【読書感想文】行き過ぎた資本主義社会に必要な言葉たち『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』
本書は実際にあったウルグアイの大統領のスピーチを、絵本化したものである。
2012年、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた国際会議では、環境が悪化した地球の未来についての話し合いがなされていた。世界中から集まった各国の代表者が様々な意見を述べるが、これといった名案は出なかった。
そんな中、ウルグアイの大統領ホセ・ムヒカ氏の番になった。他の代表者がきらびやかな服やきっちりしたスーツを着ている中、質素な背広にネクタイなしのシャツ姿で壇上にあがったムヒカ氏は、その後敬意を込めて「世界で一番貧しい大統領」と呼ばれることとなる人物だった。
給料の大半を寄付し、大統領の公邸には住まずに町から離れた農場で夫婦で暮らし、自分で花や野菜を作り、運転手つきの派手な車ではなく古びた愛車を自分で運転して仕事をする。
そんなムヒカ氏の演説に、会場の誰もがそれほどの関心を抱いてはいなかったが、結果としてムヒカ氏の演説が終わると大きな拍手が湧き起こったのだ。
本書は、そのスピーチがまとめられたものであり、今の社会に必要な言葉や考えが満ちている一冊だ。ぜひとも子供から大人まで読んで欲しい。
今は時代の転換期なのだと常々思っている。
行動経済成長から続いてきたテクノロジーの発展は、次々に便利な物を生み出し人々の生活を「より早く」「より効率的」にしてきた。元々はそれが幸福を生むものだと、もっと多くを生めばもっと幸福になるに違いないと信じられていたが、実際には生活が加速するだけだった。
新幹線で早くどこかへ行けるようになった結果、それまでは1日をフルに使って出張に行っていた会社員は、午前に現地に向かいその用事が済めば午後には会社に戻らなければならなくなった。
注文してから1週間かかって届いていた荷物は、今では1日や2日で届くようになった。ということは、その分だけ誰かが急がされていることになるのだ。
枚挙にいとまがないが、生活は便利になった。早くはなった。しかし、そこで見落とされているのは、急いでまで便利にしたいか、そこに幸福はあったのか、ということである。
もともと「効率よく」何かをするのは、仕事を早く終わらせて時間を確保するためだったはずが、結果として空いた時間もさらに別の仕事をすることになり、便利さによって生まれた余剰の時間はどういうわけか更なる忙しさに繋がってしまうのである。
なぜ、こうなるのか。
どうしてこうなってしまうのか。
答えは一つ、「欲を抑えることができていない」からだ。
自分一人が早く仕事をして、自分が空けた時間にもっと仕事をしたいのならそれでいい。何の文句も、苦情もない。
しかし現状は、上の人たちの「もっと多く」「もっと稼ぎたい」「もっと会社を大きくしたい」という欲のために、その下で働いている人たちがより多く働かざるを得なくなっているだけなのである。
「もっと多く」「もっと欲しい」
そういう心が一番貧しく、
「これで十分だ」「必要以上はいらない」
そう思える心が一番豊かなのである。
そのためにはまず自分の中の欲を見つめてみよう。
そしてそれが本当に必要か否か、考えてみる。
本当に必要だと思うのなら手放す必要もない。
迷うのなら、とりあえず保留しておけばいい。
散らかった部屋を片付けるみたいに、一つ一つ自分の欲を整理整頓していくのだ。
そうすれば、何が必要で何がいらないかがよくわかる。
そして必要なものだけを纏った自分の姿は、以前の自分よりも軽やかだと気がつく。何より「これが自分らしい」という深い実感を得るのだ。
足るを知る、それ以外に幸福の道はない。