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【読書感想文】表紙やあらすじからは想像できない衝撃的な物語の絵本『みんなたいぽ』
荒井良二さんとGEZANというバンドのボーカルをつとめるマヒトゥ・ザ・ピーポーの作品。過日、うちのブックカフェで行われた絵本セラピーのなかで読まれた一冊で、僕としてはこれまで読んできた絵本のなかでも強い印象を残したので、迷わず購入した。
絵本好きであれば荒井良二さんは割と知られていると思うが、マヒトゥ・ザ・ピーポーに関してはアングラ界隈が好きな人以外ではあまり知られていない気がするので、個人的に好きな曲を一曲貼り簡単に紹介する。
マヒトゥ・ザ・ピーポーは、GEZANというパンクバンドのボーカルである。バンドの作風としては、パンクバンドにありがちな「気に入らねぇもの全部ぶっ壊してやろうぜ」的なものではなく、どちらかといえば「お互いに蔑み合わずに、人類みんな幸せになっていいんだよ」的な非暴力的なメッセージのものが多い。(歌詞は攻撃的でもある)
平和を願うために武器を持ってしまえば本末転倒であるように、どんな平和的な思想も銃弾に乗せてしまえば暴力になってしまう。だからこそ、本当に平和を祈ったGEZANは、音楽に思想を乗せることにしたのだ。音楽は誰かを傷つけることなく、あらゆるメッセージを含ませることができる非暴力者たちの共通言語なのである。
前口上はこれくらいにして、マヒトゥ・ザ・ピーポーがそういうバンドの人だということを踏まえた上で、本書を読むとまた違った印象を受けるのではないだろうか。
あらすじ
悪いことをした人を逮捕するのが仕事のおまわりさんがいた。おまわりさんは、コンビニでパンを盗んだ人を逮捕して、牢屋に入れた。次には草原に火をはなったライオンを、さらには酷い言葉を言った人を逮捕していった……、というお話。
これだけ見れば、はっきりいって普通の絵本であるが、話の展開はもっと大きく抽象的になっていく。
酷い言葉を言って逮捕された人が、
「それなら言葉も逮捕してくれ。言葉があると言葉が誰かを傷つけるでしょう」
と言い、おまわりさんは言葉を逮捕する。悪いものを逮捕するのが仕事だからだ。
そして次には自分が他の人と違う色をしているから、という理由で暴力を振るってしまい逮捕された人が、
「色も逮捕してください。色が私を傷つけるから……」
と言い、おまわりさんは色を逮捕する。
さらには音も、人間も逮捕し、全てを牢屋に入れてから、おまわりさんは自分自身も牢屋に入り、内側から鍵をかける……。
その後がどうなったのかを、このままここに書いてしまいたい気持ちもあるが、ここでそれを書いてしまえば本書をこれから手に取るであろう人の新鮮な驚きを損なってしまう懸念があるため、これ以上は内容については触れない。
ラストに関しては抽象的であるために、この物語がスッと心に入ってくる人はあまりいないのではないかと思う。ただその安易に入ってこない話が、心の中に居座り「あれって、どういうことなんだ……?」といい意味で自分の中で深まっていくのである。
そもそも『みんなたいぽ』とあるが、なぜ「逮捕」ではなく「たいぽ」なんだろう? とか、荒井良二さんの絵から色々と発見があったり、これほどまでに深掘りできる絵本は僕が知る限りではかなり珍しいものだと思う。
表紙の絵からは想像もつかない絵本作品。ぜひ、手に取ってください。あまり知られていない作品だと思うので、図書館や本屋などにもあまりないかもしれませんが、一人でも多くの方にこの絵本に出会っていただけたら幸いである。