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反省だけでは変わらない:言葉と行動で創る変革の組織能力

マラソンが趣味なので、時々自分のランニングフォームを撮影して改善を試みています。毎度、思うのですが、スマホの画面で再生される自分の姿は、頭で思い描いていたものと違います。

私たちは、想像力が豊かです。それに言葉を持っています。言葉は、いま目の前にないことであっても表現できます。また、その言葉から目の前に何もなくても互いに実物を思い描き共有することができます。ところが、完璧に現実を写し取れることはまずありません。言葉は、私たちの強みでもあるのですが、ときに落とし穴になります。「現場・現物・現実」の3現主義は、このことを戒めているわけです。

 一方、現実を見ても見えないこともあります。理想とする姿を思い描いていないと改善点が見えてきません。これは仕事でも同じです。あるべき姿を意識しつつ、実行に移し、振返りながら自分のありようを見つめてきたリーダーは、やはり優れた目を持っています。

先日、お客さま先でマネージャークラスの方々と業務の振返りをしていたときのことです。外食産業なのですが、なかなかパートやアルバイトの接客のクオリティがあがっていかないという話がでてきました。マニュアルはあるものの、徹底できていない。徹底できていないのは店長や自分たちマネジャーもどこか甘くなってしまっているから。何より、クオリティをあげてお客さまに喜んでいただこうとする熱意が足りないという反省の言葉が出てきました。

それを聞いていたある役員が少し違った見方をフィードバックしました。
「みんなの話を聞いていると、熱意はあると思いますよ。ただ、うちには『80:20の法則』って言葉があるじゃない。80の方は、マニュアルでやることだからそれは100%出来てなきゃならない。加えて、20の部分でもっと違うことにチャレンジしたり、自分なりの工夫でお客さまを喜ばせたりすることが大事。その20の議論ができてないんじゃないかな」

その場に居合わせたみんなが、はっとした様子でした。
この『80:20の法則』は、社内で長い間使われている標語の一つです。この言葉をみんな知っています。でも、彼が指摘するまで誰も言及していませんでした。言葉を知っていることと、それが自分たちの行動に表れていないことに気づくのには大きな差があります。

会社の成長を支えてきたこの役員は多くのチャレンジをしてきたことで社内でも一目置かれています。チャレンジするだけでなく、そのチャレンジが持つ意味やチャレンジすることで何を得られたか、次は何をしていくか、いつも考え、周囲に熱く語っています。恐らく、何度も「ああ、やはり『80:20』って大事だなあ」という体験をしてきたのでしょう。そして、周囲に語り、その意味するところを探求しつづけてきたのだと思います。

言葉を知っているだけでは、身に着いていることにはなりません。もちろん、言葉によって知識や考え方を知ることもできます。とはいえ、本当に「分かる」には体験がともないます。その体験もまた、体験しただけでは知恵になりません。内省して、その意味することを言葉として紡ぐことで自分なりの理解も深まっていきます。そして、これが我々にとって大事な原則だと思える合言葉のようなものが生まれます。

熱意がない、徹底できていないのはその通りなのでしょう。そういう反省は良いのですが、それだけでは次につながらない。反省したのだからそれで良し…と妙な免罪符になってしまうかもしれません。

反省は確かに大切ですが、それを次の行動につなげるには、具体的な問いと行動の方向性が必要です。例えば、「何を変えるべきか」「どのように工夫を加えるべきか」といった問いを持つことで、ただの反省が具体的な成長のステップに変わります。ここで重要なのは、言葉を単なる知識としてではなく、自らの体験や行動に結びつけて実践することです。

今回の役員の指摘が皆を「はっ」とさせたのは、80:20という言葉が単なる標語ではなく、自らの経験に基づいた生きた知恵として共有されたからです。言葉が意味を持つのは、それを使い、振り返り、価値を見出すプロセスがあってこそ。そして、それが個々の行動や組織の文化として浸透していくことで、初めて実効性を持つのです。

マラソンフォームの改善と同じように、仕事における反省やフィードバックも、理想を思い描きつつ、現実を直視し、試行錯誤を繰り返す中で少しずつ形を変えていきます。重要なのは、現場を見つめながら、理想と現実のギャップに向き合い、そこから学び続ける姿勢です。

こうしたプロセスを支えるのは、一人ひとりが持つ「言葉の力」と「行動する力」です。現場で働く人々が自分の言葉で反省し、考え、挑戦する。そしてそのプロセスが繰り返されることで、組織全体が成長していきます。この循環を大切にすることが、私たちが現場での改善を成功に導く鍵ではないでしょうか。

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