家族介護者の支援について、改めて考える⑧「家族介護者の支援」の伝わりにくさについて。
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初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
私は、臨床心理士/公認心理師の越智誠(おちまこと)と申します。
この「家族介護者の支援について、改めて考える」は、家族介護者へ必要と思われる、個別で心理的な支援について、いろいろと書いてきました。
そして、その必要性を感じながらも、相談窓口が広がっていかないことに対して、自分自身ができることは限られていますし、微力なのも分かりながらも、変化しないことに対して、無力感を覚えながらも、7回に渡って考えてきました。
勉強会
臨床心理士になってから、もしくは、臨床心理学を学ぶようになってから、私が、同業者の方々に関して感じていることの一つが、よく勉強する、ということです。
それは、民間資格でありながら、例えば、様々な現場で他の国家資格を持つ専門家の方々とも働いていく、という環境の中で、資格としての「質」を上げるための努力のようにも感じています。そして、臨床心理士は5年ごとに更新のシステムなのですが、その間に、研修などを受けないと、更新できないことになっています。
それだけでなく、それぞれが一人職場で働いていることも多いので、秘密保持の原則は守りながらも、仕事に関する「勉強会」などは、様々な場所で開かれています。
私も、機会があれば、参加してきました。
ただ、ここ何年かは、家族介護者の個別の心理的支援のことを伝えても、「臨床心理学で扱う分野ではないのでは」といったようなことを言われることもあり、その話題については、専門家の方々には、あまり積極的に伝えなくなってきていたのかもしれません。
介護相談について伝えたいこと
先日、久しぶりに、勉強会で、家族介護者の個別の心理的支援……介護者相談のことを話す機会がありました。
その勉強会は、臨床心理士/公認心理師といった心理職だけでなく、医療職や、さらに幅広い職種の方々が参加されている多職種の「勉強会」でした。
そこで、介護相談のことを伝えたことで、様々な知見を得ることができました。
自分が見えてなかったこと。見えにくい点などについての指摘もあり、それは、自分にとって「痛い」ことでもありましたが、今後の臨床活動などにプラスになることでもあり、とてもありがたい経験になりました。
この記事↑の中で、介護者相談を「何を目的として行っているか」という部分があります。
これは、「なぜ、家族介護者への個別な心理的な支援が必要なのか?」。さらに言えば、「こうした支援に、できたら心理職が関わった方がいい理由」といったことにもつながっていますし、改めて伝えたいことだと、「勉強会」が終わった後に、思いました。
長くなりますが、改めて引用します。「介護者相談」を、何を目的として、どのようにおこなっているのか、という内容になると思います。
①まずは、この相談の時間で、ほんの少しでも気持ちが楽になってもらうこと。
これは、傾聴に徹することで、目の前に、理解までいかないとしても、理解しようとしている人がいることで、孤立感が少しでも減ること。または、人がそこで自分の話を、真剣に聞いていることが生む作用としか言いようのないものでもあると思います。
ただ、最も気をつけることは、それが心の底から本気であることです。ここに少しでも嘘が混じると、返って相手の方を傷つける場合もありますし、一般的な印象ですが、現在、追い詰められたり、困った状況にいらっしゃる方ほど、そうしたことに敏感で、とても鋭いと感じています。だからこそ、こうした相談を受ける側には、日々のトレーニングが必要になるのだと思っています。
②不安が少し明確になること。
気持ちの中で、いろいろなことを悩むと、それは際限なく膨らむ性質があると考えられます。
不安が、心に最も悪いとも言われていますが、不安とは、はっきりしないから、不安なので、本人が言葉にしていき、その言葉を自分の耳で聞き続ける時間があることで、困難や不安が、少し形をとって、具体的なものとして把握できる可能性が出てきます。それは目の前に聞き手がいることで、よりスムーズに進むことだと思います。
③新たな視点に気がつくこと。
そんなに毎回ではないのですが、話をして、そのご自身の言葉を聞いて、それで気持ちが整理されることで、今までは気がつかなかったこと。例えば、自分を助けてくれる可能性のある人や、窓口や、サービスなどが、実はあることに気がついて、そのことで、具体的な支援を増やせるきっかけに気がつけることもあります。
④意味を見出せること
自分のやっていることに意味がないと思うと、人はとても辛くなります。話したからと言って、介護負担そのものが軽くなることはないのですが、話を聞いている人がいて、理解をしようとしている姿によって、自分の行為に意味があるのではないか、と思え、意味を見出すきっかけになることもあります。
環境は変わらなくても、負担は変わらなくても、自分の介護に意味があると思えるようになれば、気持ちの負担感は少しでも減少する可能性が出てきます。
⑤具体的な情報を試してみる余裕ができること。
個別の心理的な支援をしていると、その相談する相手として、信頼感を持ってもらうこともあります。
人の言っていることを受け入れるには、ましてや、試してみることは、相手を信頼しなければ、難しいですし、さらには、混乱している時はより困難になると思います。
話をすることを続けることで、気持ちが整理されて、少しだけでも余裕ができることで、初めて、具体的な情報も耳に入ってきやすくなるのでは、と考えられます。
