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「介護時間」の光景⑯  「オブジェ」 7.10.

 もうずいぶんと昔のことで、すみません。19年前のことですが、前回『「介護時間」の光景⑮ 「穴」2001.6.30.』から、10日後のことになります。母親の入院する病院へ「通い介護」をしている頃です。


オブジェ

 いつものように東海道線の電車に乗っていた。
 戸塚駅を出て、大船にもうすぐ着く。
 この季節の山は本当に濃い緑で、電車が走って、山が見える角度が違っても一面、やっぱり緑だった。
 その電車が動いて、風景も動いていく中で、山の上に白く大きな物体が見えてきた。
 大船観音と知ってはいるけれど、後ろからだんだん角度が変わっていくと、奇妙なオブジェにしか見えない。
 観音様と分かれば、それほどでもないのだろうけど、そのことを忘れているような時は、角度によっては、緑の山の上に白い巨大な異物がある、としか見えない瞬間が確実にあったことも思い出す。
 それも何回か。
 有機的な形の巨大な物体が山の上にあるのは、改めて考えると、不思議だった。

                  (2001年7月10日)。


 この日も、比較的多くメモを残していました。


 
「午後3時40分頃に病院についたら、母親がさっそくトイレに通っている。
 これで2度目だから、を繰り返している」

 去年、この病院に転院してきた。
 それまで入院していた病院とはいろいろとあって、自分もそこで心臓の発作を起こして、循環器の医師に、もう少し無理すると死にますよ、と言われていた。
 病院への不信感と怒りが、まだ抜けなかった。

「病院には何も期待してはダメだ。
 病院や医師に対して、根本的に不信感が抜けないんだと思う」

 病室で、母と過ごす。

「母は、きょうは7月9日と、言った。
 トイレへ3度も、4度も行って、しばらく戻ってこなかった。
 でも、毎回、『これで2度目よ』を言い張っていた。
 だんだん強く言うのは、ちょっと怖かったけど、まあまあ元気で、一緒に病室のテレビで、相撲をみた」

 時間は、早くすぎる。

「午後7時頃、病院を出る。
 いつもお世話になっている病院の人に、
 『できることじゃないんですよ』
 と、ほめられるようなことをいわれる」。

 この10日間で、5回、病院に来ていることを言われたのだろうが、それは、不安で来てしまっているだけだった。この一年間で、1日おきにきても、毎日通っても、母にとっては、毎日来ているような感覚らしいので、少しペースを落としてきた頃だった。
 
「それから、さらに、言葉が続いた。

 いいおかあさんだったんでしょうね。

 微妙な過去形になっていた。
 少し悲しい」。



2020年7月10日。

 午前4時過ぎに、1度、トイレに起きた。
 まだ暗い外を見たら、人影が見えた。
 今日はゴミ収集日で、ご近所の人がもうゴミを出していた。

 去年までは、この時刻は、私もまだ起きていた。
 義母の介護をしていて、午前5時過ぎまでは、みていたので、眠れなかった。
 母は2007年に亡くなっていて、義母が急に亡くなり、介護が突然終わったのが、2018年の12月だった。

 それから1年半がたって、やっと、午前3時は、遅い時間、という感覚になってきた。午前4時や午前5時は、もう、眠っていることがほとんどになっただけでなく、自分の意識自体が届かない世界になってきて、あれだけ、なじみがあった深夜から早朝が、遠くなってきた。

 違う世界に暮らすようになってきたような、ちょっと寂しいような、不思議な感じがある。

 また寝て、午前9時過ぎに、起きたら、妻が、残念なお知らせが、と言われる。
 それはネズミのことだった。古い木造の家だから、時々、出てくる。食物の残りは、すぐに密閉されたゴミ箱に捨てたり、かなり気を付けていて、最近は、気配がなかったから、がっかりはした。

 部屋に飾ってある花を食べられて、それが分かった、という。

 カーネーションが食べられていたので、まだ生き残っている花と、少し食べられていたオンシジウムを、さらなる被害をふせぐために、妻は外に出して飾ってくれた。

 玄関のすぐ外の古い机の上に置いた。


 また、ネズミと戦うことになるかと思うと、憂うつにもなる。


  (2001年の時の記録には、多少の加筆・修正をしています)。




(他にも介護ついて、いろいろと書いています↓。クリックして読んでもらえたら、うれしいです)。

介護離職して、10年以上介護をしながら、50歳を超えて臨床心理士になった理由②

「介護相談」のボランティアをしています。次回は、2020年 7月22日(水)です。

『家族介護者の気持ち』 ①介護のはじまり・突然始まる混沌

介護の大変さを、少しでもやわらげる方法① 自然とふれる

介護の言葉① 「介護離職」

介護に関するリクエスト①「気分転換をしようとしても、悪いことが起きるような気がします。どうしてでしょうか」


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