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自分を見つけるブックカフェ店主の書評 星野道夫『旅をする木』

本書は星野道夫さんのエッセイ集である。

星野道夫さんの作品が好きで、写真集やエッセイやら色々と読んできたが、その中でも本作のなかにある『もうひとつの時間』というエッセイの冒頭部分が特に心に残っているので、ここに引用しようと思う。

『もうひとつの時間』
 ある夜、友人とこんな話をしたことがある。私たちはアラスカの氷河の上で野営をしていて、空は降るような星空だった。オーロラを待っていたのだが、その気配はなく、雪の上に座って満点の星を眺めていた。月も消え、暗黒の世界に信じられぬ数の星がきらめていた。時おり、その中を流れ星が長い線を引きながら落ちていった。
「これだけの星が毎晩東京で見られたらすごいだろうなあ……夜遅く、仕事に疲れた会社帰り、ふと見上げると、手が届きそうなところに宇宙がある。一日の終わりに、どんな奴だって、何かを考えるだろうな」
「いつか、ある人にこんなことを聞かれたことがあるんだ。たとえば、こんな星空や泣けてくるような夕陽を一人で見ていたとするだろ。もし愛する人がいたら、その美しさやその時の気持ちをどんなふうに伝えるかって?」
「写真を撮るか、もし絵がうまかったらキャンバスに描いて見せるか、いややっぱり言葉で伝えたらいいのかな」
「その人はこう言ったんだ。自分が変わってゆくことだって……その夕陽を見て、感動して、自分が変わってゆくことだと思うって」

星野道夫 『旅をする木』

感動が、その人自身を変える。
そして変わったその人を見て、その周りの人たちも変わっていく。
そうやって誰か一人にとってのたった一つの感動が、人から人へ、心から心へと伝播していき、やがて世界全体が変わっていくのだ。

僕は誰かに感動して欲しくて、人が本に出会えるようなブックカフェをやっている。世界を、変えるために。


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