【HR EXPOセミナーレポート】成長を加速させる「日本型OKR」設計・運用の極意
OKRや1on1、リアルタイムフィードバック、人事評価等などパフォーマンス・マネジメントを実現するオールインワンクラウド「HiManager」を提供するハイマネージャー株式会社は、2024年10月2〜4日に幕張メッセで開催された「総務・経理・人事Week HR EXPO秋」に出展、イベント内「カイシャのミライカレッジ2024Tokyo秋」のバックソリューションセミナーで、3日間にわたり講座を担当しました。
本記事では、取締役COOの五十嵐未来が「成長を加速させる『日本型OKR』設計・運用の極意」をテーマにお話しします。
はじめに
OKRという言葉がだんだんと広まってきたかなと思っていますが、国内の事例はまだ少なく、OKRの教科書となる本を読んで試してみたものの、なかなか上手くいかないという声もいただいています。
そんなこともあって、より日本に適応したOKRを広めていければということで、今回のセミナーを実施しています。
まず、「OKRとは?」ということに触れながら、OKRを実際に導入と運用をしていく時に、国内で落とし穴になるポイントがいくつかありますので、それが何なのか、どういう風に制度に組み込んでいくのが良いのかということをお話しできればと思っています。
OKRとは何か
まず、OKRとは? というところからお話しします。
OKRとは、目標設定の管理手法ではあるのですが、英語ではObjective&Key Resultsの略で、定性的な目標と定量的な目標をセットで設定することです。
よく教科書的に言われているポイントで言うと、OKRとは、
などというのが、一般的な特徴として言われています。
Objectiveは、定性的な目標で、スローガンのように自分が達成したい状態や、なりたい姿が示されているとされています。
それに対して、Key Resultsは定量的で、Objectiveを達成できたと判定できるような内容の数値や、それに近い目標設定をしていくものです。
たとえば、Objectiveが「スリムで健康な体を作る」として、それだけだと人によって判断軸が変わってしまうので、そこを担うのがKey Resultsです。「体重が60キロで、摂取カロリーや筋肉量がこのくらいになればスリムである」というように、Objectiveを判定する指標になるわけです。
では、Key ResultsからみたObjectiveとは何かといえば、「目指す理由」です。「なぜ体重60キロを目指すのか」に対して、「健康的な体になりたいからだ」というように。「なぜそこを目指すのか」を、きちんと定義しているのがポイントになります。
従来の目標管理では、「売り上げ1000万円行くぞ」と、それだけを掲げていることが多いわけです。経営者目線で大事なのは分かるのですが、従業員目線だと、なぜ自分がその目標を追わないといけないのか、なかなか理解できないですよね。
その、「なぜの部分」をObjectiveでしっかり表すことで、能動的に取り組みやすくする。これがOKRの考え方です。
会社的な事例でいえば、
「圧倒的な成長を遂げて、業界の先駆けとして世界に認知される会社になる」がObjectiveで、「四半期で売り上げが1億円以上になる。また、新規2カ国で売り上げが2000万円以上になっている。ここまで達成すれば圧倒的な成長で、世界で認知されているといえるんじゃないか」がKey Results。こうした関係性です。
OKRは何が新しく、特徴的か
次に、OKRは何が新しいか、特徴的かでいうと、大きく3つあります。
1つ目は、目標を追う意義や目的を設定するので、それぞれが能動的に取り組みやすくしています。
教科書を読むと、ムーンショットという言葉が先行している印象がありますが、高い目標を設定するから高い成果が得られるのではなくて、高い成果を設定した上で、自分が納得しているから高い目標が追えて成果も得られるという構造になるわけです。あくまで、能動的に取り組みやすくしているのがポイントです。
2つ目は、設定だけではなく、その後の運用も含めて目標設定と概念にしていることです。
たとえば、1on1やチェックイン・ウィンセッションといった、週次単位で動くようなコミュニケーションを取り組みのなかで推奨していて、短いスパンでコミュニケーションしていくからこそ、しっかり成果を上げるサポートができるという考え方です。
他の目標設定と違って、その後のフォローまでを設定に組み込んでいて、リアルタイム性が高いのがポイントです。
3つ目は、ツリー構造で上位の意識や透明性が高くなることです。
OKRやMBO、KPIといろいろな目標管理手法があるなかで、透明性の高さやリアルタイムに把握しサポートしながら成果を上げていくことができ、納得感を持って追えるのが特徴です。また、その結果が細かい範囲で変わっていくことも、他との違いになっています。
OKR設計時の落とし穴
ここまで、OKRとは? ということを理解して教科書通りに入れていけばよいかといえば、そこには落とし穴があるということで、では、どのように日本国内でOKRを導入していけば良いかをお話ししていきたいなと思っています。
