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ケロ子です。

今日は東北大学病院の治験の日。朝から落ち着かなかった。

治験は麻酔をかけられて行われるそうなので、
年末の生検の時のような起きたまま回開頭はされない。
。。。が!
脳の奥深く、神経の多い部分へカテーテルを二本差し込み、直接患部へ投薬という斬新な発想の治験の為、5パーセント以下の確率ではあるが、
記憶を失う可能性もある、との説明をS先生から受けている。

治験から戻ってきたら、最悪の場合、
旦那さんが私のことを覚えていない事もあるわけだ。

しかし、私はここについては少し前向きだった。
私のことを覚えてなくても、生きていてくれればそれで良い。
旦那さんが元気になってくれたらどーでもいい。

私の事忘れたら忘れたで、私は元アイドルで今はこんなお腹だけど、痩せたら本当はすごいんだよ!
あなたの嫁はスーパーアイドルだったのよ!
と嘘を吹き込んででも喜ばせて見せるぞ。
元気になれば何でもいいわい、
といういささか不謹慎なことすら考えていた。

PM 13:00
手術の時間となって、旦那さんは着替えてストレッチャーで運ばれていった。
手術室には当然私は入れない。

エレベーターまでの見送りとなった。
ストレッチャーから旦那さんが手を伸ばす。
握りしめて声をかけながらエレベーターホールへ向かう。

エレベーターが開いて手を離した。
S先生が力強く頷いてエレベーターが閉まる。

しばらくエレベーターの前から動けなかった。
手術は2時間以内くらい、と聞いていた。
待つしかなかった。

そわそわと病室で待つ。
仕事のメールを読んでみるが、全く頭に入ってこない。
1時間が経過した。

家族からどう?戻った?とメッセージが届く。
まだ旦那さんは戻らない。
まだなの、遅いなぁ。。。とテキストを打ち込む。

PM 14:30
1時間半が経過。
まだ旦那さんは。。。。あ、ストレッチャーの音がした!
エレベーターホールを見つめる。

PM 14:40
旦那さんが帰ってきた。
手術用の青い服を着た斎藤先生と、他の先生たちにストレッチャーを押されて旦那さんは眠るように目を閉じていた。

慌てて病室の扉を大きく開けて、後ろに下がる。
ストレッチャーは静かに病室へ入り、先生方が慎重に旦那さんをベッドに移した。

斎藤先生は明るい笑顔だった。

斎藤先生「治験手術はうまくいきましたよ。
これで2日かけて投薬をします。
予定では7cc。経過を見ます。
今は麻酔で眠っていますが、もう少し待てば覚めるでしょう。
ゆっくり様子を見て話しかけてみてください。」

先生がたの術衣についてるおそらく旦那さんの血が生々しくてあわあわしたが、成功と聞いて安心した。
旦那さんはだらんとした感じで静かに呼吸している。管から呼吸しているようだ。

旦那さんが自然に目がさめるのをひたすら待つ。
さめるまでそんなに時間はかからなかった。

15分くらい経っただろうか。
旦那さんが小さく瞬きをした。
目を覚ましそうだ。

ケロ子「旦那さん、旦那さん、ケロ子だよ。わかる?旦那さん。」

ドキドキしながら静かに何度か呼びかけた。
あんた誰、って言われたら元スーパーアイドルの嫁と言ってやろうとか、用意していたアホな考えが消し飛び、何を言ったら良いか分からなかった。

ケロ子「旦那さん、旦那さん、聞こえる?」

旦那さんの目が静かに開いて、私の姿を捉えた。私の顔をまっすぐに見つめる。小さく小さく口を開いて何かを言おうとする。

ケロ子「旦那さん、何?ケロ子だよ、分かる?」

旦那さん「★●□。。。」

ケロ子「え?何?」

旦那さん「ぷ。。。。□▲。。」

ケロ子「なに?!」

旦那さん「ぷりん。。。。」

CED治験から戻った旦那さんの最初の一言は、まさかのおやつの催促だった。。。

ケロ子「ぷりんね、手術頑張ったね。ぷりんいくらでもあげるよ。食べようね。」

旦那さん嬉しそうに小さくうなづき、瞬きを繰り返す。

ケロ子「私のことわかる?覚えてる?名前言える?」

旦那さん「▲□●。。。●。。ケロ。。子。。」

旦那さんの記憶は失われてなかった。
先生方一同安堵する。

斎藤先生から注意を受ける。

S先生「頭についている二本のカテーテル管から投薬します。
投薬完了まで絶対に管を抜かない事。
寝てる間にかきむしったりしないようによく見張ってください。とても危険です。
口からの食事はしばらくできません。
流動食です。
ぷりんはもう少ししてからね。
常にこちらで、管理していますが、症状の変化、があればすぐに知らせてください。
また、呼吸が不安定になってきているので、痰が詰まることがありますから随時吸引します。
まずは、手術は成功です。経過を見ましょう。」

深々と頭を下げてお礼をしていると、途端に激しく咳き込む旦那さん。

看護師さん、先生方が慌てて吸引する。
うまく呼吸ができていないようだ。

会話はとても辛そうだ。
今日はとにかく安静に、との事。

旦那さんを休ませたいが、とにかくよくむせこむ。
辛そうに体を跳ねさせるほどむせこむ時もあり見てられない。

旦那さんが咳き込み続けると、監視しているアラームが鳴る。
看護師さんが飛び出してきて、痰とヨダレを吸引して落ち着かせる。

私は随時口や鼻の周りを拭いて、呼吸が少しでもしやすいようにし、時折かきむしるようにもごく旦那さんの手を優しく抑える。

旦那さんのむせこみは夜通し続いた。
旦那さんの病室は、ナースセンターの目の前。
すぐに気がついてもらえる位置にある。

旦那さんのベッドの横に、布団を敷いて私も休むが、旦那さんが時折手で頭を弄ろうとするので油断できない。
寝ぼけてるのか、カテーテルの刺さった頭のガーゼ部分を取ろうとするのだ。
カテーテルは、まるで鬼さんの角のように、旦那さんの頭に2本にょっきり刺さっている。
カテーテル管の上から白くて柔らかいガーゼ製?の帽子をかぶっている。

この考えるだけでもゾッとする行為を何としても阻止しなければならない。
本当に可哀想だけど、旦那さんの手を包帯で縛って夜寝ぼけてカテーテル管を抜き取らないように、縛り付けた。

しかし、考えが甘かった。
旦那さんの力は患者と思えないほど強い。
包帯を引きちぎりそうな勢いで体を跳ねさせて
頭にかぶっている、ガーゼの帽子を取ろうとする。
これがきになるようだ。すごい違和感なのだろう。

手が大きく動くたびに、ベッドのがシャン、と言う音で跳ね起きて、旦那さんの腕を抑えた。
ものすごい力でもがく旦那さん。
お互いもう必死だった。

記録はまだまだ続きます。

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旦那さんの病気の発症についてはこちらからどうぞ→発症時の日記 2016年12月 医師の告知

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