【読書感想文】小さな争いが戦争の火種となる。スズキコージ『サルビルサ』
ブックカフェをしていると、本や絵本が好きな人と出会う機会が圧倒的に多くなる。読み聞かせボランティアを30年近く続けている人、絵本セラピストとして活動をされている方、図書館で働かれている方や地元の作家さんなどなど、類は友を呼び本に関わる人たちが続々と集まってくる。
そんな中で、本や絵本が好きで、持っている絵本を図書館の本のようにフィルムを貼って保護するくらいに本を大切にされている方が、お勧めの絵本をいくつか貸してくれた。
本をそれだけ大切にしている方が貸してくれたことが嬉しくもあり、また本が好きな者同士がお互いに持つであろう「本が好きな人なら本を大切に扱ってくれる」という信頼がそうさせてくれたのだろう、と思った。
前口上はこれくらいにして、そんなお勧めの絵本のなかの一冊、『サルビルサ』(作・スズキコージ)の紹介である。
あらすじ
二つの別の国? の男が、同時に獲物を仕留める。どちらも「自分の物だ!」と主張し合うが話は解決せず、お互いに自分の国に戻りそれを報告すると、それぞれの国の軍隊が出てきて戦争が始まる……、というお話。
本書の特徴は、彼らの言語は日本語でも何語でもないところだ。
「モジ」「ジモ」
「サルビ」「ビルサ」
のようなカタカナ語で話している。
お察しの方もいるかもしれないが、
「モジ」「ジモ」
「サルビ」「ビルサ」のように言葉を反対から読むと相手側の言語になるようにセリフが書かれている。
子供に読み聞かせると、この日本語でも何語でもないカタカナ語が、不思議と面白く感じられて子供にウケるだろうなと思う。
深読みすると、お互いの言葉が反対というところが、互いの国が受け入れ合わない姿勢を比喩しているのかも、なんて思ったが真意は作者にしかわからない。
また戦争がなぜ起こるのか、という答えの一つがこれなのかもしれないと思った。
結局のところ、本書の登場人物たちが獲物を譲り合えば戦争は起こらなかった。どちらかが「半分にしよう」と言えば、獲物を半分持ち帰って終わる平和な話だったわけだ。
現実の世界でも、譲り合ったり、相手を尊重していれば戦争や争いにはならない。どちらかが相手を思いやらず自分が多く得ようとするから、問題になり争いになる。
「戦争」というと自分には関係のないところで起こっているような気がするが、元をたどればその火種となっているのは、小さな単位での「自分さえ良ければいい」という人の浅薄さなのだと思う。
本当に戦争をなくしたいのなら、まずは自分のなかの怒りの感情を滅さなければならない。自分の中の戦争(怒り)が抑えられていないのに、世の中から戦争がなくなるはずがない。
敵はいつも、自分自身なのである。そんなことを思った。