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技術の値段

昔先輩に怒られた事のひとつ。
それは自分にとって簡単な作業だった。2分くらいで終わるような。
すぐに作業が終わったのでお客さんに工賃を請求しなかった。
それをお客さんが帰った後で先輩に叱られた。
先輩の顔色を伺いながら私は答えた。
簡単な作業だったので。と
先輩が私に尋ねる、整備士になって何年目だと。
そう整備士5年目のとても冷えた日だった。今でもはっきり覚えている。
先輩の口調は怖かったが怒ってはいなかったと思う。
「技術の安売りはするな。それは誰の為にもならない。」

さっき私が2分で終わらせた作業の後ろには5年が隠れているのだ。素人がその作業を故障探求を含め2分でする事は出来ない。
お客さんに2分の作業料を請求するんじゃない、5年と2分を請求するんだ。簡単な作業でもだ。
例えば料理人が数分で炒飯を作ったとしても、その数分で作る技術は何年もの技術の裏付けがあるから。
絵描きが絵を描くのも一緒。整備士も一緒。その他技術者と呼ばれる職業含めて全部。

全員がとは言わないが人は不思議なもので、お金がかかっていない物は大切にしない人が多い。
多数の部品が集まって出来上がっている車を大切に扱って貰わないと、ひとつの故障が大きな故障や事故に繋がる。
これは結果「オーナーの損」
自分はお金を貰わなかったせいで、その作業と前後の対応で数分無駄にしている。自分の時間を消費している。
これは結果「自分の損」
雇い主の会社は社員が本来稼ぐ工賃を稼げていない。
これは結果「会社の損」
会社の損は結果「全社員の損」
技術と言う商品に料金を付けられない。またそういう概念が消費者に広がってしまう。これは結果「全技術者の損」

それから私はこの時のように技術の安売りをする事は無くなった。しかしその代わり、お金を頂く以上それまで以上に責任感を持って作業をするようになった。

技術という商品を1番蔑ろにしていたは私かもしれない。

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