OKRについて情報収集していて、これから導入を検討しているという方もいらっしゃると思いますが、その際に、よく見聞きすることが多い以下の定説について立ち止まって考えたいと思います。
上の3つが、いろいろなサイトや本を見ると書いてあることが多いのですが、日本で実際にいろんな運用や支援する際に、これらは、多くの場合で正しくないのではないかと思っています。
なぜ正しくないのかを訴えていきたいのと、もっと自由に、先ほどのOKRの考え方をうまく取り入れた方が良い運用になっていくと思っています。
①ですが、評価で紐づけずにやった際によく起こる落とし穴が、評価に使わないと、別の目標管理が動いてしまうということです。多くの場合、MBOとの併用で二重管理になっているんですね。
ちゃんと管理できる会社もありますが、面倒くさい方はやらなくなってしまって、それがOKRになりがちです。MBOは報酬に繋がるので絶対にやらなければいけませんし、そこは頑張らないと自分のお金が下がってしまいますから。
「OKRは評価に繋がらないから、やっていなくても怒られない」ということですね。二重管理によって、もともと渡したかったメッセージが出せなくなってOKRに向かなくなってしまう。入れた意味がなくなって、やめてしまうというのが起こりがちです。
日本においては、評価と目標が紐づかないと違和感を持たれてしまうケースが多いと感じています。
もともと、OKR自体が欧米の考え方から生まれています。実際、MBOもOKRと同じような考え方だったのですが、より報酬に紐づけて意識されるのがMBOです。
それが日本に入ってきたのですが、欧米において、OKRを報酬に紐づけなくて良いのは、もともとジョブ型が進んでいて、基本的な給料はジョブがなされていれば担保されるわけです。
ジョブが広がれば給料が上がり、ジョブを保っていれば給料も同じという考えなので、目標はプラスαの報酬に報いていくものという考えが一定程度浸透したのがあります。
一方、日本では先にMBOが入ってきて、それが報酬に紐づいて伝わってしまっていて、基本給にも反映していることが多いです。
目標を達成しているのに基本給が上がらないというのは、従業員にとってインセンティブが働きにくい構造になっています。そこに、OKRという新しい概念が生まれているという違いがあります。
そうした面から、日本では報酬に紐づけないというのは難しく、われわれが支援する場合には、報酬と紐づける形で設定してもらうことを推奨しています。
そうなると、次に
「評価や報酬に紐づけてしまうと、ムーンショットという高い目標を追えなくなってしまうのでは」
という疑問を持つ方も多いと思います。教科書にも「評価と紐づけないからムーンショットなんだ」ということが書いてあるせいでしょうが、これも私は間違いだと思っています。
そもそもMBOや他の目標管理であれ、目標設定が低くならずに機能しているわけではなくて、MBOでも報酬につながっているから、あまり高い目標設定にはせず個々が可能な目標設定にしているという会社もあると思います。
OKRだから評価に紐づけないのではなく、OKRでもMBOでも評価に紐づけた時には同様の問題が起こるので、別の設定のルールや仕組みを整えていくことが必要になってきます。
OKRは変更ができるので不公平になるのでは? という疑問に関しては、各社は必ずしも達成率で、たとえば50%だからB評価、70%だからA評価みたいに完全な連動にしていないケースが多いです。
では、国内でどのように評価に活用していくかといえば、達成率は見ていきながらも、期待通りの成果なのか、期待を大きく上回るのかなどで判定して、目安として86%以上であれば大きく上回るとか、60〜70%なら期待通りとかといった目安にしています。
最後はマネージャーの調整で、うまく評価に組み込んでいくケースが多くなっています。国内でいえば、メルカリなどはマネージャーに大幅な裁量を持たせてやっています。こういった仕組みであれば、OKRでも評価に組み込んでいくことができます。
繰り返しになりますが、
評価と完全に切り離すのではなく、しっかり工夫して評価に組み込んだ方がOKRに向かっていきやすいということです。
②のムーンショットを立てるのが高い成果を出すカギなんじゃないか、での落とし穴は、もちろんそれ自体大切ではありながら、高い目標を追うことに疲弊してしまう可能性があります。ただ高い目標だけを渡されると、チャレンジングKPIみたいな形になってしまっているケースがよくあります。
たとえば、売り上げ1000万円のところをOKRで1500万円と数字だけ渡してしまうと、従業員にすれば、単に辛いノルマを与えられただけになりますよね。高い目標を設定すれば良いということではないのです。
ムーンショットは何によって支えられているかと言えば、冒頭でも申し上げた、OKRの重要な要素である、
この3つが揃っているからこそ、ムーンショットという高い目標を追うことができるというのがポイントになってくるので、まずそれらをしっかり揃えていかないと、なかなかOKRは機能しないということです。
