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『「介護時間」の光景』(83)「犬」。11.19.

 いつも、このnoteを読んでくださっている方は、ありがとうございます。おかげで、こうして記事を、書き続けることができています。

 この『「介護時間」の光景』シリーズは、介護をしていた時間に、どんなことを考えたのか?どんなものを見ていたのか?どんな気持ちでいたのか?を、お伝えしていこうと思っています。個人的な経験にすぎず、細切れの記録になってしまいますが、それでも家族介護の理解の一助になれば、と考えています。

 

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

 今回も昔の話で、申し訳ないのですが、前半は、20年前の2001年11月19日の話です。(後半に、2021年11月19日のことを書いています)。


 1999年から母親の介護を始めて、私自身も心臓発作を起こしたこともあり、仕事をやめ、義母の介護も始まりつつあり、母親に療養のための病院に入ってもらいました。その転院から1年がたった頃です。

(いつも「介護時間の光景」を読んでくださっている方は、「2001年11月19日」から読んでいただければ、繰り返しが避けられるかと思います)。


2001年の頃
 

 毎日のように2時間ほどかけて、母の病室へ通っていました。帰ってきてから義母の介護をする毎日でした。ただ、それだけを続けていました。

 自分が、母の病院に通っても、医学的にプラスかどうかは分かりませんでした。でも、通わなくなって、二度とコミュニケーションが取れなくなったままになったら、と思うと、怖さもあって、通い続けていたのが2001年の頃でした。

 2000年の入院当初は、それ以前の医療関係者にかなりの負担をかけられていたこともあり、やや大げさに言えば、白衣に、怖さすら感じていました。

 そういう気持ちは、それほど変わらず、1年経った頃も、まだ、うつむき加減で、母のいる病院に通い続けていました。周囲は、あまり見えていませんでした。

 それでも、毎日のように記録をつけていました。

2001年11月19日

「金曜日、土曜日。どちらも午前12時頃から、午前6時まで、道路のバイクの音がうるさくて、眠れない。
 久しぶりに、こんなにうるさくて、どうにかなりそうな気持ちになる。

 なんで、こんなに音が気になるのか。イヤになるのか。

 午後4時30分頃、ちょっとボンヤリしながら、病院に着く。 
 昨日の夜も眠れなかった。

 母も、横になって、ぼんやりしている。

 日付けも、よくわからなくなっているようだ。
 
 今日は、月曜日、といった後に、少しつたつと、木曜日、といっている。最初で合っていたのだけど、何かずれていく。
 
 それよりも、何かぼんやりとしている感じが強くて、そのぼんやりした度合いが、ひどくなっているように見える。

 食事は35分で終わる。
 少し元気になったか、分からない。

 いつも、ここで顔を合わせる患者のご家族には、いろいろとお世話になったりしているので、お礼のお菓子を渡せたのは、よかった。

 トイレは、何度も行っている。

 午後6時40分に、また行く。
 
 午後7時に病院を出る。
 帰ってから、今日も夜中にバイクがうるさいかも、と思うと、憂うつになる」。


 県道をトラックが走って、近づいてきた。

 夜の車内は、けっこうよく見える。運転手がいて、その隣の座席に犬が2匹いる。どちらも正面を向いて、わりときっちりと並んで座っている。

 その、なんだかもっともらしい姿のまま、通り過ぎていった。

                   (2001年11月19日)


 その生活は続き、2007年で、母が亡くなり、病院へ通うことはなくなった。その後、義母の在宅介護を妻と一緒に続けながら、勉強を始め、大学院に入り、2014年に臨床心理士の資格を取得した。その年から、介護者相談を始めることもできた。その後、2018年の年末になって、義母が急に亡くなり、介護生活も19年間で、突然終わった。完全に昼夜逆転になった生活を整えるのに時間がかかり、その頃にはコロナ禍が始まっていた。


2021年11月19日

 今度の日曜日に、家にお客が来る。 
 生後1年経っていない小さな子供も一緒なので、いろいろと考えたら、ちょっと夜に眠れなくなった。

支度

 家に久しぶりに人が来るから、1階の部屋を掃除したり、テーブルなどを用意したり、いろいろな支度を妻がすすめてくれていた。

 今日は、やっと、私も一緒に掃除をしたり、エアコンのフィルターをはずしたら、ホコリが固まりのようにたまっていた。それも水洗いをして、干した。

 座布団も日にあてる。
 しばらく時間がたってから、ひっくり返す。

 天気はいい。

 柿の実は色づき、鳥がよく来るようになり、渋柿なのに、と思うけれど、その葉っぱまで色が濃くなってきている。

 いろいろと考える。

 こたつは一つだと4人が座るには小さいけれど、もう一つ、座卓を並べるには、大きすぎて、スペースを取りすぎしまう。どうしよう。迷って、来客に問い合わせてみたら、こたつが必要なくなった。よかった。

