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映画と精神医学(1): スターウォーズ
本記事は全文無料公開となっております。
皆様、こんにちは、鹿冶梟介(かやほうすけ)です。
今回は精神医学に関する新シリーズ、「映画と精神医学」を紹介いたします。
実は映画の中には「精神医学」に関連した作品は数多く存在します。
例えば、精神疾患そのものを題材にした映画や、登場人物の言動が精神疾患をモデルにしている映画などがありますし、映画の俳優・女優が、実際にメンタルヘルスの問題を抱えてる場合もあります。
そして本シリーズ最初のテーマは「スターウォーズ」です。
最初から、「え!?スターウォーズって、精神疾患の患者っていたっけ?(そもそも人間ではない登場人物も…)」「鹿冶さん、またタイトル詐欺ですか?」
そんな声が、フォースと共に聞こえてきますが、私は声を大にして言いたい…。
「...し、失礼な!ちゃんと、スターウォーズは精神疾患と関係があります(断言)!」
そもそも、今回の話題は米国精神神経学会という由緒ある学術学会で提言された内容をベースにしておりますがな!
…と、いうことで、本記事ではスターウォーズのメインキャストの一人、ダース・ベーダー卿のメンタルヘルスについて解説します。
なお、本記事はネタバレ要素を含みますので、スターウォーズシリーズ(少なくともepisode1-6)を視聴された方のご高覧を推奨いたします。
【スターウォーズとは?】
巨匠ジョージ・ルーカスが製作した宇宙戦争映画、...否、”スペースオペラ”である。1977年に第一作が公開され、現在エピソード9までが上映されている(スピンオフを除く)。
【ダース・ベーダー卿とは?】
本作帝国軍における暗黒卿(要は悪の親玉)。主人公ルーク・スカイウォーカーの“宿敵”。しかし、その正体はルークの父親アナキン・スカイウォーカーであった!
【境界性パーソナリティ障害】
では、ここからダース・ベーダー卿のメンタルヘルスについて解説いたします。
このぶっ飛んだ話は、2007年アメリカのサンディエゴで開催された「米国精神神経学会(APA:the American Psychiatric Association )」で、Eric Buiという精神科医が「ベーダー卿は、境界性パーソナリティー障害である!」と発表したことが発端です。
ところで皆様は、"境界性パーソナリティ障害”という疾患名を聞いたことはありますか?
“パーソナリティ”は”人格"という意味ですが、パーソナリティ障害とは認知、感情、人関係など幅広い意味での“考え方や行動の偏り”と考える方が適切です。
(決して、その人の人格を否定する意味の疾患ではありません)
また「境界」とは、神経症と統合失調症の二つの病気の中間地点「境界」にある病気、という意味だそうです。
まずは同障害の診断基準を見てみましょう。
境界性パーソナリティ障害 301.83(F60.3)
対人関係、自己像、感情などの不安定性および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
1.現実または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふり構わない努力。
2.理想化とこき下ろしの両極端を揺れ動くことによって特徴付けられる、不安定で激しい対人関係の様式。
3.同一性の混乱。
4.自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも二つの領域に渡る。
5.自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し。
6.顕著な気分反応性による感情の不安定性。
7.慢性的な空虚感
8.不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難
9.一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離症状
上記のうち、5つ以上が該当すれば境界性パーソナリティ障害と診断。
各項目をみて分かるように、かなり重篤な疾患ですよね…。
上記診断基準を見て、「メンヘラ」という言葉を思い出す方もいるかも知れません。
「メンヘラ」は医学用語ではなく、“精神的に不安定で、周囲を振り回す人”の俗称です(諸説あり)。
確かにメンヘラさんは、境界性パーソナリティ障害と重複する部分がたくさんあります。
しかし、境界性パーソナリティ障害 = メンヘラさん、ということではありませんので、ご注意を!
