相続雑記④相続税(11/22修正脱稿)
相続税の申告
相続税申告書の作成~使えないe-tax
相続税の申告は、手書きで申告書を作成する方法とe-taxというソフトウェアを利用する方法があります。所得税の確定申告(住宅ローン減税とか寄付金控除とか)の経験があったので、迷わず後者を選択しました。
勤務先で税務調査に対応した際、調査官が合間に「e-taxをぜひ利用してくれ」と話をしてきました。その理由は、手書きで申告されると、税務署職員が縦横の計算があっているかという作業を強いられるが、e-taxならその作業がいらなくなり、業務効率化に資するため、とのこと。もっともだと思い、所得税の確定申告では、最低でもe-taxへ入力し印刷して郵送をしています。所得税の確定申告コーナーは、計算はもとより、各帳票の相互連携なども意識せず、入力によってさまざまな場所に反映され、最終的に所得税の確定申告書ができるという優れものです。それをイメージして入りました。
やってみると全然違いました。まず「所得税の確定申告コーナー」はWebブラウザに組み込まれたアプリであるのに対し、e-taxはWindowsのアプリ(ソフトウェア)であって、インストールして使うものです(ネット接続、マイナンバーカードリーダーは必須)。このくらいは序の口。
相続税申告では、後述のとおり、「第1表」をハブとして、複数の帳票を行き来しながら第1表に埋め込んでいく作業になりますが、この複数の帳票間のデータのやり取りは一切なされません(多分)。転記も自力です(これは間違いない)。縦横の計算チェックも自力です。最低限の計算機能はあるようですが、保存・送信操作をするとエラーメッセージが出ました。縦横は何度も電卓(+後述のエクセル)を入れて、合わせたつもりです。しかしながら、エラーメッセージがどこで発生したのかわからず、「一部手計算あり」のステータスで送信しました。
申告の準備
相続税は、相続開始から10か月以内に、申告と納付が必要です。このあたりの段取りは私に一任されました。
亡くなってから半年以上経って、父の居住地の税務署(=相続税の申告・納付先)から、相続税申告の要否を確認する文書が届きました。これを書いて、申告の必要があるかを判断することができますが、半年ということは残り4か月。ここから作業を始めるのでは遅すぎます。
相続税は、納付する義務があるかどうか(納付義務がなければ、何もしなくていいようです)、そのうえで納税するかについて、税務署から何のアナウンスもありません。日本の税は「申告納税主義」ではありますが、会社員である筆者は、平時は会社員として源泉徴収と年末調整、固定資産税や自動車税などで催促される癖がついているせいか、違和感がないわけではありません。
不明な点は税務署に聞きに行くのも手ですが、私の場合、最寄りの税務署(居住地)と相続税を申告する税務署(亡父の居住地)が異なるため気が引けました。結果、(申告する税務署ではないのですが)税務署のテレフォンサービスで、結構丁寧に対応していただけました。なかなかつながらないかと思っていましたが、意外とスムースですし、即答できない内容は、調べてコールバックしてくれました。
一方、国税庁が作るしおりには、帳票間の関係、流れなども細かく書かれていますが、これで理解できる人はいるのか!と感じました。ただ、帳票作成の順番はこれを見るしかありません。一生で2回(≒父と母)あるかないか、それも相続税課税下限に至らないケースもありますので、自動化のメリットはないのかもしれませんが、最近のインボイス制度しかり、電子帳簿保存法対応しかり、タックスペイヤーのことは考えてくれないんだなと痛感しています。
申告書作成の順序
流れとしては、
相続財産の一覧を「第11表」に入れる
相続財産のうち、評価額を減額できるもの(例:被相続人と同居など)は、その調整を「第11表の2」で行う
その結果を「第11表」で調整する
生命保険金を「第9表」に入れる(退職手当は「第10表」)
その結果を「第11表」に反映する
葬儀費用を「第13表」に入れる
その結果を「第11表」に反映する
内容を「第1表」に転記する
相続税額概算を「第2表」で出す
配偶者控除を「第5表」で計算する
その内容を「第1表」に転記する(以上、国税庁が作るしおりのこのページのとおり)
です。(当方の手続きで対象外だったものは端折っています。)
e-taxで入力しますが、画面で確認できるような親切な構成にはなっていません。結局は、いちいちプリントして検算して、間違っていたら入力してプリントして検算して…の繰返しです。まったくもってエコじゃないです。全体で12ページになりましたが、何セットシュレッダー行きになったことか。
作成にあたり、特に気を付けなければならないのは、第11表です。この表は、前後の帳票をつなぐピボットであり、ここを修正すると、ほぼ全部の帳票に影響が出ます。そのために、別にエクセルで次のような表を作っておくと便利です。検算の手間が少し減ります(最初から作ったわけではないです)。
財産の一覧と評価額(単価×数量、外貨×換算レート、株数×株価がわかるようにしておく)
財産を取得する相続人別に計算する仕組み(SUMIF関数を使用)
第15表の財産別×取得人別に並べた表(合計も)
第1表の計算で「取得割合(小数点以下10桁。第1表の⑧)」の計算と、相続税総額からこの「取得割合」をかけて端数処理をした数値の計算(第1表の⑨。同⑲における端数処理の関係で、相続税総額と各人が納める相続税の額の合計は一致しないことがある。→第1表被相続人の⑲はヨコの総和を記入するため、⑯とはぶれる。)