ですので、われわれもOKRを導入される時に、それらが揃っていない状況、たとえばまだ1on1をやっていないという時には、まずそれらをしっかり運用して、OKRに慣れた上でムーンショットを追うというように段階導入することを勧めています。
やはり、上の3つを欠かさず持てるかどうかが、OKRをうまく導入、運用していく上で不可欠だと思っています。
③もよく言われることですが、四半期で回してしまうと、目標設定と評価のサイクルが短すぎて人事も従業員も回らず、結果的に目標が立てられないということになってしまいます。
初回は良いのですが、2回目以降はOKR運用が2カ月くらいしかなく、高い成果が得られなくなります。
これだと早すぎるので、われわれが導入支援する際には、
まず半年でやって、慣れて問題なさそうなら段階的に四半期にすることを推奨
しています。こちらであれば、目標設定に1カ月使ったとしても5カ月の運用期間があるので、しっかり目標を達成することもできるのではないかと思います。
ただ、ここも半年にしてしまうとリアルタイム性が失われるのではないか、いろいろな変化に耐えられないのではないかといった疑問も出ると思うのですが、
OKRでのリアルタイムとは、
①定期的な進捗確認やサポート、1on1がしっかり週次単位で回されている
②現状に即した目標になっている
という2点が保たれていれば、リアルタイム性があるといえます。
①については、半期だろうと細かくサポートしていけば達成できるので問題なく、②についても、大きな変化があるごとに目標設定を変えて、その変化があった場合に一定の調整をしながら評価ができる制度があれば、半年でも問題なく運用できます。
リアルタイム性とは、単純に四半期や半期というものではなく、継続的なサポートと、しっかり適した目標が追えていることが担保されていれば大丈夫ですよ、というのを押さえていただければと思います。
このように、教科書的に入っているものをそのまま導入してしまうと、いろいろな落とし穴があります。
あくまで各社の状況に応じて、半年導入にしてみるとか、1on1やサポートを充実させて、上手く回ってからムーンショットに変えるとか、段階的に導入しながらやっていく方が、結果としてOKRが上手くいくと思っています。
日本国内で多いOKR設計の型
国内では、どういう形で導入されているかを紹介しますと、大きく分けて全社導入と部門導入があります。
全社導入の場合は、目標をツリー状に全体公開して、難易度も60%〜であればよかったというようなムーンショットの目標を立てることが多いですが、期間が半年というのがポイントです。
人事評価にも使い、レビューの頻度は週次や隔週などリアルタイムに見るようにしていく、こういった形でうまく運用していくというのが、私が見ている全社導入で一番多いパターンです。先に、リアルタイム性や透明性を重視して導入するのも良いでしょう。
部門導入の場合、最初から四半期で導入して、週次や隔週でのリアルタイム性の高いコミュニケーションを取って行う、評価とは紐づけずに参考材料として使うケースが多いかなと思います。
このように、一口にOKRといっても、会社ごとに調整しながら導入していただけるようになっているので、各社の課題や、なぜOKRを入れるのかといった理由に合わせて適応することが重要だと思っています。
部門導入の場合は、MBOも並行していると思うので、MBOで売り上げ100万円に設定したらOKRは170万円というように、延長線上で目標設定する運用にして、MBO側も、そちらに寄りすぎない目標設定する形が多いです。
大企業で部門導入でやる場合には、OKRに向かいやすくするために、延長線上の目標を設定するケースが多くなっています。会社によっては、MBOとOKRをハイブリッドで一部だけ使うというケースもあります。
基本はMBOの考えだけでやるとかリアルタイム性だけをとるとか、上の左側にある3つの重要要素から一部だけを取ってやるとか、いろんなケースを交えながら、各社の課題に合わせていくのが良いと思います。
おわりに
本日は、日本型OKRの設計の考え方や、実際にどうやっているのかについてお話ししました。
OKRを導入した先で、その次にどう設定するのか、何がObjectiveの良い事例になるのかといった面は悩ましいところがあります。
運用についても、実際どうチェックインをしているか、どんな目的でやっていくのかなどについて解説した資料を揃えていますし、次回以降のセミナーで詳細を解説して、必要に応じて共有できればと思っています。
ご清聴ありがとうございました。
・・・
ハイマネージャー
OKRや1on1、フィードバック、人事評価などハイブリッドワークのマネジメントに必要な機能が全て揃ったピープルマネジメント・プラットフォーム「HiManager」の提供、及びマネジメント・人事評価に関するコンサルティングを行っています。
HiManagerに無料お問い合わせしたい方はこちら⇩
OKRの理解を深めたい方はこちら
OKRの概念的理解から具体的な事例までを網羅した全35ページのパーフェクトブックです。以下のリンクからダウンロードください!