 昼ごはんは、久しぶりに1階の部屋で食べた。それは、ヒーターのスイッチを入れて、部屋の温度が大丈夫かどうか確かめる目的もあった。

 こたつをつけなくても、大丈夫のようだった。

買い物

 日曜日の来客のため、必要なものを買いに、久しぶりに妻と二人で、大きなスーパーへ出かけた。

 途中の道で、ゆずがあったり、紫のバラが咲いていたり、大きなみかんが実っていたり、他にも、自分一人では気がつかないような植物に、妻は気がついて、教えてくれた。

 スーパーについて、小さい赤ちゃんがくるので、その敷きパッドや、体にかけるためにひざかけや、あとは、ラジオの情報の影響で、これから鉄のフライパンにしたい、という妻の希望で、フライパン売り場をみた。

 そうしたら、ほぼ1つしか鉄製がなく、しかも、今までのよりもかなり重いので、今回は、あきらめた。

 その後、来客が来るので、いつもよりも、いいお茶や、紅茶のティーバッグや、リンゴジュースなども買って、荷物は多少重くなったが、それで、帰ってきた。

 人が来ることは、もうない。

 コロナ禍が続いているときは、そう思っていて、でも、今は感染が落ち着いているから、遠方から人が来てくれるし、いろいろと準備をしているときは煩わしさも、もちろんあるけれど、もしかしたら、今を過ぎたら、またコロナ感染者数が増大するのではないか、という薄い恐怖心や不安も抜けないから、今、会える人に会った方がいいようにも思っている。


出前

 人が来てくれる時に、食事をどうすればいいのか、ということは、やっぱり悩む。

 人を招くことに元々慣れてない上に、コロナ禍で完全に、その感覚を忘れているから、また再始動するように人を呼ぶのは、しんどいものの、それでも、食事は、出前でお寿司、ということに決めて、来客にも確認が取れた。よかった。

 昨日の夜に、出前専門のお寿司にしようと思って、サイトをみたら、日曜日の予約はもういっぱいのような「?」のマークになっていた。それを思い出して焦っていたが、買い物に行って、いったん帰ってきて、また出かけて、お金を下ろしてくる。

 仕事は少ないままで、でも、お金を使っていて、これでいいのだろうか、と毎回、通帳を見て思って、暗くなり、貯金を崩すような生活がいつまで続けられるのか、と思うと、怖くなる。

 帰ってきて、また出前の寿司のサイトをみたら、日曜日の予約が取れることがわかった。妻と相談して、どのメニューにするかを決めて、バタバタしたけれど、一応は予約が取れて、ちょっとホッとした。

封筒

 夜に、もう一度、日曜日にも使うためのものを洗濯する。

 それを干してから、ポストをみたら、出版社の名前の入った封筒が入っていた。この前、このnoteに書いているような内容で、「家族介護者」のことを書籍にしたいという企画書を送った会社だった。

 もう何社にも送っているけれど、こうして反応があるだけでも珍しく、ありがたいことだったけど、その文章の中に、厳しい出版事情により、企画の受付などは控えている、という表現や、小説に関しては、応募をお待ちしています、といった文章を見て、なんだか、ガッカリする。

 最初から有名だったり、それこそバズったり、ある程度の売り上げが見込める人しか、出版できないのであれば、まるで、就職活動で、「経験者を求む」と言われ続けている未経験者のような気持ちになる。どこも働かせてくれないから、経験を積みたくても積めない。そんな気持ちに近かった。小説でもなければ、ノンフィクション賞に適応するような内容でもない。

 仕方がないのかもしれないけれど、どうすればいいのか、分からない。

 無名の人間にとっては、企画書を送るしか、書籍化の可能性もないのに、それ自体を受け付けてくれないのであれば、ただ不可能なことを繰り返しているのだろうか、と思って、虚しくなる。


 明日は、感染の落ち着いている時期だから、やっと久しぶりに会える人がいる。
 それは、やっぱりうれしい。



(他にもいろいろと介護のことを書いています↓。よろしかったら、読んでくださると、うれしいです)。



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