【ベーダー卿のメンタルヘルス】
上記の境界性パーソナリティ障害の診断を踏まえて、ダース・ベーダー卿のメンタルヘルスを考察します。
元ネタの論文は、先ほど紹介したEric Buiという精神科医が2011年に発表した医学論文です。
尚、論文と他の文献に基づき、不肖、鹿冶が診断基準との照合結果を再構成いたしました。
Is Anakin Skywalker suffering from borderline personality disorder? Bui E et al., Psychiatry Res, 2011
<目的>
映画スターウォーズの登場人物「ダース・ベーダー卿」のメンタルヘルスを評価する。
<方法>
スターウォーズepisode1-6を参考に、ダース・ベイダー卿(アナキン・スカイウォーカー)を精神医学的に診断した。
診断はDSM-IVの診断基準に基づいて行われた(DSM-5とほぼ同じ基準)。
<結果>
1.現実または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふり構わない努力。
該当: 妻を失うことをずっと恐れており、妻に捨てられないように必死で努力し、かつてのジェダイの仲間を裏切るまでになった。
2.理想化とこき下ろしの両極端を揺れ動くことによって特徴付けられる、不安定で激しい対人関係の様式。
該当:ジェダイの師匠を理想化することと軽蔑することを繰り返していた。
3.同一性の混乱。
該当: ダークサイドに落ちた後、自分の名前を変えたのはアイデンティティ(同一性)の乱れを示す!
4.自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも二つの領域に渡る。
非該当
5.自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し。
非該当
6.顕著な気分反応性による感情の不安定性。
該当: 若い頃から軽率かつ衝動的で、エピソードIIでは無謀な運転や飛行を繰り返す。エピソードIIIでは、早々にDooku卿を切り捨て暗黒面に落ちた。
7.慢性的な空虚感。
非該当
8.不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難。
該当: 衝動的で、怒りのコントロールが困難。怒りに任せてタスカン族を全滅させ、ジェダイ聖堂で若者を虐殺...。そして何よりも、ジェダイの騎士は平和主義なのに、やたらとライトセーバーを振り回す!
9.一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離症状。
該当: 非常に鮮明な予知夢に苦しんでいた。さらに彼が愛する人々が苦しんでいるビジョンを見て、それが夢か現実かわからず、人々を救うことに執着する。
<結論>
診断基準のうち9項目中6項目が該当するため、ベーダー卿は境界性パーソナリティ障害に罹患していた可能性が高い。
【鹿冶の考察】
この「ダース・ベーダー卿、境界性パーソナリティ障害説」の学会発表の記事を初めて目にした時、「ほぇ〜…、真面目な学会で、こんなアホなことを発表するんか」と呆れました。
しかし、この発表をきっかけに、私は映画やドラマを「精神医学」という視点で観る癖がつき、以前観た映画であっても「ひょっとして、この人物は精神疾患だったかも?」と新鮮な気持ちで観ることができます(2度おいしい)。
(時々、映画を見ながら「この人物は◯◯病っぽいね...」なんて家内に言うと、ちょっとウザがられますが…)
それにしても、精神医学は本当に奥が深い学問だと思います。
医学の分野は様々ありますが、空想上の人物まで診断するのは、おそらく精神医学だけではないでしょうか!?
【まとめ】
・映画スターウォーズの登場人物ダース・ベーダー卿の精神医学的考察を紹介しました。
・診断基準(DSM-IV)によると、ベーダー卿は境界性パーソナリティ障害である可能性が高いです。
・実臨床では全く意味のない研究ですが、それでもロマンを感じませんか?
【参考文献】
1.Is Anakin Skywalker suffering from borderline personality disorder? Bui E et al., Psychiatry Res, 2011
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20537718/
2.The borderline connection: case 1: Anakin Skywalker
https://theborderlineconnection.com/2019/10/12/case-study-anakin-skywalker/
3.Darth Vader’s Psyche: What went wrong ?, MedicineNet
https://www.medicinenet.com/script/main/art.asp?articlekey=81265
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