今の瞬間の自分を大切にしよう
はじめに
私たちは、日々仕事や家事、学業などの忙しさや責任に追われ、自分自身の心や体の声に耳を傾ける時間をつい後回しにしてしまいがちです。しかし、たとえあなたがどんな状況に置かれていたとしても、「その時々の自分」を大切にすることこそが、心の健康を保つための重要なカギとなるのです。
この記事では、なぜ自分を大切にすることが重要なのか、また、どのようにすれば自分を大切にできるのかについてお話ししていきたいと思います。
1.自分を大切にしないと、人生が壊れる
(1)忙しさに流される中で低下する自己肯定感
現代社会ではあらゆる場面で成果が重視され、また「A君は頑張ってるぞ。君も頑張らないとな。」などと他人と比較される機会も多いため、私たちは常に「もっと頑張らなければならない。」と感じながら日々を過ごしています。理想の姿や目標達成をめざすことは自分を向上させ、成長につなげていくためにも非常に大切です。しかし、それが「今の自分」を否定する形になっていたとしたら……自己肯定感はどんどん低下していきます。
自己肯定感が低下することにより、どのようなことが起こるのでしょうか?心や体に変調をきたすだけではなく、場合によっては社会生活全般にまで大きな影響を及ぼすことがあります。以下にその主な影響を挙げ、具体的に説明していきます。
(2) 心理的な影響
① 不安やうつ症状の増加
自己肯定感の低下が常態化すると、不安感や憂鬱な気分が増し、最終的にはうつ病や不安障害につながることがあります。「どうせ自分なんて」「何をしても失敗する」という思考が日常に入り込み、心の健康を損ないます。
② 感情のコントロールが難しくなる
自己肯定感が低い人は、自分の感情を表現することで周囲に迷惑をかけたり、否定されたりするのが怖いと思い込んでいるため、自分の感情を抑え込もうとしがちです。しかし、そのような状態が長期間続くと怒りや悲しみが抑えきれなくなり、感情が爆発します。
そして、感情を爆発させてしまった自分に対する自己嫌悪が起こり、ますます自己肯定感が低くなるという悪循環に陥ります。
(3)行動面での影響
①チャレンジ精神の低下
自己肯定感の低い人は、「どうせ自分には無理」と新しい挑戦を避ける傾向があります。その結果、可能性を広げる機会を失い、自分の成長を妨げます。
②人間関係の悪化
自己肯定感が低いと、「自分はみんなから嫌われている」と感じたり、「どうせ自分なんて必要とされていない」と思い込んでしまう傾向があります。その結果、他者とのコミュニケーションを避けたり、親しい人に対しても「心の中では自分を馬鹿にしているに違いない」と不信感を抱くことが増えてきます。
③無意識の自己破壊的行動
「自分の人生なんてもうどうでもいい!」と思い、アルコールの過剰摂取や過食、拒食など、自分を傷つける行動に出ることがあります。「自分はこれくらい酷い扱いを受けても仕方ない人間だ」という思いから、健康や安全を軽視してしまうこともあります。
(4)身体的な影響
①ストレスによる体調不良
自己肯定感が低いと、自分の価値について自身で認めることができず、すべて外部の評価や状況に依存せずにはいられなくなるため、常にストレスにさらされた状態となります。それにより自律神経が乱れ、頭痛、胃痛、睡眠障害などの身体症状が現れやすくなります。
② 慢性的な疲労感
「自分は頑張りが足りない。もっと頑張らなければ。」と過剰に自分を追い込むことで、心身の疲労が蓄積します。これが慢性的な疲労感や燃え尽き症候群の引き金となることもあります。
(5)社会的な影響
①職場や学業でのパフォーマンス低下
「自分は能力がない」と思い込むことで、自信を持って仕事や学業に取り組むことができなくなります。その結果成果もあがらず、周囲からの評価が下がることにより、さらに自己肯定感が低下して自信を失うという悪循環に陥ります。
②孤立感の増加
自己肯定感が低下すると、「自分は一人ぼっちなんだ」と、自分を他者と切り離す傾向が出てきます。「自分なんていても、どうせ周りの迷惑になるだけ」と思い込み、人との関わりを避けるようになり、孤独感が深まります。
③生きづらさの増加
自己肯定感が低下し続けると、自分らしく生きることからはどんどん離れていきます。社会的な役割を果たすことや、自分の意見を主張することさえも恐れ、日常生活で多くのストレスを感じるようになります。
外部との関わりを避け、友人や家族も含めた社会とのつながりが希薄になることから、引きこもりにもつながることもあります。
(6) 長期的な影響
①自己実現の阻害
自己肯定感が低いと、自分の能力や価値に疑いを抱き続けるため、夢や目標に向かって行動するエネルギーは当然湧いてきません。その結果、自分が本当に望む人生を歩むことが難しくなります。
②幸福感の低下
自己肯定感の低い人は、日常の中で喜びや幸せを感じることが難しくなります。「こんな自分が幸せになる資格はない」と思い込むことで、ポジティブな出来事さえも「そんないいことがあるわけない」と否定的に捉えがちです。
2. 「今の自分」を大切にするために
(1) 今の感情を認める
それでは、「今の自分」を大切にするためにはどうすれば良いのでしょうか?まずは自分自身が感じている感情に蓋をするのではなく、すべてを認め、ありのままに受け入れていくことです。あなたが感じるどんな感情も、すべてが意味のあるサインです。喜びはもちろんのこと、悲しみや怒り、不安だって、あなたの心が何かを伝えようとしているのです。
「こんなことくらいで落ち込んでいる場合じゃない」と感じるときもあるかもしれませんが、それを無理に否定する必要はありません。「私は今、気持ちが落ち込んでいるんだな、傷ついているんだな」と自分の心の声に耳を傾けてみましょう。そのように感じられた瞬間から、少しだけ心が軽くなるかもしれません。
(2) 完璧である必要はない
「完璧じゃない自分」を許すことは、決して妥協したり、自分を甘やかすことではありません。あなたが自身の心に優しくなるための第一歩です。人は誰しも不完全だからこそ、一つずつ経験から学び、成長していける存在なのです。「完璧にやらなければ」と思えば思うほど、心は疲弊してしまいます。
たとえ失敗しても大丈夫、自信を持てず、途方に暮れて立ち止まる日ややる気が起こらず休んでしまう日があってもいいんです。その経験こそが、次のステップに進むために必要なプロセスなのです。
(3) 他者と比較しない
SNSのキラキラした投稿や周囲から聞こえてくる声に触れるたびに、「みんな輝いているのに、自分はダメだな」と思ってしまうことがあるかもしれません。でも、それは果たして本当に正当で、必要な比較でしょうか?
