フレンチクルーラーに会うために
ずっと恋しかった。
あのスイーツ。
見たことしかないあのスイーツをずっとずっと求めていた。
SNSの発達というのは本当に残酷だ。
食べたいものを見つけることができるのに、出会える約束はしてくれない。
そのくせ毎日のように、お店のインスタグラムのストーリー機能で出会ってしまうのだから、ひたすらにしんどさだけが募ってしまう(結果的に報われるはずだが。それまでの長い道のり)。
僕がこれまで出会ってきたスイーツの中で、「これが好き」の作り手にはあのパティシエがいた。
初めて通販で取り寄せた「no raisin sandwich 」や、縁あってお仕事をしている「バターのいとこ」。まさか同じパティシエの腕から完成されたあの美味しさだったとなると、僕はその人が作るスイーツにずっと夢を見させられていたことになる。魔術師だ。
東京、幡ヶ谷にある「equal」のパティシエの後藤さんは、そう、僕の夢の人。夢を見させて与えてくれる人。
その人のスイーツがあればきっと、夢を見ながら生きていけるのだろう。
そんな人に出会えてなんてラッキーなのだろう。
世の中にはこんなに美味しいスイーツが溢れているのだから。
フォルムはミスドと同じ「フレンチクルーラー」、そんなシンプルなドーナツがそのお店にはある。
まだ食べたこともないのに、見た目はミスドのそれとなんら変わりがないのに、どうしても食べたくて、恋焦がれていた。
Equalのフレンチクルーラー。
なんだろう、画像越しでも伝わる、生き生きとしたフレンチクルーラー、黄金に輝く色艶やの良さは見るものを魅了するし、どの角度から見ても完璧な仕上がりなのだ。
絶対ミスドのそれにはない、格別の魅力が宿っている。
もう会うしかなかった。どんなに遠くたって、会いたかったから。
後藤さんはお店にいた。
お店を開ければ、目の前にフレンチクルーラーがキラキラで。でも素朴に輝いている。
ここが夢の発信地。つまりは天国行きの入り口なのだなぁとしみじみと実感しながら、小さく歩くスペースもそうない店内をぐるっと見渡す。
幸福な空間なことだ。
この日は那須からはるばる東京へ、という日だったから、すぐさま食べる用と帰りの新幹線用のフレンチクルーラーを2個注文した。
そして後藤さんにも夢のお礼をきちんと伝え、店を出た。
代々木公園まで待つのも耐え難いものがあったが、良い夢を見るために席を陣取り、一人公園スイーツお披露目会を開催。天国行きだ。
死んでもいい。一言そう思った。
人生ドーナツに出会ってしまったか、、
一口食べた時、期待以上のその味わいに、悶絶しすぎて時が止まったような感覚に陥った。というか止まった。絶対。
外側ザクッと、なかはぷるっと半熟。
生地はシンプルなのに濃厚で、軽すぎず重たすぎず。噛むたびにほにゅんほにゅんの柔らかさに癒され、シュガーと塩気の効いたコーティングのバランスが絶妙。
知っているフレンチクルーラーと似て大きく非なる、格別の美味しさだった。
こんな美味しいものが、、、僕の人生史にでてきていいのか、、、ずっと半信半疑だった。
でもやっぱり、出会える人生を送れたことが何よりも宝物だろうと思い直した。
この世に生まれてきたことを肯定できてしまうくらい、格別で特別なそんなドーナツの体験。
フレンチクルーラーに会うためにここにきて、この公園で終焉を迎えた。
叫びたくなった。抑えたその興奮は加速するばかりで、しばらくフレンチクルーラーに対する夢が覚めないように、水面下の睡眠を繰り返し、なんとか地に足をつけて、現実を直視した。
会いに行く。スイーツに。
そこにしかなそのパティシエの人生を片隅から覗き味わおうじゃないか。
フレンチクルーラーに会いに行く。最上級の目的ではないか。
美味しいひとときに、ごちそうさまでした。
では、また次回。
今日のお店:Equal(〒151-0066 東京都渋谷区西原2丁目26−16)