こうしたことも、相談を受ける側が、反射的に起こる自分の思いに飲み込まれず、その思いはいったん横に置いて、検討して、相談に有効だったら、その思いも利用する、といったことができるようなトレーニングをしている場合に、ようやく可能になることだと思います。(私も、微力ながら、そのために、努力と工夫は続けているつもりです)。
なお、この相談の際に、整えていただきたい環境があります。
1、基本的に秘密が守られること。(自傷他害の恐れがある場合を除きます)。
2、 安全な空間で、相談ができること。
3、1回あたり、50分ほどの時間を確保できること。
4、介護者が希望するのであれば、継続して相談を続けられること。
こうした条件が揃うことで、個別での心理的支援は、家族介護者に対して貢献できる可能性が高まります。
改めて感じた「伝わりにくいこと」
そして、改めて伝わりにくいことでもあるし、自分の課題でもあることが、少しわかりました。
一つは、相談の間隔について、です。
自分が担当させていただいている「家族介護者のための相談」の窓口は、それほど多く開催できていません。それは、私自身の力不足が大きいのですが、その制限の中で、介護相談を続けてきましたし、例えば、3ヶ月に1回のペースであっても、継続したほうがいいと考えてきました。
場合によっては、もっと頻繁に相談を行うべきなのでしょうが、それでも、なんとかギリギリの今の状況でも、相談の継続の意味があると思っています。
ただ、特に心理職や医療関係者の方々にとっては、「3ヶ月に1回」など、それだけ間隔が開いてしまう「相談」なり「面接」は、単発で行うことと変わりがないのでは、というもっともな疑問があるようでした。
心理療法を始めたフロイトは、毎日のように面接を行っていたという「歴史」から始まっていますし、「面接」というのは、今でも出来れば週に一度、どれだけ開いても、月に一度のペースを守るのは、常識だと思いますので、私が行っていることが、継続的な支援になっていないのではないか、ということを思われても仕方がありません。
それでも、介護者は「いつまで続くか分からない」負担感の中で暮らしていて、その状況を、なるべく理解しようとする相手に話をすることで、そして、理解しようとしている人間がいるということで、それが3ヶ月に1回であっても、少しでも負担感は減らせるのではないか、と考えています。介護者相談も、8年目を迎えて、そうした相談の継続方法に、ある程度の手応えは感じています。
本来であれば、もっと頻繁に相談を続けられるよう、努力をすべきなのでしょうし、そうしてきたつもりもあるのですが、現状を変えるのが難しいのであれば、この中で、少しでも利用者の方に役に立つような相談を継続していくしかないことは、伝わりにくかったのかもしれません。
それでも、どんな条件であっても、自分の能力を上げて、さらに質の高い相談を目指すのは当然でしょうし、相談回数自体を増やす努力や工夫は続けていきたいと、改めて思いました。
家族関係について
もう一つは、家族関係について、です。
介護者相談の回数が限られていることもあり、私自身は、何しろ、介護中の負担感を、どのように軽減するのか。そのことに、まずは集中していて、その方法を、自分では、ごく当然のように考え、選択しています。
ただ、他の専門家の方々から見ると、それよりも、家族関係とのことに、もっと注意を向けるべきではないか、ということが気になるようでした。確かに、こうした場合に、家族との葛藤に対して注意を向けるのが、心理や医療の専門家の方から見たら当然なので、確かに、その部分は、個人的な優先順位としては低くなっていると思いました。
介護をしている場合に、そのご家族との関係性に葛藤があれば、そこに対して、きちんと話をするのが、基本だとは思うのですが、相談時間が限られている場合は、そこに向き合ってもらう前に、まずは介護の負担感を、いかに少しでも軽くするか?に集中していると思います。
もし、可能であれば、家族との葛藤があれば、それを話し合っていく機会も作りたいのですが、介護中は、介護負担感のせいで、家族関係へ向き合うこと自体が、難しいとも、思っています。
ただ、まずは介護負担をどう減らすかについて、相談を進める基本は守りながらも、必要に応じて、家族のことも、話すこともしていきたいと思いました。そのためには、私自身の臨床家としての能力を、もっと高めていく必要性も、強めに感じました。
いつまで続くか、分からない
ただ、どちらにしても、介護が続く限り、それが「いつまで続くか分からない」負担感がとても重く、しかも周囲に理解されにくい。それを最初のテーマにしていくのが、おそらくは「介護者の支援」をする時には、大事ではないか、といったことは、ずっと考えてきました。
もちろん、そこにとらわれ過ぎることはなく、介護者支援のために何が大事なのか、は更に考えていきたいとは思いましたが、「いつまで続くか分からない」介護がもたらす、独特の介護の負担感の重さについては、専門家に対しても、もっと具体的に伝えていくこともしないといけないのではないか、と改めて思いました。
今回は、個人的な経験から思ったことばかりで、申し訳なかったのですが、いろいろと対話をしていく中で、今までやってきたこと。これからやろうとしていること。介護者支援に関しては、それほど大筋では間違っていないことも確認できましたし、個人的には、得るものも多かったので、やはり機会があれば、様々な立場の方とも、対話をしていくのは、とても大事なことだと、改めて思いました。
(他にも、介護のことを、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、ありがたく思います)。
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