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私の言葉を引き出してくれる音楽(推しについて語るときに私の語ること①)

自分の「好き」を具体的な形にして見せてくれる存在


ほんの1年ほど前まで、自分が「オタク」になるなんて思ってもみませんでした。それまで「推しのいる人生」とは無縁の日々を送っていたのに、突然の沼落ち・・・!

そして今や、毎月のようにライブに通い、「最近推しができまして!」と周りに喋りまくり、暇を見つけては曲を聴いたり動画を見たりしては「あー、やっぱり美しいなぁ」とうっとり。推しは違えど、好きな対象を語り合えるオタク友達もできました(これがまた楽しいのです)

そんな私の推しは、ギタリストの井上銘さん。井上さんは私にとって、「私の好きな音楽」を具体的な形として見せてくれる存在です。今まで人並みにいろんな音楽を聴いてきて、好きだなと思う曲もたくさんあったけれど、さりとて「私の好きな音楽って一体どんなの?」と訊かれても、なんだかぼんやりしていました。

でも、彼の音楽を聴くようになってから、「あー、これこれ!私の好きなものってこんな形をしてるんだー!」とすごくしっくりくるのです。何度聴いても飽きるどころか、聴く度に少しずつ自分の「好き」を発見していけるような気がしています。自分には作れない、自分の感覚にピッタリくるものを、他の人が見せてくれるというのは、なんだか不思議なものだなと思います。

そして、誰かを無条件に応援するということの楽しさも知りました。頼まれているわけでもないのに、コスパもタイパも吹っ飛んでしまいw、好きだというだけで応援しちゃう。自分の中にある、他者に対する温かな部分(愛といってもいいかも知れません)を感じられると同時に、自分の毎日が生き生きとして、やはり「推しは偉大」なのです。

人間は応援される(愛される)のも嬉しいけど、もしかすると応援する(愛する)ことでより幸せになれる生き物なのかも知れない、と身を持って感じています。

演奏にインスピレーションをもらって浮かんでくる言葉

さて、私は長年、村上春樹さんの小説を愛読していて、「どうして音楽をあんなに生き生きと言葉で記述できるんだろう?」と不思議に思っていたんです。ところが、初めて井上さんの演奏を聴いた時に、突然頭の中に「真摯さ」という言葉が浮かんできてびっくりしました。

私は仕事としても、生活の中でも、「言葉で世界を捉える」ということを日常的に行っているのですが、誰かの音楽にインスピレーションをもらって、言葉が浮かんでくるなんていうことは初めての経験でした。

経営思想家ピーター・ドラッカーの著書の中にも、マネジャーに必要な資質として「真摯さ(integrity)」という言葉が出てきます。昨年からドラッカーマネジメントを基にしたグループコーチングに参加しているのですが、ファシリテーターの方がよく「この『真摯さ(integrity)』とは『全人格的』であること、つまり個人としての自分と立場としての自分を使い分けたりせずに、『いつも一貫した自分であること』です」というお話をしてくださいます。この文脈で捉えると、私が井上さんに対して感じる「真摯さ」がどういうものなのか、よく理解できる気がします。

どんな会場で、どんな共演者と、どんな曲目をやる時も、いつもその瞬間に自分のギターから発せられる一音一音が、自分に嘘のない、心からの音楽であろうとしている、私にはそんな風に感じられます。そこが私が一番惹きつけられているところだと思います。

そして、度々ライブに行ったり、アルバムを聴いたり、動画を見たりしているうちに、「真摯さ」の他にも「美しさ」「楽しさ」「温かさ」という言葉が浮かんでくるようになりました。きっとこれは、彼が音楽で表現している(と私が感じているもの)を、私も文章や言葉で表現したいと願っているからなんだろうと思います。

音楽を体感的に蓄積して、言語表現に生かす

そう考えると、今まで全く別物だと思っていた音楽と言葉が、意外と近い関係にあるのではないかという気がしてきました。村上さんは、デビュー作以来「『文章を書く』というよりはむしろ『音楽を演奏している』というのに近い感覚を大事に保っている(そして、特にジャズが役立っている)」とおっしゃっていますし、詩人の萩原朔太郎は「詩は何よりもまづ音楽でなければならない」と語っていたそうです。

言わんとすることは私にもわかるような気がします。私も文章を書くとき、読んでくださる方に心地よいリズム感や響きを感じていただけるといいな、といつも思います。あるいは、一つの記事が一曲であるようなイメージを持って、Aメロ→Bメロ→サビのような展開があったり、文章の中に盛り上がりがあったりしながら、テンポ良く流れに乗って、全体がさらっと心地よく流れていくようなものを書くことを目指しています。

そしてそれは、まずは自分の中に表現したいと思うリズムや響き、展開や盛り上がりのイメージが体感的にないと、なかなか出てこないものだと思います。なので、好きな音楽を聴いて、自分にしっくりくる感覚を蓄積しておくということは、単に心地よいというだけでなく、今度は自分が言葉で表現する時にも「実際的に」役に立ってくれるものです。

というわけで、私にとっては推し活も、このnoteのテーマである「アート活動を本業に生かす」そのものなのです。

※写真は井上さんがリーダーを務めるバンド”STEREO CHAMP”のライブで撮影したものを使わせていただきました。

その②「『好き』をベースに、自分の中に拠り所となる場所を育てる」に続きます。







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