメよ~ダメダメ」(朝日新聞)

このようにおじさんの個人的な考えによって、強引に流行したことにさせられる賞になってきているのである。まあ、2013年が「これぞ流行語!」という、文句なしな言葉の当たり年だっただけに、反動が大きかったのかもしれない。

2014年は、どう考えてもアナ雪の「ありのままで」だと思うが、これに関しては選考委員のやくみつるさんが週刊朝日の2014年12月26日号でこう語っている。

「ダメよ~」より「ありのままで」のほうが、はるかに世間への影響は大きかったかもしれない。しかし選考委員が顔を見合わせて、「アナ雪見た?」「見てない」と。世間の声を拾い切れていなかったかもしれませんね。

やくみつる 流行語大賞選考委員にダメ出し(週刊朝日)

こういうコメントを見れば見るほど、つまんなくて冷めてしまう。

さらに違和感があるのは、2015年の「トリプルスリー」だ。野球の「トリプルスリー」という言葉は昔からあったし、それがたまたま同時に2人生まれたからと言って、それが流行語として「年間大賞」となることに強い違和感があった。「新語・流行語って、こういうことだったっけ?」という想いが沸々と湧いてきたのが、この頃である。

2016年:神ってる(緒方孝市、鈴木誠也)
2017年:インスタ映え、忖度
2018年:そだねー
2019年:ONE TEAM(ラグビーワールドカップ2019 日本代表)
2020年:3密(小池百合子)

この5年の中で、2017年、2018年、2020年は確かに納得。ただ、ひどい違和感が残るのは2016年の「神ってる」と、2019年の「ONE TEAM」である。スポーツは少し過剰評価になるのかな?という雰囲気が漂い始める。

2016年は「PPAP」「アモーレ」「ゲス不倫」などの流行語もあったし、2019年は「令和」「サブスク」「闇営業」などの流行語があっただけに、誰も言ってなかった「神ってる」と「ONE TEAM」には当時、かなり疑問があった気がする。「ONE TEAM」は年間大賞を獲った年の仕事納めや忘年会の挨拶で、上司が言いまくっていたことだろう。

2021年:リアル二刀流/ショータイム(大谷翔平)
2022年:村神様(村上宗隆)
2023年:アレ(A.R.E)(岡田彰布)
2024年:ふてほど (TBS系金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』)

2021年〜2023年はまさに「ピンとこない」というもので、「流行語って、こういうことでしたっけ?」と考えざるを得ない。大谷翔平選手や村上宗隆選手の活躍は、たしかにその年を代表するものだったと思うが、「新語・流行語」という観点ではないんじゃないかと思う。というか、野球だけ過剰評価されすぎている。

個人的には2021年は「Z世代」か「推し活」、2022年は難しいが「知らんけど」、2023年は「蛙化現象」か「生成AI」なんかかなと思う。

このへんから、完全に新語・流行語大賞についていけなくなってしまった。現状、新語・流行語大賞の問題は以下のようなところにある気がする。

・政治色の強いワードの過大評価
・野球関連ワードの過大評価
・選考委員が個人的にハマったものの過大評価

まあ、別に「新語・流行語大賞」なんて、何だっていいっちゃ、何だって良いんだけどね。なんか、面白いものが一個なくなっちゃったなって感じ。まあ、あんまり文句言うのもなんだし、寛容になりましょうかね。

大目に見ましょ。

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大塚たくま / 株式会社なかみ
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