他人の背景や常日頃行っている努力、苦労は他人からは目に見えません。誰もが生まれた場所も育った環境もすべて異なり、それぞれ違う道を歩んでいることを思い出してください。
他者と比べる代わりに、昨日の自分と比べてみて、「今日は昨日できていなかった仕事を終わらせることができたな」などと、「少しだけ前に進めた」と感じられる瞬間を大切にしてみてください。その視点をもつことで、あなた自身が日々確実に成長しているという実感がわくはずです。
3. 自分を大切にするための行動
(1) 小さな習慣を取り入れる
次に、自分を大切にするために今からできる行動について考えてみましょう。まず一番簡単なのは、確実に続けられる小さな習慣を毎日の生活に取り入れることです。
「全く新しい自分になろう」と大きな変化を意識する必要はありません。たとえば、朝起きたときに一度深呼吸をして「今日はどんな気分だろう」と自分に問いかけるだけでも良いのです。
夜には、一日を振り返って「今日感謝できることは何があったかな?」と考える習慣を取り入れてみましょう。こうした小さな行動を取り入れていくことが、忙しい日々の中でも自分自身を見失わないための大きな助けになります。
(2) 忙しさの中に「自分時間」を作る
「時間がない」と感じていても、ほんの5分でも自分のために使える時間はあると思います。その5分間で、心がホッとすることをしてみましょう。本を数ページだけ読む、好きな音楽を聴く、お気に入りの飲み物をゆっくり味わうなど、何でもOKです。わずかな時間でできるちょっとした行動が、あなたをリフレッシュさせてくれることでしょう。
(3) プロに頼る勇気を持つ
「自分がやるべきことは、1人で最後まで責任をもってやらなければ」とつい思いがちですが、時にはその重荷を下ろす勇気も必要なときがあります。行き詰まりを感じたときには、あなたの悩みや思いを信頼できる仲間や友人などに話してみましょう。また、身近に信頼できる人がいない場合には、カウンセラーなど心理の専門家にぜひ相談してください。世の中にはあなたが思っている以上に、真摯に話を聞いてくれる人がいます。
人に悩みを打ち明けることは、あなたが弱いわけではありません。それはむしろ自分を守り、大切にするため行動であり、強さの表れです。たとえすぐに問題解決にはつながらないとしても、話すだけで、心の中に新しい風が吹き込むこともありますよ。
4. それぞれの瞬間が人生を形作る
過去のつらかった経験や、うまくいかなかった出来事も、今のあなたを形作る大切な一部となっているとわかる時が必ず来ます。私も今振り返ると当時感じた数々の痛みが蘇ってくるのですが、それでも「これまでの厳しい時期があったからこそ、今の自分がある」と思えるようになりました。
もしかしたら、あなたは今「なんでこんなひどい目にばかりあうんだろう?」「自分のせいで周りに迷惑ばかりかけて、本当に情けない。」と思い、涙を流し、あるいは怒りに震える日々を過ごしているかもしれません。でも、一つだけ確かなことがあります。それは、あなたが今日まで生き抜いてきているという事実です。
さまざまな困難な状況に見舞われながらも、あなたは諦めずに一つ一つを乗り越えてここまで来ました。すべてを乗り越えてきた自分をぜひ褒めてあげてください。
そして、未来は今日という「今」の積み重ねで作られていきます。経験するすべての瞬間に何らかの意味があります。どんな小さな一歩も、あなたの人生を豊かにするための大切な一部であることを忘れないでください。
あなたが今感じていること、考えていることを否定せず、大切にしてください。その姿勢が、あなた自身をより豊かにしていくはずです。
おわりに
自分を大切にすることは、決して独りよがりでわがままなことではありません。それは自分が楽しく、豊かな人生を歩むために必要なことというだけではなく、周囲の人々とより良い関係を築いていくための土台となるものでもあります。それぞれの瞬間の自分を受け入れ、大切にしていくことで、心の健康を保ちながら、自分らしい人生を歩むことができるのではないでしょうか。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。