【SIer】SaaS提案で請負を迫られたときに準委任へ切り返す方法
担当者「開発なので請負は当然です」
特にエンタープライズ企業相手の営業ですと、開発=請負という考えが定着していることが多く、当然かのように上記の発言を貰うことがあります。
(そもそもSaaS製品は出来上がっているものを設定するものであって、開発というワードにも違和感がありますが、世間で使われる用語ということで開発とします。)
実際SaaS製品のインプリにおいて、請負で受注することはデメリットが多いことが多いです。
これは受注側だけでなく、発注側も同様です。
今回はいかにして準委任への提案に持っていくかの解説をしていきます。
準委任契約と請負契約の違い
まずは契約体系の整理をしたいと思います。
ざっくり両者の違いは以下となります。
大きな違いは以下でしょう。
請負契約=成果物に対しての報酬
準委任契約=かかった工数に対しての報酬
SaaS提案のインプリにおいては、準委任契約での対応が一般的かと思いますが、なぜ請負ではなく準委任契約が好まれるのでしょうか。
それは、SaaSを使うメリットがあるが故の理由が主になります。
なぜSaaS提案と請負契約の相性は悪いのか
答えは
SaaSは常にアップデートされるものだから
になります。
SaaSは下記のように物理基盤からアプリケーションまでSaaS提供者が責任を持っています。
これによって、SaaS利用者は日々のメンテナンスを自分たちですることなく、また日々のアップデート対応によって新機能を使うことができるなどのメリットを享受できます。
ここで問題になるのがアップデートのタイミング含めて
自分たちではコントロールできない点です。
SaaSは常にアップデートを繰り返します。
これは言い換えると、同じものが常に使えるとは限らないと言えます。
常にアップデートがあるものと考えた際に以下の考慮事項が出てきます。
・要件定義のフェーズでパラメータを定義したとしても、アップデートが入った瞬間に書き換えが必要な可能性がある
・納品物にアップデートが入った結果、UIが変わる可能性がある。
・バグが発生した場合の切り分けが困難(SaaSプラットフォームに依存している場合、インプリベンダーでは対応不可)
・非機能要件の対応ができない(SaaSプラットフォームに依存しているため)
つまり、成果物の定義をすることが極めて困難なのがSaaSなのです。
この点が請負の本質である成果物を納品すると相性が悪いのです。
SaaSインプリが完了した後に、その成果物が未来永劫同じように動くという保証はできません。
なぜなら、その機能の決定権を持つのはインプリベンダーではなく、SaaS提供者だからです。
発注者側の言い分
ここで冒頭の発注側の発言を思い出します。
「開発なので請負は当然です」
この発言が出てくる意図は何なのでしょうか。
結論としては、目的に沿ったものが出てこないときの担保が契約時点でもらえないことを恐れているのです。
発注担当者が上申する際に「失敗したときの担保はどうするのだ」と上司から言われた際に、請負だと成果物の保証があるので、説明がしやすいわけです。
しかし、だからといって受注者側も簡単に請負を受け入れることはできません。
理由は先に述べたようにSaaSと請負の相性が悪いからです。
では、どのようにして準委任契約で納得してもらえばよいでしょうか。
結論としては発注者が恐れている点を取り除くことや、そもそも請負で発注するデメリットを説明することになります。
準委任契約を認めてもらうための対応
ここからは発注者側の言い分に対する回答を記載していきます。
発注者「失敗した場合の担保がないので請負で契約してほしい」
↓
準委任契約の場合でも善管注意義務という文言が民法で定められています。
善管注意義務とは、技術者の能力から鑑みて通常期待される注意義務のことであり、簡単にいえばスキルに見合った動きをする義務があるということです。
つまり、途中で投げ出すようなことは禁じられていますし、実際にこの義務を怠って訴訟に発展した他社事例もございます。
弊社としては、そのようなことにならないよう最善を尽くさせていただきます。
発注者「要件変更には柔軟に対応してほしい」
↓
請負契約では不可能です。なぜなら、請負契約は成果物を定めてからの変更は一切不可だからです。
現実問題としてSaaS導入においてはアップデート対応ですとか、SaaSに合わせた業務フローを構築していく等、導入段階でも要件が変わることが頻繁に起こりえます。
だからこそ、成果物の定めがなく工数内での対応変更が可能な準委任契約はSaaS導入において非常に相性が良いものです。
発注者「他社も請負で出しています」
多くの場合前提条件を付けての了承が多いです。
この場合は、「他社様はどのような前提条件で請負を了承しているのでしょうか。」と聞きましょう。
次セクションで記載しますが、民法の内容は契約書で上書きすることが可能です。
例えば、下記のような文言を契約書で記した場合、請負契約と言いつつも実態は準委任と変わらないというパターンもあり得ます。
契約書で明文化することの重要性
ここまで民法に定められたルールに則った回答をしてきましたが、重要な点があります。
それは「民法は契約書に載っていないことに対して適用されるもの」という点です。
つまり
契約書 > 民法
なのです。
これが何を意味するのかというと、必ずしも民法に記載された内容に従う必要はないということです。
両者の合意があれば、民法の内容を上書きして契約することもできます。
特に、契約終了後のサポート期間等は企業によって対応方針が異なるのでしっかりと法務確認を取ったうえで明記しましょう。
最後に
ここまで準委任契約を勝ち取るための手順を記載しました。
しかし、どこまで言っても対応してくれない発注者は存在します。
その場合、どうするか?
結論は、自分たちの提供サービスに価値を感じる企業を探すです。
結局のところ、契約体系のメリットデメリットをしっかり説明しても首を縦に振らない企業は存在します。
そのような場合、回答が覆ることは極めて難しいです。
逆にサービスに価値を感じてくれる企業様でしたら、説明内容に対してしっかりと社内説得もしてくれます。
なぜなら、契約体系の不安以上に得られるメリットを感じてくれているからです。
しかしながら、ごり押しするだけでは人は納得しません。
今回記述した内容は最低限抑える内容として、発注者受注者共にWinWinとなる関係となれるような説明をするのも営業の仕事となります。
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