熊野古道伊勢路を歩くday7#1
南の山間から朝日がゆっくりと登り始めた。それに合わせて足元の影もゆっくりと伸びていく。
吐く息が白く芝生も薄っすらと霜で濡れている冬の始まりだ。
ここにきたのは随分前のことだ。まだ梅雨に入る前だが充分に暑い日が続く頃だった。
あれからこの地区一帯にクマアラート警報が発令さら気軽に山へ立ち入ることもままならない時期が続いた。
クマアラートは11月末を以て警報から注意報へ代わり、充分な対策や注意をして山へ入る事ができるようになった。
家族は皆心配をしてくれていたが、僕は朝日に照らされたマンボウのモニュメントにもう一度帰ってくる事ができた事に喜びを感じた。
12月8日(日)。実に半年ぶりに熊野古道伊勢路を歩きに、紀伊長島にあるマンボウの道の駅にやってきたのだ。
時刻は8:30を過ぎたところ。
時折風で飛んでくる雨が気にはなったが、差し込む朝日が出発の雰囲気を明るくしてくれている。
今日の予定は、マンボウの道の駅から始神峠入り口までいければと思っている。距離にして15kmほど。少し短めだが鈍った身体にはちょうど良い。
靴紐を結び直して柔らかい芝生の上から歩みを進めた。
海水と真水が混じり合う気水域の水面が朝日に照らされてキラキラしている。ここは片上池。横の遊歩道を冷えた身体を暖めるつもりでやや早歩きで進む。澄んだ水面にチヌの泳ぐ姿が見える。この先にある長島港には何度か釣りにもきた事があるが、その時はまさか歩いてここまで来るなんて夢にも思わなかった。
程なく紀伊長島の駅に着いた。
この辺りでは割と大きめの駅で、バスターミナルや無料の駐車場もあるから、地域生活の基盤にもなっているのだろう。だが日曜日の朝なのだろうか。人影はまばらだった。
途中、紀勢線を跨ぎ赤羽川を越え魚町へと入った。
ここで最初に目を引いたのが、街並みでもなく旧跡でもなく山へ登るいくつもの階段だった。
そう。この地域も南海トラフ地震などで津波の危険性が高いエリアなのだ。
津波タワーをはじめ、このような多くの避難経路が整備されて有事に備えているのだ。
もちろん、その地域の人達を守るための物なのだろうが、安心して熊野古道伊勢路を足を運べるありがたい階段なのだ。