祈りの杜
久しぶりの招待を受けた。
白衣のスナッキンから届いたお茶会の招待状。
なんの準備もしてこなくて大丈夫、とある。
寒いかもしれないから、ダウンと手袋は忘れないで行こう。
長くなってもいいように。
そして場所は珍しく、鎮守の杜だ。
わたしは、朝からソワソワと用事を済ませ、迎えの車に乗った。
スナッキンが寄越した車は、時間ぴったりに着いた。
今日はどんなお茶が用意されているのだろう。
私にとって’約束’は、生きていることの保証だ。私が、相手が、生きようとしていることが、伝わるメッセージだ。
そんな重い感じは、ふっとばして、この小さなお茶会は、仮に口喧嘩が含まれていても、私を嬉しくさせる。
このスカートとセーター、一度着てみたかったのだ。
買ったときは、素敵!!と、ときめいたはずなのに、着る機会がまったくなかった。
今日のために。
買ったんだと思うことにした。
川沿いの道を外れて、その杜へ向かう。すぐそこなのに、何故か、雰囲気が一変する。
空気が冷たい。
手つかずの森。
光を求め、数百年がもたらした空間。
大きく伸ばしたその枝の先に、高く空が見える。
葉がハラハラと、落ちる。
自分の足音が聞こえる。
どんぐりの実。
生まれたその小さな若木。
湿気を含む土の中で、やっと顔を上げた。
あぁ呼吸ができる。
組み込まれた遺伝子は、幼木を伸ばし、その姿は、迷いも悲しみもない。
先人たちの真似をするもの、横目に進化をとげるもの、このあとの数百年を見届けることはとうてい無理なことだ。
森は、残ろうとする。
守りたい。
大きな環境の変化を起こさないことを選択していれば、守れるだろうか。
間違わずに?
スナッキンが、手を振っている。
「お茶が冷めますよ」
「こんにちわ」
庭の切り株の一つに腰掛けて、話し込んだ日もあった。
さっそく私はハッとした。
ひとは、色々なものを利用するもの。
食器やコースター、お香、家具や家までも。
大切に使うと、木は優しい。
その香りで、私を癒やしてくれる。
たくさんの有り難いことが、毎日訪れる。
スナッキンは、何をしているんだろう。
え。
マジか。
かくれんぼ。
「もーいいよ」
えっもういいの?
声がしたのは、あの砂利の小道のほうだよな。単純な隠れ方。
反対に脅かしてやろう。
パチ。
あ。小枝を踏んじゃった。
スナッキンと、目があった。
ナニ。
ケン、ケン、パ。
そういう遊び、あったね。
消防自動車の入魂式だ。
そう、そう火の元に気をつけて。
燃えるのは一瞬だ。
ひとは火を使うようになり、ぬくもりを手にしてきたのだ。
ぬくもり、便利、危険、喪失、、。
遡って見れば、現代の私達は未来人だ。
火を操り、安全を怠ったら、悲しむひとがいる、悲しみをを繰り返して、発展してきた。
バケツが必要だった頃からしたら、真っ赤な新しい消防車は、機能的ですごい。
バケツで消せるくらいの火で済めばいいだろうし、むしろ出番がないほうが良い。
終わらないために。
燃え尽きないために。
スナッキンが、手渡してくれたのは、昆布茶だった。
温かい飲み物は、手に取るだけでもホッとする。
温かさは、私の中を流れていく。小さな火がくれたものだ。
スナッキンは、ニコニコと笑った顔でこちらを見ている。
あいかわらず、忙しそうだね。
やれやれ、頭の中がふつふつしているの。
だから呼んでくれたのね。
ありがとう。
昆布茶の次は、紅白饅頭だ。入魂式のお供えだ。
このペットボトルのお茶は、とても便利だね。
スナッキンは、2本のペットボトルと、お弁当を用意してくれていた。
スカートをゆるめよう。
この容器、、、。
間違った道へ来たんじゃないか。
わたしたちは、2時間ほどお喋りして、夕焼けを見た。
また、年が明けたら会おう。
次の約束をして、手を振った。
スナッキンと何を話したかって、楽しすぎて忘れたんだけど。
名言が続出したのに。
笑いすぎて忘れたんだ。
翌日、塗り直して描いた。
冬のある日、私は森と出逢って、しばらく動けなかった。
たくさんの幼木が、私と一緒にいて、森を育てようとしている。