小数点以下の端数処理(ROUND、ROUNDDOWN関数)は都度やること。画面表示で整数に見えるが、エクセルが持つ数値には小数点未満を持つケースもある。(まぁ、内部統制におけるスプレッドシート・コントロールの基本ですが。)
申告書の送信と相続税の納付
準備
e-taxを使えば、申告と納付はオンラインです(添付書類の取扱は不明)。納付については事前に引落口座の登録手続き(+オンラインバンキングサービス)がいりますが、現ナマを金融機関にもっていくよりは安心です。
私の場合、所得税は現住所(関西)、今回の相続税は亡父の最終住所地(関東)です。e-taxで口座登録手続きをしましたが、関東の税務署から、最初は「税務署が関西になってしまう。相続税申告書も紙で提出してくれ。そうしたらe-taxで納付できる」といった電話がかかってきました。相続税申告書に添付すべき書類をどうしたものかと考えていたのですが(遺産分割協議書とか…後述)、ある意味すっきりしました。
しかしその数時間後、再度関東の税務署から電話があり、「納税の時に関東の税務署を選択してくれれば大丈夫、口座登録は居住地管轄の税務署から届くから。申告書も紙でなくてe-taxで送信できる」と180°違う訂正が来ました。そんなにレアケースなのでしょうか。
申告書の送信と添付書類
申告書の送信は、e-taxのアプリ上から、マイナンバーカードを読み取り(カードリーダーは別途用意が必要)、電子署名をつけて送ります。送信の手続きをすると、マイナポータルとe-taxにメッセージが届きます。e-taxには「送信されました」とのメッセージ。一部エラーメッセージは解消できませんでした、悪戦苦闘しながら終わりました。
添付すべき書類は、翌朝郵送しました。どうやらe-taxで、申告書に添付するのではなく、送信後にPDFなどで送ることは可能なようですが、「申請書と添付書類を別のプロセスで送る」という発想はありませんでした。e-taxの手引きなどを読めばわかるのでしょうが、つくづくユーザーフレンドリーではないなと思いました。まぁ今後使う機会はほぼないと思いますが。
税務署から
送信した翌日、税務署から二度、連絡がありました。
一度目は、前述の「相続税納付の要否判定」の文書が届いたこと、そして相続税の納税義務があることを電話で告げられました。返す刀で、昨日、e-taxで申告をしたこと、添付書類は郵送したことを告げました。御礼(?)を言われて電話を切ります。
二度目は、e-taxの申告には、相続人それぞれに「納税者識別番号」というものが必要であり、既に持っている私だけではなく、母と姉もこの番号が必要であるとのことです。選択肢としては、識別番号を申請するか、紙で提出するか。後者を選択します。説明によると、識別番号のある私はe-tax、ない母と姉は紙という区分になるようです(母と姉の押印はいらないとのこと。また、紙の私の部分には「e-taxで申告済み」と斜線を引いてくれとのリクエストです。)。
まぁ参入障壁の高いシステムです。
独り言
相続税の申告書をあれやこれやと資料を見ながら作成しました。それにしても、適正さはどこで判断するのだろうな?と感じました。もちろん、申告納税主義だとはわかっていますし、虚偽の記載はするつもりもありません。疎明資料は手元にあります。とはいえ、税法の理解不足などにより、誤った記載がないと胸を張れるとも言い切れませんし、散々悪態をついてきたe-taxの仕様で防げたのでは?という気持ちもあります。
送信した申告書をどの程度審査して、質問されたりするのだろうか、正直わかりません。ぼんやりとした不安を抱えながらの申告です。
相続税の納付(11月22日追記で完了)
申告の結果、母は納付ゼロ、姉と私が相続税を納付することになりました。姉は金融機関に赴いて納付書で納付、私は前述のとおり、e-taxによるダイレクト納付を選択します。
e-taxでまず口座の登録と納付の予約をします。私の場合、口座は居住地の税務署にいったん登録されるので、納付予約では、相続税であること、納付税務署は父の居住地所轄にすることで申請します。
その受付が終わった旨、e-taxのメッセージボックスに届くので、その画面から「ダイレクト納付」を選択します。データが登録金融機関に送られ、あっという間に送金されます(その銀行では振込時にはワンタイムパスワードがいるのですが、それも不要です)。送金したというメッセージがe-taxのメッセージボックスに届き、金融機関のアプリでも出金が確認されました。これで私自身は終わりです。(姉が納付しないと完了とはいきませんが)
以上で、相続に係るあれやこれやが完了しました。父を見送ってから8か月弱。手続きの面倒くささを痛感しましたが、これも義務ということで胸に収めます。
最後に~年老いた親を持つ方へのアドバイス
ある程度の年齢になったら、エンディングノート的なものを作成すると、遺された者にとって優しいです(自分自身も)。財産目録だけでも十分です。
親子が離れて暮らしていたり、親が地方から都会に出てくるなど、別の場所に何らかのつながりが残っている(旧家・田畑がある、墓があるなど)場合は、長い時間をかけた引継ぎを考えておくことを薦めます。
法定相続人であるか否かはともかく、「家系図」を作っておくことを薦めます。相続の関連手続(特に旧家や墓の対応)では、法定相続人でない親戚がちょっかい出してきたり(これは毅然と対応する)、逆に仁義を切っておく必要があります(亡くなった者にゆかりのある場所近くに住むなど)。葬儀にだれを呼ぶかなども含め、基本的な情報となります。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
何かのお役に立てれば幸いです。