不登校からの卒業(26)
不登校の真の解決とは(1)
今年令和5年の1月23日に書かせていただいた、不登校と中学受験(5)に登場するTくんが10年ぶりに顔を出してくれました。
T君と出会った当時のことは、不登校と中学受験(5)からをお読みいただくとわかります。
8年近く、ひきこもり生活を送り、その後、今、私が教育相談員をしているフリースクールで2年間過ごしたあと、東京の理系の大学に進学した彼の現在はというと、その大学の博士課程で工学博士を取得し、スイスの大学を経て、現在はオーストリアの大学で、研究生活を送っているということでした。
中1で不登校になり、その後、8年もひきこもった彼の人生は、現在は、世界の最先端の研究を、ヨーロッパで行うという、輝かしいものになっているのです。
これは、彼の努力以外の何物でもないのですが、ただ、努力をしただけではありません。
人として、どうあるべきなのか、ということを真剣に彼が考えていたことが大きいと私は思っていました。
そのことを彼に問うと、彼も、それは間違いないですね、と少し照れ臭そうにしていました。
そのことに付け加えるように、「考える」ことをしっかりと行っていたことが大きいとも言うのです。
来春、結婚することも決まったので、報告を兼ねて、帰国したタイミングで顔を見せてくれた彼の表情は、穏やかで落ち着いていました。
彼と2時間くらい話をしていたのですが、その中で、彼がしきりに言っていたことが、日本の大学の研究費用がなく、日本の研究が立ち遅れていることでした。
日本の大学の研究予算では、東大や京大であっても、世界各国のそこそこの大学の予算よりも少なく、まともな研究などできないということでした。
それと、もう一つは、海外の大学で研究している方々の収入は、日本の国立大学の先生方が定年近くにならないともらえないくらいの金額を30歳前後でもらっているというのです。
これでは、研究する人が、どんどん日本を離れていくのは、どうすることもできないと言っていたのです。
この彼と話をしているときに、彼が言ってくれたことの中に、私が困ったときに、話は聞いてくれて、ヒントをたくさんくれたけれども、最後は自分で考えられるような話をいつもしてくれたと言うのです。
当時、Tくんと話すことは、とても勉強になったことは間違いありません。
本当に様々なことを話した記憶が今も鮮明に残っています。
その中で、フリースクールで私やスタッフから、いくつもの人生を生きていくためのヒントになることをもらったと、彼が嬉しそうに話してくれたことは、私も本当にうれしかったです。
彼のように、元気になって、これだけ活躍してくれたことだけでも、何よりもうれしいことです。
その彼が、不登校になったことは、辛かったことだけれども、実は、不登校になったことが問題なのではなく、そのあと、ひきこもってもいいから、自分の人生を見つけられるように考えることができるかどうかだと思う、と言ったことは、ものすごく心に残ったのです。
彼は、そういう意味では、不登校になる前から、考えられるようになっていないと、不登校になった後、自分はどう生きていくのかということを考えることもできない子どもになってしまうことの方が、ずっと問題だと言うのです。
不登校になったときに慌てる必要はないことは、彼が生きてきたことが証明していると私も思います。
不登校になり、8年もひきこもり、同級生から5年遅れて大学に進学した彼が、世界の最先端の研究者になれたのは、
「自分をダメだと思わないこと」
「人として謙虚であること」
「考えることをやめないこと」
「自分がどうありたいかをしっかり持つこと」
だと言うのです。
この中でも、「人として謙虚であること」と「考えることをやめないこと」ができない限り、もう一度、不登校と同じような状態になることはあり得ると、彼は思ったようなのです。
「不登校の真の解決」がどのようなものかは、人によって違うけれども、自分の人生をしっかりと生きていくときに、ご縁というものがどれほど大切かということがわかり、そのためには、謙虚さと思考力は、どうしても必要だと、彼は言うのです。
それを、今の若者にも、ぜひ、身に着けて欲しいとTくんは強く思うと言っていました。